エリーニュスのニサ

水利はる

プロローグ

 それは、たしかに言った。

 人間は滅ぶべき存在だと。

 それは神でもなければ、精霊でもない。  

 明らかに、人が作り出した兵器だった。

 その姿は、大きい丸い球体の外側に何百何千ものでかい機関銃が無造作にくっつけられた、極めて奇抜な姿をしていた。そのあまりにも異様な風貌をしたそれを見た誰かが、まるで毒をもったウニ、ガンガゼのようだと例えたと言う。そしてそのサイズは、空に浮かぶ太陽、月、そして星々を簡単に覆い隠すほどに、異次元レベルで巨大だった。空を支配するほどのその巨体は、人々が暮らす街をそのまま暗闇に染めたと言う。

 だが、それの恐ろしさは奇抜な姿でもなければ、あまりにもでかい巨体でもなかった。

 わずか一日で、地球を一周するほどのスピード。

 装備されたいくつもの機関銃で、街を破壊し、人間を皆殺しにする殺戮性。

 そして、殺されたもの、生き残ったものたちに容赦なくスピーカーのようなもので機械的に発せられる人間の滅びを要求する音声。

 それは、たった一週間で地球の人口を七割ほど減らした。

 一切の慈悲もなく。

 地球上を人工物だったものの残骸と人間の死体に埋め尽くした。

 ”人間は滅ぶべき存在です”と。

 繰り返し繰り返し、まるでインストールされた人間への呪詛を発しながら。

 その兵器の名は、エリーニュス。

復讐の女神の名を与えられた、殺戮兵器である。

 

 

 人類の文明が滅んで七年。

 俺は今も生きている。

 多くの命を奪いながら。

 生きていたってなにもないはずなのに。

 ただ生存本能に駆られて、生き汚い殺戮を繰り返した。

 殺すという意味では、俺もエリーニュスと一緒なのかもしれない。

 だが、俺はまだ知らなかった。 

 そのエリーニュスもまた、殺すという選択肢しか与えられなかったということを――。

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