第14話 +99

ずっと、ハルキさんに送ったメッセージに既読はつかなかった。


忘れてしまおう。

そう思いながらも連絡先を消すことができない。

自分でもわかってる。矛盾してる……



この1週間は、印刷所の年末のお休み前に多くの新刊が発表されたので、毎日残業続きだった。

ようやくひと段落ついて定時に上がれたので、久しぶりに本屋へ寄ることができた。

知らないうちに他の出版社からもたくさんの新刊が出ている。

平積みになっているものを一通り見てから、忙しくて発売日に買い損ねていた本を棚から取ろうとした時だった。

半分くらい本を引っ張り出したところで、別の手がそれを押し戻した。


「何浮気してんの?」


声をかけてきたのはハルキさんだった。


メッセージは無視してるのに……

悲しいのと嬉しいのが混ざったような気分になってしまう。


「唯織、こいつの本買わなくていいから」

「でもこの本、シリーズで全部読んでるから」


もう一度本を手に取ろうとして、今度はその手を掴まれる。


「ここにいたら唯織がオレの前で本買いそうだから出よう」


勝手な理由で手を引っ張られたまま本屋から連れ出された。


「何で連絡してこないの?」


「何で」って、メッセージしたけど無視してるのはそっちなのに……

それにわたしの方から連絡してくるのが当たり前みたいな言い方。


「わたしメッセージしました。既読ついてないけど」


ハルキさんは立ち止まると、片方の手はわたしの手を掴んだまま、もう片方の手でスマホをポケットから取り出すと、画面を見せた。


「この中のどれかってこと?」


スマホの画面にはアイコンの上に「+99」の文字が表示されていた。


「めんどうだから見てなかった」


そう言うと、スマホを持った手でアイコンをタップすると画面をスクロールし始めた。

「あった」

そう言うと器用にスマホを持った手で何か打ち込んでいた。

「返信しといた」


今隣にいるのに返信したの?


「あの、手を掴まれてるのでスマホが取れません」

「後で見といて」


そう言うとまた歩き始めた。


「どこ行くんですか?」

「せっかく会えたから」


聞いたことの答えになってないんだけど。

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