第21話 キスしたい

 ゴールデンウィークの後半、夜は柔らかな闇を纏い、窓から差し込む淡い月明かりが静かな部屋を優しく照らしていた。3人は純白のシーツにくるまりながら、川の字になって眠りに就いていた。吾郎の左側には瞳、右側には楓が身を寄せ、彼女たちの頬が彼のしっかりとした胸板に触れている。2人の存在が、吾郎にとってどんなに心地よいかは言葉では表せない。しかしながら、この三角関係の不思議で純粋な関係性は、まだ恋の予感を始まりとする瞬間に触れたことがなく、初恋の緊張やあどけない戯れの記憶は、幻のように彼らの心には宿っていない。 以前、彼らが酔っぱらいの勢いで肌を重ねた夜の事は、恥じらいが空気を支配し、その後彼らは同じベッドで眠ることはなかった。

 その夜の記憶は彼らの心の隅に曖昧な影を落とし続けていた(実際は本当に酔いつぶれただけ)。


 その記憶のかすかな温もりと安らぎは、瞳と楓に新しい力を与え、朝目覚めたときには新しい一日への意気込みに変わっていた。


 そんな朝、瞳が異変に気が付いた。


「ん? 何か臭う...」


 そう言い出したことで、熟睡していた吾郎の意識が急激に覚醒し、焦りに身体を起こした。


 股間にある違和感、まさかの出来事に、吾郎は血の気が引く感覚を覚えつつトイレへ慌てて駆け込んだ。


 それを見た楓も察したようだ。


「ん?」


 小さく呟き、吾郎様子から察した表情を瞳に向けた。


 楓は瞳の視線を受け推測を話す。


「もしかして、吾郎が...」


 言葉を濁し、2人はわずかに顔を赤らめながらも、ほの暗い中で相槌を打った。

 トイレから戻る吾郎の手はわずかに震えており、戻って来た彼の顔には明らかな困惑が浮かんでいた。

 何事もなかったかのように振る舞う彼に、瞳は心配そうに近づく。


「大丈夫?お腹痛いの?」


 瞳が静かに尋ねると、吾郎はわずかに首を縦に振り、静かな笑みを浮かべた。


「うん、問題ないよ。いつもこの時間なんだ。ごめん。トイレ暫く臭うかも」


 そう返答したが、瞳はその表情の裏に隠された不安を感じ取っていた。

 しかし、楓が瞳に傷つくから気が付いていない振りを・・・ね!としていた。


 その後3人は早目にチェックアウトし、近くの喫茶店でモーニングで腹を満たす。


 予定通り神戸を散策し、いつもと変わらない友情で1日を過ごすことになった。


 しかし、あの朝の出来事が吾郎の心に微かなざわめきを残していた。

 彼にはまだ瞳と楓のどちらかが自分を選んでくれると信じていたが、そのタイミングがいつ来るのか分からない。酒の所為で2人と付き合いたいと言ったが、まあ、それはないだろうと、少しさみしく思う。


 時間をくれと言っていたが数日経過も答えはまだ聞いていない。

 2人な気持ちをどう聞けば良いのか、催促するもんじゃないよなと吾郎はひそかに苦悩していた。


 神戸のロマンティックな風景の中で、吾郎は2人との愛情について確信を得たいと強く思っていたが、未だにその方法を見つけ出せずにいた。


 瞳と楓は吾郎の焦りを感じており、彼のわずかな変化に心を痛めていた。

 彼女たちにキスをするタイミングを探していた吾郎だったが、気が狂いそうで、いっそ強引にでもキスをすれば迷いも吹っ切れ、答えを得られるか?と考えた。

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