第20話 川の字

 3人はドキドキしながら10階に足を踏み入れると、部屋の位置を確認して部屋に向かう。途中ドアが開き、慌て閉める姿があったのはご愛敬。

 そいてカードキーを差し込んで部屋に入った。

 部屋に入ると瞳は感極まって吾郎と楓の2人に抱きつき泣いてしまった。

 暫く背中を擦ると落ち着いたようで、靴を脱いで中に入り、旅行鞄を置くとその部屋の中を見回した。


 そこはシンプルでスタイリッシュなお部屋だった。

 ベッドは白と黒のストライプのシーツに覆われたキングサイズのベッドだった。壁には抽象的な絵が描かれており、音楽はジャズやボサノバなどの曲が流れていた。

 それは部屋の名前通りモダンな雰囲気のお部屋だった。


「思ったより綺麗なお部屋ね。少し照明が暗いかしら?」


 瞳は安心したように言った。


「そうね。悪くないわね!うん。これなら少しは落ち着けるかも!」


 楓は早速ベッドに腰掛けたが、スカートの中が…膝丈のミニスカートだ。

 その健康的な美脚が吾郎の感性を揺さぶるが、はっとなった。


「でも、これでいいのかな?このホテルに泊まるのは、本当に正しいことなのかな?」


 吾郎は不安げに言った。


 3人はそのホテルに泊まることに対する罪悪感を感じた。

 彼らはそのホテルの主たる位置付けが、カップルが一夜を過ごすためのホテルであることを忘れられなかった。


 しかし、今はそのホテルで自分たちがそういうことをするとは考えられなかった。

 確かに一夜を共にしてしまったが、それ以来恥ずかしくてそうはならなかった。

 酒の所為でやってしまったが、愛しているとまで心が昇華しておらず、もしもそういうことを今するならば、単に肉欲に任せた行為に他ならない。

 しかし、3人とも体の繋がりはあくまでも愛の形の1つであり、せめて付き合ってからのことだとしていた。

 それまでは楓も瞳も結婚初夜まで処女を守ると決めていたが、あっさり失くしてしまった(勘違い)。

 だから少なくともこちらからは体を許さないと。

 幸い吾郎はガツガツ来ないし、心の準備が整っていない今は難しいと。

 しかしこうしてミスをカバーし、宿を確保できた。

 そんな吾郎にキュンとなり、もし今押し倒されたら目を閉じて身を委ねようと、2人は考えていた。


「とりあえず風呂に入ろうか。まずはお湯張りだな」


 吾郎は提案した。


 もう、汗だくだし。早く入ろ!」


「うん、そうしよう。」


 瞳と楓も賛成した。


 3人は風呂場に向かったが、風呂場を見ると驚いた。

 そこには大きなジャグジーがあったからだ。

 ジャグジーの中には、泡や花びらが浮かんでいた。ジャグジーの周りにはキャンドルやアロマが置かれており、それはロマンチックな雰囲気の風呂場だった。


「え、えええ!」


「すごい!気持ち良さそう!」


 瞳が固まったが、楓ははしゃいだ。


「誰から入る?」


「私は3人でもよいよ!」


 楓の発言に吾郎はタジタジになる。


「冗談だってば。それとも本当に入る?」


 楓は上着をお腹のとこらまでめくり、吾郎をうっとりとした目で見ていた。


「さ、先に入ってくれ!」


 吾郎は退散したが、楓は舌打ちした。


「ちぇっ!意気地無し!」


「楓?吾郎は…」


「冗談よ。分かってる。私達って大事にされてるよね。でもね、私は乱暴にギュット抱き締めて欲しいんだ」


「やっぱり吾郎が好きなんだ?」


「ふふふ。瞳ほどじゃないよ。それより2人で入ろっか。1人で入るのはもったいないよね」


 そうして一旦替えの下着をとりに来たが、よくよく考えるとここにはラブホだからバスローブが2着しかないので、普通の服を着て寝ることになった。


「じゃあ先にお風呂頂くね!あっ!荷物漁ったら駄目だからね!」


「吾郎ごめんね。先にお風呂に入るね」


 吾郎は手を振るしかなく、取り敢えず明日の予定を組み直し、2人が風呂を上がった後ゆっくりと疲れを落とす。


 そして日付が変わる頃欠伸が出てきた。


「俺は床で寝ようか?」


「駄目!」


 2人がハモった。


「吾郎が求めてきたら拒まないけど、そんな事しないよね?」

 

 吾郎は頷くしかなかった。そうは言うがそれは拒否の現れだと思う。


「取り敢えず寝ようか?僕も疲れたよ」


 2人は当たり前のように吾郎を挟んで横になる。

 3人だからか吾郎も我慢が出来た。

 しかし、どちらかと2人だったら今ごろ押し倒している自信があった。


 お休みなさいと聞こえたが、2人は1分もしないうちに完全に寝た。

 健やかな寝息が吾郎を悶々とさせたが、上下する胸、手を伸ばせば魅惑的な体が目の前に無防備に晒されているからなおのことだ。


 2人は自分のことを信頼して無防備な姿を見せたのだと、吾郎は血の涙を流さんばかりに悶々としていたが、それでも疲れには勝てず眠りに落ちた。

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