第3話 高嶺の花

 午後から記者会見が始まり、園田本部長が淡々と経緯を説明する。


「昨日、桜島で起きた出来事を発表させて頂きます。昨日は午前8時から捜索隊60名が山の捜索を始めまして……」


 昨夜の会議の結果、亡くなった人数の多さと銃が効かない摩訶不思議な現象に、下手な言い訳をするよりも真実を話す方が良いと判断した園田本部長は、斉藤警部の報告と同じ内容を、ありのままに発表したのだった。

 但し、行方不明の女性の話は衝撃が強過ぎるため、公の発表を伏せる事にした。


 発表が終わると、会場に大きな衝撃が走った。ゴブリンが人を襲った事。捜索隊49名が殺害された事。銃や刃物が効かない事。怪力である事。

 あまりにも衝撃的な内容に、記者達はざわつき、どよめき、何を質問して良いのやらで、大いに混乱していたが、ようやく一人の記者が質問を始めた。


「銃が効かないのはなぜでしょうか?」


「弾丸は確かに命中したのですが、ゴブリンの皮膚に当たると、そこで弾が止まりポトリと落ちてしまうんです。理由は皆目見当がつきません」


 園田本部長に代わり当事者の斉藤警部が答弁するが、不毛な質問に気付いた記者はそれ以上の質問をやめた。

 続いて別の記者が質問をする。


「今後はどのように対処するのですか?」


「我々では対処出来ないので、本庁に詳細を報告しました。おそらくは自衛隊が動く事になるかと思います」


「……」


 その後は園田本部長が答弁し、同じ様な問答が繰り返されて記者会見が終わった。


 その夜、各メディアは『ゴブリン襲撃事件』を一斉に報じた。


「大変な事が起こってしまいました! 昨日、桜島捜索隊がゴブリンの襲撃を受け49名が死亡しました。

 ゴブリンは、実は凶悪で腕力は人間以上、決してゴブリンには近づかないで下さい!」


 ゴブリン襲撃事件に日本中が震撼した。

 そして、ゴブリンは臆病な妖精だと勘違いしていた人々は、この日よりゴブリンは凶悪で危険な怪物だと認識を改めたのだった。



☆☆☆☆☆☆☆



「おはよぉー創真君!」


「あっ香織か、おはよう!」


 彼女は同じクラスの真壁香織。才色兼備でクラスのヒロイン的存在だ。なぜか登校時によく話しかけられるのだが、オレに好意を持っているのだろうか?

 いやいや、高校を卒業したら彼女は大学、オレは就職するので所詮は高嶺の花。

 それに、彼女の父は自衛隊の高官で、いずれは防衛大臣と囁かれている。大臣令嬢ともなれば、ますます住む世界が違ってしまう。

 きっとオレの気のせいだろう……


「創真君、昨日のニュース見たぁ? 大変な事になっちゃったね」


「そうだなぁ〜、だけど桜島の話だろ? 東京のオレ達には関係ないんじゃないか?」


 ありきたりの返事をすると、なぜか香織が不安な表情でオレを見つめる。

 オレは、とっさに父親の職業を思い出した。


「ごめん、もしかしてお父さん出動するの?」


「まだ分からない。だけど可能性はあるって言ってた」


 えっ、もしかしてまた袋小路なのかぁ? 根拠も無いのに、大丈夫とも言えないし、心配ないとも言えない。


 そういえば、香織はよく答えのない質問をしてくる人だった。

 先日も通販サイトをオレに見せて、どっちの帽子が似合う?って聞かれたので、ピンクと答えたら、え〜白も可愛いのにぃ〜って、どっちだよ! と心の中でツッコミを入れた事を思い出す。

 

「こんな時はどう答えればいいんだぁ〜?」


 オレが心の中で叫んだ時の事だった。


「創真よ、この場合はきっと大丈夫だよと答えるのがベストじゃ!」


「???」


 突然、頭の中から声が聞こえた。周りを見渡すが香織以外に誰もいない。とりあえず天の声に従って香織に答える。


「きっと大丈夫だよ!」


「うん、ありがとう!」


 香織は頬を赤らめて嬉しそうにうなずいた。オレはからくも正解を引き当てたのだった。



☆☆☆☆☆☆☆



 同じ頃、陸自九州第8師団の第一中隊が、桜島島民救出作戦を開始していた……。


 中隊が桜島に4方面から上陸すると、見るも無惨な死体が至る所に打ち捨てられ、地獄さながらの光景に中隊の隊員達は息を呑む。また、生存者の姿はどこにも無く、捜索範囲を広げて山に入ると、中腹辺りでゴブリンの奇襲を受けた。


 ダダッ、ダダダッ、ダダダダダダッ!


 ダーンッ、ドカーン、ドドドドドッ!


「な、なんで銃弾が効かないんだぁぁあ!」


「うわあぁぁっ、こっちに来るなあぁぁ!」


「ひぃぃぃぃ! 助けてくれぇぇぇええ!」


「撤退、撤退、撤退せよぉぉぉ!!」


 機関銃や手榴弾で応戦するも、ゴブリンには効果がなく、いいように殺られる。

 上空のヘリは弓矢で撃墜され、装甲車もキャタピラーを壊されて動けなくなる始末。

 結局は1人の生存者も発見する事無く、40人もの戦死者を出して撤退した。


・・・・・・・


 その夜、防衛省の会議室では密かに議論が交わされていた。

 防衛大臣以下自衛隊幹部が席に座り、スクリーンには九州第八師団長と中隊長が映っている。


「生存者は一人も発見出来なかったのだな?」


「はい、家の中も含め、どこにもおりませんでした」


 防衛大臣は中隊長の言葉を確認すると、決断を伝えた。


「よし、桜島の島民は全てゴブリンに殺害されたものとみなし、明後日ミサイルを使ってゴブリン殲滅作戦を実行する! 第八師団長よろしく頼む」


「了解しました!」


 九州部隊がスクリーンから消えた所で大臣が尋ねる。


「真壁君、ミサイルは効果があると思うかね?」


「そうですねぇ~、銃火器もダメ、ヘリでも近づけないとなると、選択肢はミサイル攻撃しか無いですが、もし効果があるとしても洞窟に逃げこまれると厄介です」


「そうだな、明後日の結果を見てから考えるとしよう」


 防衛大臣から、回答出来かねる質問を受けた陸自幕僚の真壁は、苦笑いを浮かべて遠くを見た。



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【真壁香織のイメージ画像】

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