花婿を探して三光年。地球以外の星はみんな女だらけでした。
チクチクネズミ
第1話 恋愛ハンター
「火星ゼロ、水星なし。あーもうこの銀河に男はいないのかね!」
『現在の太陽系に存在しているホモサピエンス種いわゆる人間の男性の総数はおよそ一億人ほど。私の概算では異性に遭遇する確率は、現在の太陽系の人類進出地点の計算でおよそ一%以下と推測され』
端末に搭載されている人工音声『ザ・美男子αアルベルト様』(中古品)のスイッチを切った。何度も繰り返し聞かされた低確率の出会いの数字。うっかりイヤホンとの接続を忘れてしまい、惑星間宇宙船の乗客に聞かれてしまっては一生結婚できなくなる。
数百年前、テラフォーミングがまだ途上の中で突如地球が滅んだ。幸い他の星に移住途中の人類が生存していたため種としては残り、人口増加の手段として人工授精や体外受精などの『産めよ、地に満ちよ』のフレーズの元人類は地球時代の人口を超えた。その副産物として、女性の数が男性の百倍になったが。
原因不明。そう片付けるしかなかった。
無重力空間による生活や一般的になった人工授精により、社会的機能は保たれていた。
だが乙女は夢見るもの、恋するもの。本能が恋愛結婚を求めていた。しかし男性は希少、その受け皿として同性結婚やカップルが主流になりつつあった。
しかし本能はそれで満足しなかった。性転換をする者、男性の人工音声と結婚する者、果ては少年声で演技をする者に大量の婚姻届フォルダがスパムのごとく送りつけるなど、異性への憧れは狂乱にまで発展した。
しかしそこに終止符を打ったのは
時代は大恋愛狩猟時代。
だが開始一年目ですでにミュラーは心が折れかけていた。
これまで人類が住む星々を転々としたが、すでに婚姻済み、あるいは詐欺まがいのものばかり。先ほどの数字は今まで接触して脈ありだったかの数、そしてそれらすべて零の数字が刻まれていた。
「男男男。はー男の硬い胸板とゴツゴツした手に抱かれて惰眠貪りたい」
生涯一度も男の肉体というものに触れたことがなく、代わりに座席に下ろされているプラスチックのテーブルをベタベタと触る。しかし伝わってくるのは、ザラザラとした安っぽい材質の平たい板と冷えた触感だけ。わずかにドリンク置きの凹みが感じられるだけ。
「次は木星付近のエウロペか。到着した時点で私は二十歳、バースデーウェディング決めたいってのに、このままだと行き遅れで市場価値も零。実はこの銀河にはもう男は絶滅したんじゃないよな」
女性の人口飽和になり、市場原理に基づき付加価値をつけなければ恋愛至上の土俵に立つことができなくなった。美人、肌つやはもちろんのこと、若さがなによりも重視される。行き遅れの基準は二十が分岐点。アラサーなどという言葉はもはや行き遅れ、おばさんの言い方でしかなくなった。
今乗っている宇宙船の乗客も、女子におばさんに老婆、どこもかしこも香水の匂いが漂っている。
「男の人と顔合わせたらドキューンって一目惚れしてくれないかな。そしたら楽なんだけど」
端末を起動して、『ザ・美男子αアルベルト様』を介して小さい声で、「一目惚れ」という言葉を検索し始める。
「ねえアルベルト様。一目惚れの条件って何?」
「一目惚れの具体的な条件は未だ詳しいことは判明していませんが、まずは第一印象から始まります。男性は女性を見るときは顔、身体の特徴を把握して、対象の女性が相性に合うか一瞬で判定します。その次に声、相手の好みから総合して恋愛対象とすべきか二次判定を行うと」
「それはわかっている。それ以外で」
「それ以外ですと、運命というものに頼ります。容姿、性格などが不一致であっても恋愛感情が持続する統計が」
「はぁ。もういいわ。やっぱ中古品はだめか」
納得のいく結果が出ず、ミュラーは再びスイッチを切って、アイマスクを顔の上に乗せる。
エウロパ到着まで一週間、その日自分は行き遅れの境界に入る。このままダラダラしたらあっという間にアラサーになってしまう。早く男の人と結婚したい。
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