第九話 強奪とオーバーヒート
倒したはずのアクアマリンは復活してレイに襲いかかった。 更に、アクアマリンは二体に分裂して、それぞれが槍で攻撃を仕掛けた。レイは必死に攻撃を防いでいたが、武器を失い、肩を負傷したことで次第に押されていった。
「嘘だろ……あんなのどうやって倒すんだよ……!」
分裂と再生。驚異的な能力を兼ね揃えているアクアマリンに、レイは苦戦を強いられていた。俺はただ見ていることしかできなかったが、足元に落ちているレイの剣に気付く。
「!」
一方で、レイはアクアマリンの分身に挟み撃ちされていた。一体が液体化してレイの上半身を締め上げ、もう一体が槍で突こうとしていた。彼女は必死に体を捩じって避けようとしていたが、次第に動きが鈍くなってきていた。
「きつい……!」
後退を繰り返すレイは、背中が建物の壁にぶつかってしまった。そこから逃れるためにバク宙してアクアマリンの背後を取るが、すぐに足を攻撃されて地面に倒れてしまう。
「しまっ……!」
アクアマリンの槍がレイに向かって振り下ろされようとしていた。その瞬間、俺は無我夢中でレイの剣を握り、アクアマリンに突進した。
「死ね!」
「はぁあああ!」
俺は背中を向けたアクアマリンに、剣で不意打ちを仕掛けた。震える右手を押さえて、アクアマリンの左肩の宝石を狙って剣で斬り付けた。
「クッ!?」
「おらぁ!」
更に一発攻撃を喰らわせようとするが、腕を押さえつけられ、腹を殴られて地面に倒されてしまう。アクアマリンは俺の首を絞めて、壁に押しつけた。
「がっ……がはっ!」
「あんたもいい加減にしなさいよ……!」
アクアマリンは俺を睨み付け、氷でできた爪を振り上げた。
「っ……!」
その時、俺は先程攻撃した左肩に視線を移し、宝石が僅かにグラついていることに気づいた。
アクアマリンが爪を振り下ろす直前に、俺は咄嗟に宝石に手を伸ばした。
「!? よせ!」
それに気付いたアクアマリンは俺を振り解こうとするが、それより早く俺は宝石を掴んだ。すぐに投げ飛ばされたが、その勢いでアクアマリンの肩から宝石が外れてしまう。
「ガァア!?」
その時、アクアマリンは奇声を上げて地面に倒れた。アクアマリンの槍は消滅し、更にレイを拘束していた分身がデストロイクリスタルに変わってしまう。
「……えっ……」
◇
茶髪の男もアクアマリンの分身と戦っていたが、突如分身はデストロイクリスタルに変わってしまい、地面に崩れてしまう。男は困惑しながらも、剣を鞘にしまった。
「……何が起きた?」
◇
青い宝石を失ったアクアマリンは、死にかけの虫のように地べたを這いずっていた。
「お、おい。どうしたんだ?」
思わず俺はアクアマリンに近付いてしまった。その瞬間、アクアマリンの拳が俺の顎にアッパーを打ち込み、俺は吹っ飛ばされて地面に転がった。
「がっ!」
「やってくれたわね……! このガキ!」
アクアマリンは激昂し、俺の腹を踏みつけて地面に押さえつけた。その圧力で息が詰まり、意識が遠のきそうになった。
「うっ……!」
「それを返せ……!」
アクアマリンは俺に手を伸ばすが、拘束が解けたレイがアクアマリンの首を蹴り付けた。鈍い音が響き、アクアマリンは俺から離れた。
レイは俺の体を起こすと、俺が右手に持っている青い宝石に目を落とした。
「助かりました」
「……ふんっ」
「これを」
俺はディザイアークリスタルを受け取り、彼女には剣を差し出した。無事に願いが俺の手に帰ってきて、一瞬の安堵が生まれた。
「貴様ら!」
その時、アクアマリンはデストロイクリスタルを再び散らし、次々とロイヤーを生み出した。その数は圧倒的で、全てを倒すには確実に時間がかかる。その隙に彼女は逃げ出すつもりだ。
「おい、あいつまた逃げるつもりだぞ!」
「……心配いりません」
レイは何か覚悟した様子を見せると、懐からオレンジ色の石を取り出した。表面に彫られたランプの印が神秘的に輝いている、何か神秘的な力を感じるものだった。
その石を見たアクアマリンは表情を一変させた。恐怖の色がはっきりと浮かび上がり、声が震えていた。
「まさか、ルインクリスタルを……!?」
「……ルインクリスタル?」
「レヴァンさん、あなたは目を瞑って伏せて下さい」
レイは剣のガード部分にそのオレンジ色の石をセットし、再び剣を構え直した。すると、剣が轟々と燃え上がり、炎が剣身を包み込み始めた。
「!」
俺は慌てて地面に顔を伏せて、炎を直視しないようにした。体中に熱風が当たり、激しい熱に包まれた。
一方、アクアマリンはその場から逃げ出そうとしていた。焦りが彼女の動きを鈍らせ、パニックがその冷静さを奪っている。だが、レイはそれを許されなかった。
『エクセキューション! ラヴァドラゴンファング!』
「はぁあ!」
レイが剣を振ると、辺りに烈火が発生した。辺りに火柱が立ち並び、それを受けたロイヤーは全滅。更に、剣を振る際にエネルギー波が発生し、アクアマリンの体を縦に切断した。
「ガッ……アァ……」
アクアマリンとロイヤーは声を上げる間もなく、炎に包まれて爆発。辺りにはデストロイクリスタルが散らばっていた。レイは熱で赤くなった刃の剣を左手に、落ち着いて息を吐いた。
熱が冷め、俺はゆっくりとレイに近付いた。
「おい、今のは……」
「くっ……!」
ところが、レイは膝から崩れ落ちてしまった。俺は慌てて受け止めるが、彼女の体はものすごく熱くなっていた。
「熱っ! おいっ、どうしたんだ!」
「ハァ、ハァ……ちょ、ちょっと無理し過ぎました……ハハ……」
レイは無理して笑顔を作った。彼女をどこかへ運ぼうと思ったその時、再び足元の違和感に気付いた。
「!」
アクアマリンがまだ再生しようとしているのだ。彼女の液体状の体がゆっくりと一つにまとまり、また動き出す気配を見せていた。
これにはレイも驚きを隠せていなかった。
「なんて再生力……。今のうちに始末を……」
「いや……待ってくれ」
俺はレイに肩を貸したまま、アクアマリンの近くでしゃがみ込んだ。彼女は荒い呼吸を繰り返しており、まともに話ができるかどうかも怪しかったが、それでも尋ねなければならないことがあった。
「おい、聞こえるか」
「ゼェ……ハァ……」
「この写真はどこで手に入れたんだ?」
俺はアクアマリンの傍に落ちている写真を拾い上げ、彼女に問い詰めた。
「そ、それを知って何に……」
「答えろよ、もっと痛めつけるぞ……!」
俺はレイの腰に差している銃を抜き取り、アクアマリンの額に向けた。銃口が震えるが、殺す覚悟はできていた。
「……私も、知らないわよ……貰ったもの……」
「じゃあ誰に貰ったんだ」
「それは……」
その時、空から赤い光が飛んできて、アクアマリンに直撃した。
「っ!?」
衝撃に驚いて、俺は反射的にレイを抱き寄せながら後退する。だが、アクアマリンはその光を受け、瞬く間に黒く焦げて崩れ落ちた。
「口封じのようです……」
「裏にまだ誰かいるのか……。もしかして、そいつが家族の写真を……」
「っ!」
俺の思考が混乱している間、レイが突然体を寄せてきた。受け止めきれず、俺は彼女と一緒に地面に倒れ込んでしまう。レイは息を荒くしながら懐から二つの謎の石を落とした。
「ハァ……ハァ……レヴァンさん……」
「お、おい……!」
俺はレイが落とした石を拾い、自分の服のポケットにしまって、レイの体を起こして背負った。その時、彼女は俺の肩に首を乗せ、弱々しく口を開いた。
「こ、この先の森に……古い小屋があります……。そこまでお願いできますか……?」
「小屋って……病院の方が良いだろ」
「うっ……早く……!」
レイの容態が急速に悪化しているのを感じ、俺は迷う暇もなく彼女を背負い、全速力で走り出した。
その途中、戦場の片隅で、茶髪の男性とすれ違った。彼はすでに戦闘を終えており、他の黒い服を着た仲間達と共にデストロイクリスタルの回収や、怪我人の救護にあたっていた。
「レックス副隊長、一帯のデストロイクリスタルは全て回収致しました」
「よし」
(レックス……か)
俺はレックスのすぐ横を通り過ぎた。彼は一瞬だけ俺に視線を向けたが、特に気にかける様子は見せなかった。
◇
とある建物の屋上。赤い服の男性はアクアマリンの死骸を見て、不気味な笑みを浮かべていた。
「んだよ、結局負けてんじゃねーかよあいつ」
「レイか……。 彼女はルインクリスタルを少なくとも二つも所持していた。実に気になる子だ」
男の隣にいた黄色の帽子を被った少年、アルフは険しい表情を浮かべながら、その光景をじっと見つめていた。彼はレイが石を落としたのを目撃しており、その出来事から彼女に興味を見せていた。
「それとドラゴン、あのエクリプスの男の子、気にならなかったかい?」
「あの雑魚のことか? 悪いが、俺は弱い奴に興味はないんでね」
ドラゴンと呼ばれた男は、興味が無いとばかりに屋上に横たわり、アルフの問いを無視した。それでもアルフは、再びアクアマリンの死骸に視線を戻し、何かを考え込んでいた。
(……まさか、またデストロイヤー化を止める人を見るなんて……)
現在使えるルインクリスタル 二個
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