第35話 戦いの後に

 陸と近藤は朝霞駐屯地内にある陸自研究本部に来ていた。

 ここは兵器の研究、開発、評価をする部門であり、GAT隊の戦闘服もここで考案されていた。


 陸達は本部長の執務室に通されると、そこには真壁ゴブリン対策室長と廣田研究本部長、藤田開発部長が来客用のソファーに座りタブレットの画面を見て話し込んでいた。


「失礼します!」


「待っていましたよ。まあ座って下さい」


 廣田本部長は真壁室長とは旧知の仲であり、物腰の柔らかい人物だ。


「ハッ、失礼します」


 陸達がソファーに座ると、昨日の作戦についての話が始まった。


「陸佐、昨日はご苦労様でした。作戦映像を見せて頂きましたが大変貴重な映像でした。我々の装備開発にも大いに役立つと思います」


「ハッ、恐縮です」


「映像はこれから分析するとして、今日呼んだのはゴブリンの幼体をどう扱うかです。今、君の父上と、ここでは室長と言った方が良いかな? 相談していた所です」


 廣田本部長は、そう言ってタブレットの画像を陸に見せた。

 そこには、昨日捕獲したゴブリンの幼体が鉄格子の檻に入っていた。


「これは?」


「この映像はリアルタイムな監視映像です。ゴブリンはこの建屋の2階にいます。後で実際に見ますか?」


 陸はうなずいた。


「陸、例の物は持ってきたかい?」


「はい、近藤、出してくれ」


 近藤はテーブルの上に、ロングソードと黄色の宝石を10個並べる。

 真壁室長はその宝石の1つを手に取り、廣田本部長を見て話を切り出した。


「廣田、唯一この剣だけが、ゴブリンにダメージを与える事が出来るのだ。そして、この剣の柄の宝石と、ここにある10個の宝石が非常に似ていると思わんか?」


「むむ〜、非常に興味深いっ!」


 今まで黙っていた藤田開発部長が呟いた。彼は根っからの研究者で、マッドサイエンティストという影の異名を持つ男だ。


「真壁室長、貴方の考えが分かりましたよ。この宝石を使って、この剣と同じ物を作れという事ですね? そしてゴブリンの幼体は効果の確認に使えという事ではないですか?」


「さすが廣田だ、話が早くて助かるよ。ハハハハ」


 真壁室長と廣田本部長は握手を交わして打合せは終了した。その後はゴブリンの幼体を見学して解散となった。


「陸、GATの戦闘映像を見せてもらったよ。沖田総子さんは凄いな?!」


「はい、昨日は彼女のお陰で作戦を遂行できました」


「彼女を死なせるなよ!」


「はい!」


 そう言うと、真壁室長は迎えの車に乗込み、朝霞駐屯地を去って行った。



☆☆☆☆☆☆☆



 一方、山南陸尉は自衛隊中央病院を訪れていた。

 病院には専用の個室が用意されており、山南は白衣に着替えると、ユーチューバーのミンミン、本名宮下美紀の担当医と話をする。


「彼女の具合はどうですか?」


「はい、現在は薬で眠っております。昨夜、ここに運び込まれた時は錯乱状態だったので大変でしたが……。それよりも、これを見て下さい!」


 担当医は2枚のレントゲン写真をパソコンの画面に映し出した。


「左が運び込まれた午前4時の写真。そして、右が先程撮った正午の写真です。午前4時の写真には何も写ってませんでしたが、先程撮った写真には赤ちゃんが写っているんです。どういう事でしょうか?」


 山南は少し考えてから話を始めた。


「あの〜、先生は昨日の事件の事を、どこまで知ってらっしゃいますか?」


「いえ、あまり……ゴブリンに酷い事をされたという事は聞いておりますが……」


「実は、私はGAT隊のメンバーで、昨日は現地でゴブリン掃討作戦に参加しておりました。そこで発見した拉致被害者の女性のお腹が膨れており、その場でゴブリンを出産して亡くなりました。後でその被害者が拉致されたのが2週間前と聞いて驚いていたのです」


「……その〜、つまり、性交してから2週間で出産という訳ですか?」


「はい、そういう事になります」


 担当医は驚いた顔をして、頭の中で計算を始める。


「もしそうなら、人間の20倍の速度で成長している事になりますね。そうすると、母体に影響のない範囲で堕ろすには1週間。いや安全を見て5日以内に堕ろす必要がありますね?」


「はい、問題は彼女の心のケアですが、それはこちらでお引受け致します。先生には引き続き精密検査と中絶する為の準備をお願い致します」


「分かりました。全面的に協力させて頂きます」


 話が終ると、2人はミンミンの病室へと向かった。



☆☆☆☆☆☆☆



 時間は少し遡る。


 創真が異世界へ転移した直後、日本では大変な事件が起きている事を知らない創真は、のんきに魔物を討伐していた。


「 臭っせぇ〜!」


 手のひら程のオーガ虫。脅威はないがとにかく臭い。


 作物にかじりついている所を、後ろから近づいて叩き斬るだけなのだが、切った時に放たれる匂いが、とにかく臭い。


 お昼にギルドの伝言板を見ると、明日の朝8時に東門でファームガード集合の連絡が入っていた。


 今日は残り半日しかないので、手頃な魔物を狩る事にしてマップを見た。

 マップには、レベル3なのに報酬が銅貨50枚という割高のオーガ虫がいたので、安易にそれに飛びついたのだった。

 

「タケじい、服に匂いが付くんだけど何とかならないか?」


「はぁ〜、ワシはお主の召使いではないわっ!」


 オーガ虫が割高な理由をなんとなく理解した創真であった。

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