第14話・俺はツンデレ幼馴染が嫌いだ
土日を使って遊佐たちの動画を、配信サイトにアップロードしておいた。
自首した先で嘘をつく可能性もあるので、それは許さんぞという意思表示である。スマートフォンで動画を編集し、ネットカフェを使ってアップロード。
それだけで土日を全て使ってしまったが、まあ、変な充足感があった。
魔王はこちらの世界の技術やら情報に興味があるらしく、インターネットに興味津々で、とにかく情報が欲しいとゴチャゴチャうるさい。あまりにうるさいのでシャットダウンして黙らせたら、朝から機嫌が悪かった。
『たしかに私がうるさかったことは認めるけど、なにも丸一日放置は無いんじゃないのかな?』
学校へ向かう途中、ゴチャゴチャうるさかったので「悪かったよ」と念話で答える。テキトーに相手をしつつ駅へと向かい、モノレールに乗った。
学校最寄りの代々木駅で降りると、多種多様な学生の数が増える。
人間だけではなく、いわゆる魔人種と呼ばれるエルフやドワーフ、獣人などがワラワラとモザイクのように行きかっている。また年齢層もバラエティに富んでいた。下は十代だが、上は三十代から四十代とも見えるおっさんなんかが制服を着て歩いているのだ。
代々木冒険者スクールは冒険者育成のための学校だ。
人種年齢問わず、冒険者に必要な技術を教え、在学中は初級冒険者としてダンジョンへの出入りも許される。
卒業するまでに下級冒険者の試験を突破しないと、冒険者にはなれないのだが……。
「ねえ、真央! 知ってる!?」
いきなり背後からぶつかられた。聞きなれた声に朝からため息が出てしまう。
「……なんだよ?」
背後から奇襲してきた奴に振り返る。
香月ルナだ。
髪の毛を金髪に染め、化粧もばっちりしているギャル。世間一般的には美少女とか美人と呼ばれる顔つきだろう。ウェーブのかかった金髪が朝日を浴びてキラキラ輝いているし、睫毛も長い。
まあ、それ以上に頭についてる猫耳と、背中のブラウスとスカートの間から伸びてる尻尾が特徴的だろう。いわゆる猫型の獣人だ。
「うわ~、朝からどこ見てんの~?」
ざっくりブラウスの胸元を開け、ヒョウ柄のブラが軽く見えている。
「いや、別に見たくて見てるんじゃないんだけど……」
デカい胸に目が行くのは男の反射のようなものであり、ぶっちゃけ好きだからとかそういう感情は一切無い。ていうか、俺はルナが苦手だ。いや、苦手というか、嫌いまである。
「なに照れてんの? プププ……これだから童貞は……」
毎度の如くメスガキ風笑顔を浮かべながら俺を煽ってきやがった。
まあ、俺のメスガキ煽り作法は、主にこいつから学んだことだ。そして、俺はメスガキ系女子の跳梁を許しはしない。相手が美少女だろうと何だろうと失礼な奴には失礼な態度で返す。そもそも童貞弄りは立派なセクハラだからな。
「うるせぇ、処女。なんちゃってギャル。香水がくっせぇから近づくな」
「なっ! 臭くないもん! いい匂いだもん!! てか、香水じゃなくてボディオイルだし!」
絡んでくるくせにレスバが弱いので、すぐに涙目になりやがる。秒速でわからさせられるなら、煽ってこなきゃいいのに……。
「朝から嫌がらせするために近づいてくるんじゃねぇよ。AクラスはAクラスで群れてたほうがいいんじゃねぇのか? 俺みたいなFクラスと絡んでると評判落とすぞ」
ルナは見てくれだけはいいし、獣人なので冒険者としての才能もあるため、人気がある。残念なのは頭の作りと性格だけだが、遠くから見てる分には理解されないのだ。
「へぇ~……私のこと心配しちゃうんだ~? ふ~ん、雑魚なのにエリートのこと心配しちゃうんだ~♪」
すぐさまメスガキ力を発揮しはじめやがった。
でも、俺は負けない。
「雑魚なんで気にしますよ。香月さんは目立ちますからね」
「なんで敬語なの?」
「あの、本当に迷惑なんで、雑魚にからんでくるのやめてもらえますか?」
「お願い、敬語やめて! 雑魚って言ったの謝るからっ!」
「いや、謝るくらいなら言わないでくださいよ。あと、謝っても許しませんよ?」
「チョーシ乗ってたの謝るからっ! そんなゴミを見る目で見ないで!!」
「俺、ツラがいいから何言っても許されると思ってるバカ、心の中でカスって呼んでるんですよ。ルナカスさん」
「……へ、へぇ~、私のことかわいいって思ってるんだ~?」
「見てくれだけの女だなとは思ってますよ、ルナカスさん」
「カスはやめてよ! いい加減、泣きそうなんだけど!!」
朝からわからせないといけないとか、勘弁してほしい。ほんと、昔っからこいつは俺にからんできて、煽ってきて、やり返されて、涙目になる。
なにが楽しいのかわからない。
ちなみに俺は楽しくない。童貞煽りも雑魚扱いも普通にムカつくので、昔からルナのことが嫌いだ。
『随分と仲が良さそうだね』
不敵な笑みを浮かべながら魔王が俺をジッと見てくる。
――別に仲良くないよ。ただの幼馴染。名前は香月ルナ。
漢字で書くと香月月となる程度にキラキラネームだが、それを指摘するとルナはガチ泣きするので言ってはならない。
――お互い両親が冒険者でな。昔は家族ぐるみのつきあいがあったんだ。まあ、見てくれがいいから周囲にチヤホヤされててな……。
勘違いして俺にウザがらみをよくしてきたので、俺はその都度わからせてきた。
だが、俺のわからせでは足りないらしく、ルナのメスガキ的性格を矯正することはできなかったのだ。こんな勘違いバカを世に放つことになってしまった事実が悔やまれる。
「いきなり黙り込んでなによ! せっかく話しかけてあげたのに!」
「あいかわらず上から目線だな……反省してないなら、次話しかけてきた時、マジで無視するからな。てか、金輪際関わってこないでくれる? 普通に縁を切りたいんだけど?」
「……ごめんなさい」
シュンと耳を垂らしていた。
こいつはいったいなにがしたいのだろう? このまま無視してもいいのだが、わずかながらの仏心が生じてしまった。無礼な女ではあるが、朝から女を泣かして気分よくなれるほど俺はサイコパスではない。
「で、話ってなんだよ? 用が無いなら先に行くぞ」
「あるし! 真央のせいで忘れちゃっただけだよ!」
「……また俺のせいかよ。なんだよ? さっさと用件を言えよ」
「新橋ニュービーズってパーティーが捕まったの知ってる?」
「へぇ、そうなんだ……知らん」
と嘘をつく。
「え? 昨日の放課後、真央が話してたでしょ?」
「ああ……遊佐のことか? なんだ? 見てたの?」
「ぐ、偶然よ! 別に真央を探してたとかそんなんじゃなくて!」
「で?」
「なんか自首してる動画があがっててさ、めちゃくちゃ回ってるんだよね」
「へぇ~……」
意外だなと思った。ルナはデコられたDフォンを俺に見せてくる。
「一日で400万再生越えもしてんだよ」
「マジで!?」
思わず声を張り上げてしまった。
「ほ、本当だよ。顔、近い……照れる……」
ムニャムニャ言ってるルナのDフォンを奪い取り、ディスプレイに映っていた自首動画を確認する。確かに再生数がすごいことになっていた。
「なあ、ルナ……」
「え? なに?」
「これってどのくらいの金になるんだ?」
「……登録者数とか視聴者層で変わるって言うけど、一再生0.1から0.5円くらいじゃない?」
「おいおい、待てよ。てことは、この動画、最低でも四十万、下手したら二百万の金が遊佐に入るってことか? あの犯罪者のクソ野郎に!!」
「……そうなんじゃない?」
なんてことだ!!
復讐対象に塩を送りまくっちまったじゃないか!!
こんなことなら俺が自分のチャンネルを作ってあげればよかった……!!
いや、そうだよ!!
こんなクソみたいな動画をあげただけで、バカげた大金を稼げるってんなら……。
俺も動画配信者になればいいんだ!
今の俺はもう無能力者じゃない。
魔王がいれば、ソロでもそこそこいけるはず!!
「ルナ、助かった、ありがとう」
「え? うん、助かったなら……よかったよ……あれ? なにが?」
「今度、礼するから、考えておいてくれ」
それだけ言って俺は学校とは逆へと走っていった。
「真央! 待ってよ! ねえ、真央―――!!」
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