悪徳商人は破滅して商人ギルドから追放される。再起をするために奴隷少女を利用する。
イコ
悪徳商人は破滅する。
第1話 破滅
豪華な屋敷、豪華な調度品、豪華な家具。
栄華を極めるというのは俺様のような存在をいうのだ。
二十歳で行商人として商売をやり始めた。
それから早十年。
自分の才覚が誇らしくなるほどに成功の連続だった。
山のように積まれた金貨も。
見目麗しい女も。
領主様を裏から操る権力も。
全てを手に入れた俺様は栄華を極めていた。
そう、あの日が来るまでは……。
「不正な手段を用いて利益を得ようとする悪賢い商人ガルメ! お前のような者を悪徳商人と呼ぶのだ!」
「はっ! 何を言われているのですか?? 領主様、これまで仲良くやってきたではありませんか!」
あの日、領主が手のひらを返して、俺様を罠に嵌めたのだ。
これまで俺様は多くの者たちを蹴落としてきた。
それは商売の世界で生き残るためであり、自分自身がのし上がらせるためにしてきた行為だ。
そんなことは誰もがしていることであり、その才覚が人よりも高かったというだけにすぎない。
「醜く太った顔に、私腹を肥やした豪華な服は、全て人から奪ったものであろう!」
俺様が他の者を蹴落とす際に、後ろ盾となってもらうために金貨を大量に渡してきた。共犯者と言える領主が突然に裏切った。
「あなたの不正! 全て丸っとお見通しです!」
そうだ! この女が来てから全てが狂ってしまった。
王都からの王国国税庁視察官アイリーン・ドールス。
領主だけじゃない。
商人ギルドや、冒険者ギルド、傭兵ギルドまで手を回して俺様がしてきた悪事を調べあげた。
しかし大した証拠など出るはずがないのだ。
皆、自分の後ろ暗いところは隠したい。
共犯者たちは、我と同じように全ての証拠を隠滅するのに協力しているのだからな。
鬱陶しい。
盗賊や暗殺者ギルドに大金を払って殺させようとしたのに一向に死にもしない。
「何を証拠に?」
証拠などありもしない。
蹴落としてきた者たちの残骸など何も残しておらんのだからな。
全ての証拠は消滅した。
残っているとすれば、破滅させた者たちの家族ぐらいであろう。
それも私の慈悲で助けてやったものを……。
人など証拠にならん。
いくらでも金を積めば証言を変えるのだからな。
「こちらの裏帳簿が証拠です!」
「なっ! 何ーーーーー!!! そっ、それは?!」
それは信頼する彼奴に預けていたはずだ。
奴には俺様と同じぐらい、甘い汁を飲ませてきた。
俺様が破滅すれば、あいつも破滅だ。
渡すはずがない!!!
「こちらを持っていた方はすでに亡くなっています」
「なんだとっ! あいつがそう簡単に死ぬはずがない!」
「認めましたね! これがあなたの物だと!」
「どう言うことだ?」
「これを持っていた方が亡くなっているのは本当です。私の調査員と同士討ちなされました。最後まで悪人らしく逝かれましたよ」
俺様は、唯一の友を失ったことを知った。
これまで自分が非道を行って、のし上がってきたことぐらいわかっている。
だが、それも友人がいたからできたことだ。
奴と何かを成すのは楽しかった。
俺様は力が抜けていくように、深々とソファーに腰を下ろして息を吐く。
「それで? 俺様をどうする? 処刑にでもするか? 罪状は?」
「そんなことはしません。ですが、あなたには死ぬよりも辛い目に会っていただきます」
「なんだ?」
「まずは、あなたの屋敷、店、商売道具はこちらで抑えさせてもらいます」
全てを奪うつもりだな。
「個人の資産を奪うのか? 国がすることか?」
「今回、あなたの裏帳簿が見つかった以上。賠償責任として不幸に見舞われた方々への補償金に使います。もしも、残る場合はお返ししますが、この帳簿を見る限りは残らないでしょうね。請求するほどではないでしょうが」
裏帳簿のことは頭に入っている。
賠償というなら、事足りるだろう。
「その上で、商人ギルド会員から永久追放を命じます」
「なっ!」
「同時に、傭兵ギルド、治療院ギルドからの永久追放もです」
「ちょっと待て、我は攻撃力が皆無なのだ! そんなことをされては冒険者ギルドの最底辺しか登録できぬではないか?!」
この世界には様々な出来事が、ギルドの管理下で行われている。
そんなギルドから追い出されては何もできない。
「はい。ですから、死ぬよりも辛いことになるのです。せめてもの慈悲として、ローブとブーツは提供します。今着ている豪華ローブや指輪などの装飾品はこちらで回収させていただきます」
どこまでもガメツイことだ。
人がこれまで集めてきた物を、国の命令だと奪っていく。
しかも生きることすら許さないというのか、どこが慈悲だというのだ!
「あなたにはこれまで苦しめられた大勢の人たちに報いる時間を与えます。全ての賠償金が支払い終わるのは一年後でしょう。それまで生きていれば、多少の融通を聞いて商売ギルドの追放は取り下げられるかもしれません。ですが、あなたの行い次第です」
そう言って、王国税庁視察官は俺から全ての物を奪って立ち去っていった。
「さぁ、出ていってもらおう」
領主が掌を返したのも、証拠が出たからだ。
自分に火の粉が飛び移らないように司法取引でもしたか? 結局は見せかけの権力に対して、本物の権力持つ物に切り捨てられたのだ。
「あなたの行い、このガルメ。忘れませんぞ」
「ふん。すでに貴様は破滅した身だ。何もできぬだろう。兵士よ! さっさと牢屋へ連れていけ! 全ての徴収が終わった後は街から追い出すぞ!」
領主に言われた通り、一ヶ月間の牢屋生活を過ごさせられた。
与えられるのは1日一杯の水と、カビが生えた黒パンだけだ。
口に入れれば嘔吐して、水を飲みながら必死に生きながらえる日々。
蓄えていた脂肪を使い果たす寸前に牢の扉が開かれる。
「貴様が所有していた物の検査は全て終わった。今から街を追い出す。せいぜい魔物に喰われて最後を迎えるのだな!」
意識が朦朧とする中で兵士に牢の外から出されて、カボチャパンツとローブ、ブーツと冒険者の最底辺ランクを表す身分証を渡されて街から追い出された。
「さっさと見えないところで死んでくれ!」
兵士の一人から告げられた言葉に、ギロリと兵士の顔を見てから歩き出す。
攻撃力のない俺様では魔物も兵士も倒すことはできない。
睨むのは最後の悪あがきだ。
街道を進んで街が見えなくなったところで、巨大なカラスの魔物が俺様を見つけて降り立った。
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あとがき
どうも作者のイコです。
今回は異世界ファンタジーです。
思いつきで投稿したので、更新は不定期です。
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