第十一話 競技場の広場でテュールは踊る

「アガタもゾーイももっと食べなさいようっ」

「いえ、私はおなかいっぱいよ」

「私も、テュールさんは小さいのにいっぱい食べるのね」

「ハーフリングはもの凄く食べるのよ」


 競技場の広場の屋台街で食べ歩いていたのだけれども、私もゾーイも焼肉のサンドイッチを食べたらお腹がいっぱいになった。

 エールも飲んだしね。

 テュールは昔のようにバリバリと食べ散らかしていた。

 あれだけ食べてちっとも太らないので戦友の女性たちの憎悪を買っていたわね。


「まったく、だらしがないわね、あ、おじさん串焼き二本下さい」

「まだ食べるんだ」

「まだまだ腹八分目~~」


 食欲オバケは放っておいて、ガッチンとウォーレン用に焼肉サンドイッチとエールの小樽を買った。


「さ、帰るわよテュール」

「あ、待って待って」


 テュールが串焼きの肉をかじりながら私たちの後を追ってきた。


 丁度、広場の真ん中で楽隊が曲を弾き始めた。

 いい曲ね、地元の舞踏曲だわ。


「良い楽隊を入れてるのね」

「伯爵はトーナメント馬上槍試合にだけはお金を惜しまないからね」

「お、良い曲!」


 テュールは楽隊の前に出て楽曲に合わせ踊り始めた。


「わ、踊り始めた」

「ハーフリングはすぐ歌うし、すぐ踊るのよ」

「しかも上手いわ」


 テュールは着込んだケープをひらひらとはためかせて踊り始めた。

 相変わらずダンスが上手いわね。

 可愛い幼女が激しく踊るので、家族づれの客などが足を止めた。

 ゾーイも曲に合わせて手拍子を入れていた。


 くるくるとテュールが踊る姿を見ていると、あの頃のお祭りを思いだしていた。

 いつもテュールの踊りを楽しんでいたわね。

 そうね、あの頃も辛いことばかりじゃなくて、楽しい事や嬉しい事もあったわね。

 楽しい記憶はテュールと共にあったような気がする。

 いつも明るくて陽気で、みんなを元気づけてくれたわね。


 タンと太鼓が鳴って、曲が終わった。

 テュールも動きを止めてお辞儀をした。


「すげえぞっ、嬢ちゃんっ!」

「可愛いわっ、とってもお上手っ」

「上手いねえ上手いねえ」


 観客から割れんばかりの拍手と、いっぱいのおひねりを貰ってテュールは満面の笑顔だ。


「そいじゃ、またなあ、おっちゃんら」

「おおう、良かったらまた踊ってくれや」

「おーう、まかせとけーっ」


 テュールが戻って来た。


「いやあ久しぶりに踊った踊った」

「よくあんだけ食べた後に動けるわね」

「なんでもないよっ」

「ハーフリングって芸達者なのね」

「あはは、路銀が尽きると踊って歌って稼いで、また旅に出るのよ」

「どこかに留まらないの」

「一つの街にいると飽きるじゃんさ」


 ハーフリングとはそういう生き物なのだ。

 あまり物を考えずに空を屋根にして世界を放浪する生き物だ。


「私はこの街から出たことあまりないから解らないなあ」

「駄目だぞ~~、旅にでないと、心が大きくなれないぞっ」

「行って王都ぐらいだしねえ」

「今度三人で参拝の旅にでよう、楽しいぞー」

「いいわね」

「参拝かあ、いいねえ」


 ここから参拝というと、大陸の西の大聖堂かな。

 一ヶ月ぐらいの大旅行になるわね。


「でも子供もいるから無理よ」

「子供も連れて行こう、牧場は旦那にまかせて」

「いいわねえ」


 そうね、そんな日が来たら良いわね。


 私たちは待機所へと戻った。

 私たちの一角ではガッチンがウォーレンに手伝わせて槍を作っていた。


「食べ物買ってきたわよ」

「おお、すまねえな」

「ありがとうございます」


 というか、ウォーレンはなぜ私たちの所に居着いているのだろうか。

 私は二人に小樽と焼肉サンドの包みを渡した。


「槍を作ってたのね、ガッチンさん」

「ああ、明日までに三本つくらねえと」

「ゾーイ、この槍、すごいぞ、バランスが良くて軽い」


 ウォーレンが差し出した槍をゾーイは持った。


「うわっ、軽いっ、それで良いバランスッ、私のも作ってよガッチンさん」

「わはは、時間がねえ、次の大会だな」

「絶対よ、ほえー、これなら、あの三段突きも出来るわね」

「アガタ先生、一回目の二段突きと二回目の三段突きは同じ技ですか」

「ああ、あれ? 五段突きの最初だけよ」

「「五段突き!?」」

トーナメント馬上槍試合では最後まで出せないけど、実戦だとくるくる回りながら戦うから便利なのよ。さすがに初見で五段あるとは見破られないし」


 実戦でも五段を全部出しきったのは数えるほどしかない。


「つ、次のトーナメントまでに覚えようっと」

「お、俺が教えてもらうんだっ、ゾーイは遠慮しろ」

「いやよウォーレン」

「トーナメントだと覚えても死蔵になるわよ」

「それでも、切り札になりそうですっ」

「ガッチンの槍でアガタの技で次のトーナメントは頂くわ」

「次の優勝は俺だーっ」


 若い二人が張り合うのでなんだかおかしくて笑ってしまった。

 良いわね、こういうのも。


 テュールは箱の上に乗ってまた毛布にくるまって寝てしまった。

 なんだか、この一角も賑やかになってきたわね。

 悪くないわ。


「ゾーイはいるか」


 呼出しの兵隊がやってきた。


「はあい」

「仕合だ」

「わかりました。じゃ、行ってくるね」

「頑張ってねゾーイ」


 ゾーイは手をふって自分の区画に行き馬を引いて待機所を出て行った。


「ちょっとゾーイの仕合を見に行ってくるわ」

「おう、行ってこい」

「俺も行きますよっ」


 ウォーレンも立ち上がった。

 テュールも起き出してきた。


「ゾーイの掛札も買おう。きっと儲かる」

「テュールの勘は良く当たるからね」

「晩飯代はゾーイで稼ごう」


 私も少し賭けようかしらね。


 

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