燃ゆる、本能寺・復讐するは魔王の娘

@nobu1534

第1話

『やっと、貴様に引導を渡す時が来たみたいだよ』


女はそう言って仕込み杖から剣を抜き、背中を向けて座っている信長にゆっくりと近付いて行った。


天正十年六月二日、早朝ー。


この時、法華宗本門流大本山である本能寺は燃え盛る紅蓮の炎に包まれていた。


織田家重臣、惟任日向守が突然謀叛を起こし寺を襲撃して来たのである。


そんな激震の中、数奇な運命に導かれた二人が遂にこの場で初めての対面を果たしたのであった。


『その方、何者であるか・・・』


信長は振り返る事なく、低い声で女に問うて来た。


『それを知ってどうする』


同じように低い声で女は答えた。


『どうやら、十兵衛の手の者ではないようだの・・・

 で、その方もわしの首を取りに来たというのか?』


『ああ、その通りだよ』


『その方、女か。

 声からして、まだ若いとみえるが・・・

 そんな娘が、何故にわしの首を欲するのだ?』


『恨み、ただそれだけさ』


『恨み・・・?』


『そうだよ!

 貴様は、あたしの大切な母様と家族を虫ケラのように殺した。

 その恨み悲しみを今こそ晴らし、貴様の首を三条河原に晒してカラスの餌にしてやるのさ!』


女は怒りに身を震わしながら、この場に現れた理由を明かしていった。


『母様とな・・・それは一体誰のことを言うておる?』


信長は何故かそのことが気になり、女に尋ねた。


するとー。


『冥土の土産に教えてやる。

 あたしは、貴様がごみ屑のように捨てた元正室・お農の方の娘だよ!』


『なっ・・・何だとっ!?』


この瞬間、信長は驚きの余り思わず立ち上がり後を振り返った。


そして呆然としたまま、しばらく言葉を忘れ女の顔に見入っていたのであった。

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