第18話 風の剣に一目惚れ

 チュン、チュン……


 とても気持ちの良い朝、小鳥のさえずりで目が覚める。

 目をこすりながら添え付けの時計を見ると、針は8時を指している。

 初めての異世界、初めての魔物討伐、最初の目標達成、そしてふかふかのベッド。


 こんなに優雅な朝は何年ぶりだろう!


 朝のまどろみを楽しんでいると、視界にタケじいがニコニコして現れた。


「おはよう、タケじい」


「創真よ、良い知らせじゃ。レベルが2つ上がっとるぞ!」


 オレはステータス表示を念じる。


大和創真 Lv4

魔法障壁 Lv1

スキル

1.英雄遺伝子

2.異世界転移

3.交渉術

4.短剣術


 おわっ!  スキルが2つも増えている。


 なんだか自分の挑戦した事がスキルに現れてる様な気がするのだが……


 とりあえずスキルの内容を見てみよう。

 まずは交渉術から、えいっ!


『交渉術とは、相手とスムーズに会話が出来る様になる。レベルに応じてこちらの意思が通りやすくなる』


 これは、きっと香織パパやカレンさんと話した経験がスキルになってるんだな。

 まあ、これから色んな人と交渉する機会が増えてくるから有効なスキルかも。


 次は短剣術か。えいっ!


『短剣術とは、短剣を上手く扱える様になる。レベルに応じて技量が上がる』


 これは、スライム討伐の経験だな。


「創真よ、だいぶアイズウィンドウの扱いが上達したようじゃな」


「へぇ〜、このステータスの画面って、アイズウィンドウっていうのかぁ?」


「ふ、ふ〜ん! どうじゃカッコええじゃろ〜?」


「本当にそういう名前だったのかぁ?」


「カカカッ 今考えたんじゃ! だから、ステータスを見たい時は『アイズスウィンドウ・オープン』と叫んぶのじゃ!」


「するかっ!」


 とは言ったけど、案外かっこいいと思った。


 しかし、最初の2つと比べるとレア度が低い様だ。まあ、レベルが上がる度にポンポンとレアスキルばかり出てきたら、それはそれで不気味だ。この辺りが丁度良いのかも知れない。


 オレがスキルの鑑定をしているとドアが鳴った。


 コンコン、コンコン


「はい」


「お客さん、朝食の準備が出来ました」


 宿屋の従業員に返事をし、出発の準備を済ませると1階の食堂へ赴いた。


 朝食はバイキング形式になっており、パンにチーズ、目玉焼きにベーコン、それにサラダを山の様に皿に盛り、ミルクをジョキ一杯に入れて席に着くと、手を合わせて一気にほおばる。

 宿屋の従業員は不思議な顔をしてこちらを見ていたが、そんなの関係ねぇと早々に朝食を平らげる。

 とても旨かったので、次もここに泊まろうと誓い宿屋を出て武器屋へ向かった。


 武器屋は同じ中央の通りに面しており数分で到着した。


 サイフには金貨5枚と銀貨5枚、鋼の剣を11本買う事ができる。11本だと200万+10✕50万=700万円の大儲けだぁ!

 オレは勇み足で武器屋に入った。


「いらっしゃい。なんだ、昨日のアンタか」


 昨日は武器屋の店主と少し会話をしただけなのに覚えていてくれた様だ。

 しかし、また見に来ただけと思われ少し素っ気ない。


 オレは少し虚勢を張った。


「店主さん、お金が入ったので剣を買いに来たんだけどぉ……」


「えっ、そうでございますか。お客さん、良い剣が入ってるんですよぉ〜。これなんかどうですかぁ?」


 変わり身の早い店主は、奥のテーブルに並べてある高そうな剣の中から、若干細身のシンプルな一振りを持ってきた。


 カネを持っていると答えただけで、えらい態度の変わり様である。さすが商人という所か。


「お客さん、これは風の剣といいまして、風と土の魔石をバランス良く調整した初級者向けの逸品です!」


 オレは店主が薦めてきた剣を手に取り、軽く素振りをしてみた。


 な、なんだコレ! 


 柄が手に馴染む。しかも軽い。そして、振り下ろした時の威力が重い。柄を見ると、緑と黄色の魔石が埋め込まれている。


 欲しい! 


 なぜか心が動いた。値札を見ると金貨6枚と書いてある。


 金貨6枚かぁ〜。オレの所持金は金貨5枚と銀貨5枚。あと銀貨5枚が足りない。だけど欲しい。一方で、香織パパの依頼も達成したい。

 

 どうしよう……


「スキルを使ってみたらどうじゃ」


 タケじいに言われて思い出す。今朝出現した交渉術スキルがあるじゃないか。

 まあ、やるだけやってみよう!


 スキル、交渉術発動!


「店主さん、これは良い剣だねぇ〜。いくらだい?」


「これはお客さん、お目が高いですね~。金貨6枚になりますが買われますか?」


「それがねぇ〜、今持ち合せが無くてねぇ~、近い内に異国の故郷からお金が届くんだけど、そしたらこの店の剣を全部買い取りたいと思っている。だけどねぇ〜、届くのを待ってられなくてねぇ〜。今どうしてもこの剣が欲しくなっちゃったんだけど手持ちが金貨5枚なんだよねぇ〜。まけてくれない?」


 武器屋の店主は、昨日のオレとの変わり様に驚いていたが、異国人で金貨を5枚も持ち合せている事からオレの言葉を信じた様だった。

 確かに日本で現金50万円を持ち歩いていたら、金持ちと勘違いしなくもない。


「お客さん、うまい事言いますねぇ〜。しょうがない、金貨5枚にまけときましょう!」


 オレはサイフから金貨5枚と銀貨5枚を店主に渡して言った。


「ご主人ありがとう。追加で鋼の剣も一本もらうよ!」


 武器屋の店主は何が起こったのか分からず目を白黒させているのをよそに、オレは風の剣と鋼の剣を持って、悠々と武器屋を後にした。

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