エピローグ・カル王国
フィセラが討伐隊に対して一芝居を打った数日後。討伐隊は無事に王都へ到着出来た。
冒険者チーム・灰の獣槍とは、王都に着くとすぐに別れ、三極の二人は王のもとへと先を急いだ。
「苦労をかけたな。デッラ、マクシムよ。お前たちが直面した事態は白銀竜の出現より尋常ではない事態だったろう。よく無事に帰った」
カル王国国王・サロマン4世が会議室にて帰還した三極をねぎらっている。
ここは議会を開く会議室とは違う、小さな部屋だ。
客間や執務室ともやはり違う、決して話が外に漏れることのない秘密の部屋である。
部屋にいるのは、王と4人の貴族、三極と高官が二人のみだ。
王の言葉に返すようにデッラが顔を上げた。
「ありがとうございます。陛下。ですが、我々はただこの王都を離れ、また戻っただけ……しかと使命を果たせたか……」
その言葉に公爵級貴族のメローが頷いた。
「その通りだ」
デッラが顔をしかめ、マクシムが眼光鋭くメローを睨んだ。
「カル王国の悪夢が真に終わったのか定かではない。……陛下、彼らが持ち帰った情報はあまりにも少なすぎます。加えるならば、信憑性も低い」
「そう言うな、メロー。三極とは我が最高の配下であり、最強の忠臣だ。その心を疑うことは無い。お主たちがそのもの達を信じたのなら、私も信じよう。それに信憑性を確かめられるものが1つあったな」
サロマンは三極の言葉を全面的に支持していた。
彼らの言葉が裏付けられることを願いながら、ある仕事を頼んでいた高官を呼んだ。
「どうであった?」
「はい。本物かと」
高官が全員に見えるように会議室の机に置いたのは、上質な箱に入った2枚の白銀の鱗だった。
面々がそれをのぞき込み、何が置かれたのか理解した。
サロマンが笑みを浮かべながら、こう聞いた。
「これが本物だと、どう判別したと思う?」
誰も答えない。
「300年前、この国は国の命をかけて白銀竜と戦った。その戦いで得た唯一の戦利品。竜の身から削ったたった1枚の鱗だ」
箱の中にある鱗が同じものだと言われば納得するだろうが、違うと聞けば、確かに片方の鱗には光沢に陰りが見える。
「デッラよ。お前が持ち帰った鱗の数を申してみよ」
王や高官はそれをすでに知っているが、今ここで示されるその情報にはより価値がある。
「138枚です」
1枚は割れていましたが、と高官が小さく付け加える。
するとサロマンがいきなり高笑いを発した。
会議室にいる者たちあまり驚いていない。ここに居るのは、王の性格を良く知る者だけだからだ。
「ニコラ、この数は何を示す?」
王の傍らに立っていたニコラの顔つきは晴れやかだ。
同僚が持ってきた情報が嘘であるとは思えない。さらば信じるしかない。
自らの刃で白銀竜を討つことが出来なかったことに悔しさはある。
だが、代わり果たされた使命。代わりに討たれた仇。
ニコラの心に曇りはなかった。
「子供の計算をするなら、デッラたちが言う者たちは王国軍の138倍強いということだと考えられます」
それにサロマンが頷いた。
貴族たちはニコラの突飛な発言に驚き、サロマンを諫めようとしたが、それを無視してサロマンはしゃべり始める。
「嘘とも言えんさ。それに2倍3倍だとしても変わりはない。そのフィセラと名乗ったものでも白銀竜を倒せないのなら、王国の時はとっくに止まっている」
ニコラとサロマンはすでに王国の悪夢は去ったと考えている。
会議室にいる者たちがそれに気づき、サロマンの言葉を止めることはしなかった。
「白銀竜が討伐されたという記録は残さない。だが、人知れず戦った英雄は伝承に記そう。……カル王国はフィセラと名乗る者たちを最大限、尊重しよう」
サロマンが高官に目を向ける。
「冒険者組合の王都支部長をここに召喚せよ。依頼の操作をして冒険者がアゾク大森林周辺に行かぬよう圧力をかけるのだ」
高官はすぐに部屋を出っていった。
続いてもう一人の交換にも命令を出す。
「森の近隣領主と都市フラスクにも、森に近づかぬよう、上手く言い訳を考えよ」
また、高官が了解して部屋を出る。
「私がやれるだけの平穏は用意しよう。我らこそが平穏をもらった側だ。お前たちも、無用な詮索はするでないぞ」
4人の貴族は、それに了解した。
この対応が正しいのか疑問に思う貴族もいたが、王の命令を裏切るようなことをする者たちは、まだいなかった。
「我が玉座でそなたを迎えることを心待ちにしているぞ。英雄フィセラよ」
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