第十八話 チャド・ゲーンズボロ戦、徒士戦闘

 私は|パルチザン三角槍をヒュンヒュンと体の周りで回した。

 うん、良いバランスだわ。

 さすがはガッチンの技術力ね。


 私はパルチザン三角槍を構えた。


「うおおおおっ!!」


 吠え声を上げてチャドが大上段に構えて突っ込んできた。

 そんなに鋭い振りじゃないわ。

 私は半身をねじって斬撃をかわした。


 ズドム!


 地面に大剣がめり込んだ。

 私は彼の右手の籠手にパルチザン三角槍をトン、と、落とした。


「はっ、そんなこうげ……」


 馬上槍試合の鎧は体の左側に装甲が集まっていて、右側は弱い。

 右籠手の装甲も薄い。


 チャドの親指の付け根が私の槍で切りつけられて血が滴り落ちていた。


「こ、こんな傷っ!!」


 彼は無理矢理大剣を担ぐようにして二撃目を打とうとした。

 その振りの高い位置でパルチザン三角槍あぎとの部分で刀身を受け、ねじった。


 ガランガラン。


 大剣は地面に転がった。


「はあああっ?」


 私はパルチザン三角槍をチャドの首に当てた。


「ドワーフが作った業物よ、甲胄でも切り裂くわよ」

「ま、参った」


 チャドはそのまま腰を抜かした。


「勝者、アガタ!! 準決勝進出!!」

「お疲れ様、チャド」


 私はパルチザン三角槍をキリキリ回してユニコの元に戻ろうとした。


「ふざけるなあっ!! 牧場の女房のくせにいいいっ!!」


 チャドは地面に落ちた大剣を拾ってこちらに駆けてきた。

 私は腰を落とし、ふり返りざまパルチザン三角槍を横降りしてチャドの足をすくった。

 彼はひっくり返りごろごろと転がって柵にぶつかり気絶した。

 サクリ、と、地面にチャドの大剣が刺さる。


「つ、つええ……」

「すげえ槍使いだ……」

「さすが戦場帰り……」


 私が片手を天に突き上げると、観客席が爆発したようになった。


「アガタ夫人!!」

「格好いいぜーっ!!」

「素敵よ~~!!」


『気持ちいいな』

「そうね、嬉しいわ」


 ユニコが嬉しそうにつぶやいた。


「すごい、さすがはアガタ先生だっ、なんてお強い!!」

「ありがとうウォーレン、居てくれて助かったわ」

「そんな勿体ないっ、さあ、待機所に戻りましょう」

「ええ」


 客席の最上階ではゴーバン伯爵が怒りで顔を真っ赤にして、黒騎士が微笑みながら拍手をしていた。


 あと、二回勝てば黒騎士と戦えるわね。

 楽しみだわ。


 待機所に入るとゾーイが迎えてくれた。


「やったわねっ!! アガタ!! 大勝利じゃないっ、徒士かち戦闘ももの凄く強いのねっ!」

「腕が鈍っていなくて良かったわ」

「練習はされていなかったのですか?」

「してないわ、牧場は忙しいのよ」


 朝から晩まで馬の世話をしないといけないし。


「すごーい、なんでどこかに仕官しなかったの、その腕なら女性騎馬隊の職ぐらい簡単でしょ」

「戦争で一生分戦ったから、静かな生活がしたかったのよ」

「なんという偉人なのか、アガタ先生はっ」

「偉いわねえ」


 私はユニコを馬房に入れた。


「お帰り、勝ったようじゃな」

「ええ、何でも無かったわ」


 テュールが袋を沢山もってドドドと帰ってきた。


「儲かった儲かった、はい、ガッチンの分」

「おっほっほ、たまらんのう」


 二人は増えた金袋を振ってジャラジャラいわせた。

 ハーフリングもドワーフも、お金が好きね。


「ガッチン、パルチザン三角槍の調整ありがとう、すごく使いやすいわ」

「なんのなんの、また使って貰えて、その槍も喜んでおるじゃろうて」


 次の相手は誰かしらね。

 私はトーナメント表の前に行った。


 第一仕合を勝ち上がったのは、アルヴィン・ダフィか。


「ああ、よりによって、ダフィ侯爵ですかっ」

「侯爵家の人が参加してるの?」

「はっはっは、そうだともアガタ夫人! さきほどは素晴らしい仕合だったね、僕の胸がおどったよっ!!」


 なんだか押し出しの強い、金髪のイケメンがやってきた。

 きらびやかな甲胄を見るに彼がアルヴィン卿だろうか。

 あごが二つに割れているわ。


「ア、アルヴィン卿……」

「いやあ、午後からの仕合が楽しみだ、正々堂々力をくして仕合をしようじゃあないかっ」

「はい、よろしくおねがいいたします。サー

「ノーノー、もっと気さくに、アルヴィンと呼んでくれたまえよ、アガタ夫人、僕は身分の上下で有能で尊敬すべき戦士を区別しないのさっ」

「解りました、アルヴィン」

「うむ、では戦場でまた会おう」


 満足げにアルヴィンは去っていった。


「ア、アガタ先生は、すごいですね、侯爵さまを呼び捨てですか」

「そう呼べって言ってたし」

「でも普通、気をつかうよねー」

「そうかしら」


 まあ王様とかと、ため口をたたけていた戦場とは違うのかもしれないわね。


「だけど、なんで侯爵さまが伯爵家のトーナメント馬上槍仕合に出てるの?」

トーナメント馬上槍仕合が好きなのよ、アルヴィン閣下は」

「強いの?」

「かなり強いです、まあ、それよりもあまりに偉いので気遅れして満足に戦えない騎士が多いですね」

「なんとなく勝ちを譲る時があるのよ」

トーナメント馬上槍仕合も身分差があって平等じゃないのね」

「侯爵閣下ですし、さすがに怪我をさせたりしたら、どんな目にあうか……」

「そういう物なのね」


 まあ、手は抜きませんけどね。

 戦場では、侯爵さまも王様も無くポンポン死んで行ったし。

 死神の前では身分差は無いのよ。

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