第二十一話 ゾーイに五段攻撃を教える
今日もテュールが楽団の前で踊り出した。
私たちは喫茶スタンドでお茶を飲む事にした。
「五段突きの三段目から後はどうなってるの?」
「五段攻撃ね、三段目と五段目は振り攻撃よ」
「それは残念だわ」
仕合槍では再現できないわね。
「一段目は下に潜らせて跳ね上げる、二段目は巻き込む、三段目は?」
ゾーイがケーキのフォークで槍の突きを模したので、こちらもフォークで教える。
「縦振りね、上から頭部を狙うように落とす感じ。四段目は三段突き、素早く三段に突くのよ」
「三段突き! 使えそう!」
「
「五段目は横振りかあ」
「
実際の馬上戦闘と
ゾーイはケーキを食べながら、フォークで五段攻撃を再現する。
この子は器用なのね、勘が良いのかしら。
「やっぱり
「その分解りやすいのよ、振り技が有効だと、審判の判断も大変だわ」
「そうか、兜か胴丸に突きが入ればポイントだものね」
騎馬実戦のエッセンスだけを抜き取ってスポーツ化した感じよね。
解りやすいし、勝負もつきやすいわ。
楽団の曲が止まってテュールの踊りが終わった。
彼女はこちらのテーブルに飛びこんできた。
「私もケーキ食べるっ!!」
「ここのお茶もケーキも美味しいわよ」
テュールは店員さんにケーキを三つも頼んでいた。
良く入るわね。
「凄いわね、五段攻撃、誰でも倒せそうだわ」
「一人、初見で全段避けた人が居たわ」
「ど、どうしたの」
「六段目に只の突きを入れて倒したわ」
「ああ、あいつか」
テュールが
そういえば彼女も現場にいたわね。
「へえ、凄い人はいるのねえ」
私が戦った中では一番強かったわね。
テュールがケーキを食べおわったので待機所にもどることにした。
あちこちで観客の人から、アガタ夫人、アガタ夫人と声を掛けられた。
結構名前が売れてきたみたいね。
私たちの馬房に戻ると、ガッチンとウォーレンが仕合槍を作っていた。
あまり数がないから増やしてもらうと助かるわね。
「ガッチン、ウォーレン、買って来たわよ」
「おお、ありがてえ」
「恐れ入ります、アガタ先生」
私はガッチンとウォーレンに焼肉サンドと小樽のエールを渡した。
私は馬房に入り、ユニコをブラッシングした。
気持ち良さそうにしてるわね。
『いいぞいいぞ』
午後の準決勝は私とアルヴィン卿の対戦、すぐ後にゾーイとデイモンの対戦だ。
さすがにここまで上がってくると相手も強くなってきているわね。
ユニコのブラッシングが終わると呼出しの兵士さんがやってきた。
「アガタ、時間だ」
「よし、がんばりましょうね、ユニコ」
『おう、まかせておけっ』
彼はブヒヒンと鳴いた。
「おっと賭け屋に行かねば」
ガッチンが立ち上がると、四本の槍を抱えてウォーレンも立ち上がった。
「後で行くから、待ってて」
「待ってるわ、テュール」
ゾーイが馬房から顔を覗かせた。
「アガタ、がんばってね、負けちゃ嫌だよ」
「解ってるわ」
私はウォーレンと共にユニコを引いて待機所を出た。
アルヴィン卿の馬房は我々の所とは違い、黒騎士と同じく特別馬房のようだった。
彼は私たちと別の出口から出てきた。
ものすごく真っ白で気品のある馬にきらびやかな彫刻が入った甲胄を着たアルヴィン卿が乗っていた。
お金が掛かっているわね。
「やあ、皆さん、私はアルヴィン・ダフィだ、お隣の侯爵領の領主をやっている。私はねえ、
アルヴィン卿が上品な口上を述べると観客席から声援が飛んだ。
凄い人気だわ。
そして、立派な騎士ね。
トトトトとテュールが待機所から駆けてきた。
中央柵へ向けてジャンプをしてくるりと回転して着地した。
「うぇ~~い、みんなぁ、ついに準決勝だ~~!! 平民の奥さんが技術だけでここまで上り詰めたぞ~~!!
そう言ってテュールはくるくると中央柵の上で回転ジャンプを決めた。
相変わらず名調子ね。
私が会釈をするとアルヴィン卿はにっこり笑って手を上げた。
紳士だけれども、とても強い騎士だわ。
油断はできない。
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