第3話 浮気相手
王への謁見はダンジョン攻略の勅命を受けるという形式的なものだけで終わった。その後、今回の任務に随行する騎士団の五人と作戦会議を設けた。騎士団長のデンデリオは団長に就任したばかりで、かなりやる気が
「ヴァレント様のお供が出来るなんてこの上ない栄誉でございます!」
「まあそんなに力まなくていいぞデンデリオ。それで、もう部隊の編制は決まったのか?」
「はっ! 騎士団からは私を含めて五人。魔法省からはアジュダ様、他二名が参加するとのことであります」
「アジュダも来るのか!? なにも魔法省のトップが出張らなくてもよかろうに……。そういえば斥候でアンクバートを雇うことにしたから作戦計画書に名前を足しておいてくれ」
「おお! では伝説の勇者パーティーが三人も揃うわけですな! ますます腕が鳴りますぞ!」
鼻息を荒くするデンデリオに対し、やれやれと思いながら薄笑いを浮かべていると会議室の扉が開いた。現れたのは元騎士団長のモーファだった。デンデリオが慌てて立ち上がり敬礼をすると、モーファが手を上下に動かしながら座れと指示を出した。
「よおヴァレント。どうだ今度のダンジョンは? おれも参加していいか?」
モーファは笑いながらそう言うと、おれの正面の椅子にどかっと腰を下ろした。
「王が許可するなら構わんぞ」
「無理だろうな。なによりジュイリアが許してくれん」
ジュイリアとはこの国の王女。そしてモーファは彼女の婿でもある。かつて彼は騎士団長として勇者パーティーと共に戦い、この国の危機を救った一人だ。その功績に加え、秀麗な彼の見た目も相まって見事王女に見初められた。
「たまには国のために仕事をしたいと言えばいいじゃないか」
「婿養子は肩身が狭いんだ。無茶を言うな」
そう笑い飛ばしながら彼は部屋を出て行った。その後、日程など細かい部分を決めるとおれは家路へと就いた。
屋敷に戻るとすでにレベリオは湯浴みを済ませていたようで、ゆったりとした服を着ておれを出迎えた。
「おかえりなさい。作戦会議はどうでしたか?」
「ああ、滞りなく終わったよ。なにやらモーファが参加したいと騒いでいたが」
おれがそう言うとレベリオは口元を隠しながらクスっと笑った。
「それはジュイリア様がお許しにならないでしょうね」
「モーファも同じ事を言ってたよ。ところで今日も城に呼ばれてたのか?」
彼女はおれから視線を外す事なく微笑みを浮かべながら淀みなく答えた。
「ええ、今日はジュイリア様とお茶会でした。あなたにもお声掛けすればよかったわね」
「気にしなくていい。今日は会議で時間がなかった。それでは飯にしよう。腹が減ったよ」
二人で夕飯を食べながらたわいもない話を交わした。そしてその夜、レベリオがおれを求めてくる事はなかった。
翌日、おれはアンクバートの屋敷を訪ねた。中へと入ると一人の少女が床にちょこんと座っていた。白銀の髪に真っ白な肌のなんとも不思議な雰囲気の少女だった。
「この子は?」
おれが尋ねるとアンクバートが煙管を吹かしながら答えた。
「こいつが例のネクロマンサーだ。ほれプルジャ、勇者様にご挨拶は?」
「こんにちは」
少女は床に座ったままおれを見上げながら挨拶をした。おれは少女の前にしゃがみ込んで頭を撫でた。
「プルジャというのか。おれはヴァレントだ。よろしくな」
おれが笑顔で挨拶をすると彼女は少し小首を傾げながらおれの方をじっと見た。そして一瞬だったが彼女の瞳の色がパッと消えた。
「どうした? おれの顔になんか付いてるか?」
自分の顔をぺたぺたと触りながら訊くとプルジャは小さな声で答えた。
「死霊の影がひとつも見当たらない。どして?」
おれは助けを求めるようにしてアンクバートの方を見た。彼は肩を一度すくめるとプルジャに尋ねた。
「そりゃどういうことだ? プルジャ」
「死霊の影はみんなに憑いてる。人とか獣とかのいろんな霊が。でもこの人にはなんにも憑いてない」
「それは悪霊ってやつか?」
おれがそう訊くとプルジャはぶるぶると首を横に振った。
「悪い霊ばかりじゃない。ご先祖様とかもいたりする」
「じゃあおれには何が憑いてるんだ?」
興味津々といった様子のアンクバートが自らを指差しながら訊いた。プルジャの瞳がまた一瞬だけ色を失う。
「大きな鳥の魔物」
プルジャがそう言うとアンクバートが椅子を倒しながら立ち上がった。
「あんの野郎! 死んでもおれにつきまとってやがるのか!」
「心当たりがあるのか?」
「ああ……おれの目を潰した魔物さ。焼き鳥にして食ってやったぜ」
そう言ってアンクバートは椅子を起こして座り直した。そして煙管に煙草の葉を詰めながらこう言った。
「そういえばレベリオの浮気相手がわかったぞ」
「本当か!? 誰だ!?」
おれが思わず詰め寄るとアンクバートはゆっくりと煙管に火を点けた。
「モーファだ」
ふーっとアンクバートが吐いた煙に押されるように、よろめきながらおれは一歩後ろへと下がった。
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