武器商人は忙しい！〜日本壊滅かぁぁあ！？弱小ゴブリンに自衛隊はお手上げですっ！🪖

第16話 スライムを侮るな！

　オレは今日の稼ぎを得る為に、目撃情報の掲示板に目をやった。

　掲示板には、この街を中心とした大きな周辺マップが貼られており、そこに魔物の名前の付箋紙が出現場所にピン留めされている。

　付箋紙は、弱い魔物は水色、並の魔物は黄色、強い魔物はピンクに色分けされていて、かなり見易い。

　掲示板の端には魔石価格表が貼ってあり、弱いモンスターから順に魔石の買取価格が分かる様になっている。

　オレは１行目を見た。なになに〜

　スライム　銅貨１０枚

　安っ！　鋼の剣を買うには５０匹も倒さなければならないのか。

　順に下を見ていくと、１０行目にゴブリンが出てきた。

　ゴブリン　銀貨１枚

　おお〜、そう言えばポケットに日本で倒したゴブリンの魔石があるぞ。

　更に見ていくが、名前を知らない魔物ばかりで、今一ピンとこない。

　しかし、最終行にオレでも知っている魔物が記載されていた。

　ドラゴン　プラチナ金貨１０枚

　こんなヤツ、いったい誰が倒すんだぁ〜？

　これ以上見ても分からないので、再びマップに目をやる。

　この街から一番近い水色の付箋を探すと、街の西側を流れる小川付近に、スライムと書かれた付箋を見付けた。

　スライムは安いが、初めてだし時間も無いので仕方がない。

　距離を確認すると、オレが転移してきた北側の丘と同じ位の位置なので、そう遠くはない。たぶん日没までには帰ってこれるだろう。

「タケじい、このスライムの討伐はどうかなぁ？」

「うむ、練習にはちょうど良いじゃろう」

　早速オレは西門へ向かった。

　西門に到着し、外へ出ようとしたオレは門番に呼び止められる。

「おいアンタ、今から出て行くのかい？　もうすぐ午後５時だ。午後７時には門が閉まるから早めに帰って来るんだぞ」

　えっ、この世界に時間の概念があるのか？

　そう言えば、さっきタケじいも３時とか言ってたな。

　オレは門番に聞いた。

「あの〜、今の正確な時間は何時ですか？」

「アンタ、時計も持ってないのかぁ？」

　門番は呆れた顔をして、ポケットから懐中時計を取出し見せてくれる。

　時刻は４時４０分を指していた。

「ありがとうございます。直ぐに帰って来ます！」

　オレは門番に礼を言って街を出ると、２０分程で目的地の小川に辿り着いた。

　川幅３メートルの小さな川の周りには広大な田畑が広がっており、ここが農業の街である事を思わせる。

　川辺を探しながら歩いていると、川の側にある畑で異様に蠢く複数の物体を発見した。

　それは、収穫前の玉ねぎに群がるスライム。数はおよそ５０匹。

　おお〜ありがたい。こいつ等を倒せば鋼の剣を１本買える！

　オレはゆっくりと玉ねぎ畑に近づいてスライムを鑑定した。

スライム　Lv 1

魔法障壁　Lv1

スキル　溶解

　さすが雑魚ナンバーワンのスライム、負ける気がしない。

　オレは勇み足で短剣を抜く。

「待てっ！」

　タケじいの静止も聞かず、オレはスライムの群れの中へ飛び込んだ。

　そして、１匹目のスライムに短剣を突き刺すと、水色の魔石がドロップした。

　なぁ〜んだ、簡単じゃないか！

　続いて２匹目に短剣を突き刺した時、側にいた数十匹のスライムが一斉に襲いかかってきた。

　数十匹のスライムはオレの体にへばり付き、振り払おうとしてもなかなか取れない。

　すると、タケじいが叫んだ。

「創真ぁ〜、一時撤退じゃぁぁ！」

　オレは熱くなってタケじいの声も聞かずにスライムを刺しまくる。

　ザクッ！　ザクッ！　ザクッ！

　ジーンズの上着は軽く跡が付く程度だが、腕まくりをしている素肌にへばり付かれると、ジュッと音がして皮膚にやけどを負ってしまう。

「痛ッ！」

　体にへばり付いたスライムを手で引っ剥がし、投げ捨てては止めを差す。

　しかし、剥がした側から新たなスライムがへばり付く。

　オレは、無我夢中でスライムを刺し殺した。

「ハァハァ、コノォッ！　コノォッ！」

　気が付けば、襲いかかってくるスライムはもういなくなっていた。

「創真よ、大丈夫か？」

「あぁタケじいか、腕がジンジン痛むけど大丈夫だ」

「そうか、大怪我せんで良かったわい。今更じゃが、スライムは単体では弱いが、集団だと牛をも殺すから気を付けないといかんぞ」

　本当に今更だよ！　とは言えない。オレも興奮してタケじいのアドバイスを聞かなかったのだから……

「さて、魔石を回収しようか！」

　オレは畑に散らばった水色のスライムの魔石を、一つ一つ袋の中に入れていく。すると、１つだけ黒光りをする魔石を見付けた。

「タケじい、１つだけ変わった魔石があるんだけど……」

「ややッ！　それはメタルスライムの魔石じゃ。かなり高価なものじゃぞ！」

「本当かぁ！　幾らになる？」

「ワシも見るのは初めてで相場は分からんが、貴重な物である事は間違いない。しかし、直ぐにお金の話をしてくるとは、創真はすっかり商人じゃな〜。カーカカカ！」

「ほっとけよ！」

　オレは悪態をついたが、心の中では凄く嬉しかった。

　初めての討伐で目標の金額に到達した事。そこにレアなスライムが混じっていた幸運。

　達成感で胸が込み上げてきたオレは自然に声が出ていた。

「ヤッタあー！！」

　オレの無邪気な姿に、タケじいは胸をなで下ろし微笑んでいた。

　結局のところ、今日の成果はスライム５０匹、メタルスライム１匹だった。

「創真よ、もう６時３０分じゃ。急いで戻らねば城門が閉まるぞえ」

　オレはハッとして、城門へ向かって走る。

　ようやく城門が見えてくると、門番が門を閉めている所だった。

「待ってぇぇ〜！」

　門番は急いで駆けてくるオレを見ると、動作を止めニコニコ笑って出迎えてくれた。

「お帰りぃ〜、ぎりぎり間に合ったな」

「ハァハァ、ありがとうございます！」

　オレは門番にお礼を言って街に入った。