第17話・俺はデスパンチが好きです


 親父直伝のデスパンチは、心臓に拳をぶち込んで心臓震盪を起こす必殺技である。

 食らえば、不整脈を起こして死に至らせる。このまま放置しておくと、マジで死ぬが、もう一回デスパンチを入れることで、裏返って活法となって息を吹き返すのだ。


「デスパンチ!!」


 うめくルーキー狩りの胸に再度、デスパンチをくらわせてやった。デスパンチは心臓に打ち込む角度が重要なので、慣れるまで大変だ。

ちなみにスーパーデスパンチなる必殺技もある。これは心臓の鼓動と関係している迷走神経を殴って、心臓を強引に停止させる技なので、相手はガチで死ぬ。


 ルーキー狩りは、呼吸を荒げながら信じられないモノでも見るかのように俺を見ていた。仰向けに倒れたままの男を冷然と見下ろす。


「動けば殺す」


とりあえず尋問が必要なので、サッカーボール大の炎の球を右人差し指の上に生じさせた。


「逃げれば殺す。歯向かえば殺す。魔術スキルを使っても殺す。わかったら『はい』と言え」

「はい……」

「これから質問をする。返答以外の言葉を喋った瞬間、お前の顔を焼く。あと、俺が嘘だと思っても顔を焼く」

「そんな!」


 叫んだ瞬間、火の球を顔の前まで落としてやった。男が「ひっ!」と声をあげる。同時にズボンの股間が濡れていた。


「次は無い」


 男は恐怖に歯を鳴らしていた。

 新人女冒険者をボコボコにするようなサディストなのに、自分がやられる側になった途端、これだよ……。


 なんか、ほんと、クズっているんだな……。


「きちんとカメラで撮ってくれよ」


 と助けたルーキーたちに言う。全員、怪我や麻痺は治癒魔術ヒールで治しているので、よく働いてくれている。


「お前はルーキー狩りだな?」

「はい」

「名前は?」

「石黒達央です」

「お前が襲った連中と一緒にいた中級冒険者もグルだな?」

「……はい」


 背後で新人たちが「マジかよ」とか言っていた。騙されてショックらしい。まあ、無理も無い。だが、世の中、そんなもんだ。


「随分と手が込んでるな。お前、初めてじゃないだろ?」

「え……?」

「嘘をつけば顔を焼く」


 男の顔の前まで火の球を落とした。チリチリと男の前髪が焼ける嫌な臭いが立ち上ってくる。


「よく考えて答えろよ」

「は、はじめてじゃありません」

「何回目だ?」

「二回……ぎゃああああああああああっ!!」


 嘘だと思ったので、容赦なく顔を焼いた。男は叫びながらのたうっている。この辺は編集でカットしないとな……。


「嘘つけ。二回目でこんな手の込んだことしねぇだろ? 手馴れすぎなんだよ。何人殺したか、お前のダンジョンフォン調べればすぐにわかるんだぞ?」

「ご、五回目です!!」


 男が泣き叫ぶのでうるさい。しかたがないから治癒魔術ヒールで治してやる。


「五回か……全部、裏動画配信サイトにアップロードしたのか?」

「は、はい……」

「何人殺した?」

「え?」

「何人殺したか? って聞いてるんだよ」

「に、二十三人……」


 その数に引いた。

こんなん、完全にシリアルキラーじゃないですか……。

 初回動画から大物すぎない?


「お前、完全、アウトだな……」


 かといって、俺は殺人なんてしない。動画にできないし、俺も捕まる。てか、そんな人を殺した手で莉子の頭を撫でられるわけがない。


 とはいえ、右も左もわからない新人冒険者を二十人以上も狩っていたという石黒には嫌悪しか感じない。反吐が出そうだ。視聴者的にも、多少、こいつが痛い目を見たほうがウケるだろうし……。


「ま、待ってくれ! 俺を殺すと、あんたもまずいことになる!!」

「よし、勝手に喋ったな。焼くぞ♪ ウェルダンがいいか? ミディアムがいいか? レアは無しな♪」

「聞いてくれ!! お、俺は<屠雷罵流>に所属してる! 俺を殺せば、メンバーが許さないぞ」

「あ、でも、焼くのはコンプラ的にアカバンされそうだな……グロ動画になっちまう」

「話を聞いてくれ! 本当に俺を殺さないほうがいい!! 今なら忘れてやるから!!」


 雷霆疾攻ボルトの雷光を手のひらに生じさせる。バチバチと空気が帯電しはじめる。


「死んだ二十三人に変わって天誅仮面が天誅を執行する!!」

「やめっ!」

「うるせぇ! 少しは他人の痛みを知りやがれっ!!」


 死なない程度に電流を調整した雷霆疾攻ボルトを石黒に叩き込んだ。


「ぎゃああああああああっ!!」


 ビクンビクンと痙攣している絵は、ちょっと滑稽だ。これくらいならグロ扱いされたりはしないだろう。


「さて、お前らの引率の中級冒険者を追うぞ」


 カメラを持った天童君に話しかけた。


「え? でも、先輩、普通に強いですよ……?」

「強かろうと迷惑系は滅ぼす。それが天誅仮面の使命なんだ! チャンネル登録よろしくね!!」


 俺はビシッとポーズを決めながら、カメラに向かって叫んでやった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る