無能力者だった俺がダンジョン動画配信でバズったんだが聞きたいことある? ~転生魔王や美少女動画配信者と一緒にダンジョンで無双します~

TANI

第1話・そして俺は死んだ


 ――どうやら俺は死んだらしい。


 その証拠に真っ暗闇の空間に意識だけで存在している。手足の感覚も無ければ、一切の無音と無明と無感覚。


 だが、こうして俺という意識だけは確かに存在している矛盾。

 となると、導き出される結論は――


 ――もしかして、ここって地獄?


 マジかよ! ふざけんなっ!!


 なんで俺が死ななきゃならねぇんだよ!! 無能だとか周りにバカにされてきただけの人生だぞ! 親は死ぬし、叔父には騙されるし、クソみたいな人生だったじゃないか! それでも必死に頑張って生きてきたってのに、十六歳で俺の人生って終わりなのかよ!?


 まだ童貞なのに!!


 てか、妹残して俺だけ死ぬわけにはいかねーんだけどーーー!!


 と、叫びたくても口が無い。頭の中でだけ叫んでるようなものだ。


 ……よし、一回落ちつこう。

 状況を整理しなきゃならない。


 どうして死んだのか思い出してみよう。

 もしかしたら、死んでないかもしれないし……。

 そうだよ! 意識があるってことは、死んでないって可能性だってあるはずだ!!


 よし、俺の名前は神野真央。うん、間違いない。

 これが俺の名前だ。


 住所は東京都の港区で、両親は有名な冒険者だった。でも、俺は、両親の才能をこれっぽっちも継いでなくて、親の才能は全部、妹の莉子が引き継いだ。

 妹は天才なのに兄貴が無能なんで、周りにはバカにされてきた。でも、両親は俺のことを愛してくれてたと思う、たぶん。うん、そう思う。

 まあ、そんな両親も新宿ダンジョンで死んじまったけどさ……。


 結局、今の俺は代々木冒険者スクールに通う魔術スキルを使えない最底辺無能力者。自分で言ってて悲しくなってきたけど、事実だからしかたがない。


 たしか、放課後にBクラスの遊佐郁人ゆさいくとっていう奴に声をかけられたんだ。


 そうだそうだ、思い出してきた!


 遊佐ってのは最近、<新橋ニュービーズ>ってダンジョン動画配信グループを作って、メンバーを募集してたんだ。なんかチャンネル登録者が一万人いるとかで、けっこうな数のフォロワーを持ってて――


「お前、今日、ヒマ? 荷物持ち《ポーター》としてダンジョン動画の撮影、手伝ってくれねぇ?」


 って、声をかけられたんだ。


 俺は断った。そもそもよく知らない奴だったし、俺は別に冒険者になりたいわけじゃない。代々木冒険者スクールは学費がタダだから通ってるだけだ。


「別にヒマだけど、あんたを手伝う理由が無い」


 そもそも学園でもFクラス所属の人間は、冒険者になれない底辺弱者か頭のイカれたアンタッチャブル扱い。その中でも問題児扱いされてる俺をパーティーに誘うなんざ、どう考えてもおかしい。

 そうだ、この時、俺はおかしいと思ったんだ。


「でも、お前、強いんだろ? なんか、運動神経もいいって聞いたけど?」

「人間相手の喧嘩ならそこそこ強いつもりだけどさ、武術なんて魔物モンスターに意味無いだろ?」


 空手や柔道でクマは倒せない。クマ以上のバケモノである魔物モンスター魔術スキルも使えない無能力者が勝てるわけがないのだ。


「別に魔物モンスターと戦ってほしいわけじゃないんだよ。運動神経のいい奴を荷物持ち《ポーター》として雇いたいんだ」

「……タダ働きは御免だぞ」

「払う払う。けっこう稼いでるからさ」


 と雰囲気イケメンである遊佐は爽やかな笑顔で言ってきた。


「……どうして俺なんだよ? 普通に魔術スキル使える奴誘ったほうがいいんじゃないか?」

「ダンジョン動画配信ってさ、裏方もけっこう必要なんだよ。でも、中途半端に実力があると出役をやりたがりはじめるんだよな。それでゴネられると面倒だろ? その点、お前は裏方に専念してくれそうだし」


 ダンジョン動画配信は、今、めちゃくちゃ儲かる仕事の一つだ。


 太平洋戦争後、突如、東京の中心に現れた異界につながる扉。ポータルと呼ばれる扉の先にはダンジョンと呼ばれる謎の異空間が存在していた。


 そんな未知の世界に潜れるのは特別な人間だけだ。

 俺みたいなクソザコ野郎は、ダンジョンに入れても、生き残る才能が無い。


「どうしても嫌だってんなら、諦めるけど……とりあえず、今日の報酬は二万でどうだ?」

「ダンジョンに入るのに二万? 危ないんだし、十は欲しいな。無理なら他を当たれ」

「十はきついって。五万でどうだ?」

「……わかった。全額前金でならやるよ」


 俺が了承したことを受け、遊佐はニコリと爽やかに微笑んだ。


「手伝ってくれるなら助かるよ。あ、でも、このこと、他の奴には内緒な」

「え? なんで?」

「そりゃあ、他にも手伝いたいって言い出す奴が出てくるかもしれないだろ? それに企画が外に漏れたら困るしさ」

「わかった。秘密にするから前金で六万な」

「家族にも言うなよ。俺たち、そこそこ有名人だからさ、ほら、情報とかもれるとまずいじゃん?」

「わかったわかった。とにかく前金で七万だからな」


 そして、俺は遊佐たち<新橋ニュービーズ>と一緒にダンジョンに潜ったのだ。


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