第3話:なんてこと言うの、君は?

生きてる時から俺のことを好きだったって言った「春日野 葉見かすがの はみる

俺への未練を残したまま、あの世に行くのは嫌だとイヴの日に俺のマンションへ

やってきた。

で、俺の部屋に置いてあったラブドールの中に彼女の魂が入ってしまった。


俺に会えたことでもうこの世に未練はなくなったのかと思ったら俺とリアルに

会えたことで余計あの世には生きたくなくなったみたいだ。

俺と一緒にいたいって・・・。


生前の葉見のことは俺はなにも知らない。

だから好きだったって告白されてもピンとこないわけで、いきなりそうだから

って言われたからって彼女に対して恋愛感情はまだ持てない。

まあ一緒に暮らしてたら、いずれは愛が芽生えるのかもしれないけど・・・。


俺のラブドールはただのラブドールじゃない。

よそ様んちのラブドールと大きく違うのは動いてしゃべること、人間と同じ

ように意思表示をするし表情もちゃんとある。

葉見の魂が中にいることで感情も持っている。


そもそも俺は自分の誕生日のお祝いにラブドールを買っただけで着せたい

衣装を着せて可愛い顔を眺めてるだけで、それで充分だったんだよ。


俺は小さいフィギュアじゃなくて等身大のラブドールが欲しかっただけ。

ラブドールだからってエッチしたいってことはあまり意識してなかったし・・。


だけど今は人間の女の子がいきなり俺のマンションに現れたようなもの。


その一連の出来事はイヴの夜にはじまったことだった。

その時はめちゃ驚いたけど、あとで思うとこれはきっと日頃から頑張ってる

俺への神様からのプレゼントだと思った。


俺の誕生日をラブドールの中に入った葉見と一緒に祝ってテンションマックスの

まま布団に入ったが眠れないまま朝を迎えた。

とくに何も変わらない朝が来て俺は目覚し時計に頼ることなく起きた。

昨夜のことがまるで絵空事だっただったみたいに・・・。


葉見はまだすやすや寝てる・・・ん?ラブドールなのに寝るのか?

と思ったけど、中に葉見の魂が入ってたんだ。


俺は少しだけ期待してた。

葉見の可愛い声で爽やかに俺を起こしてくれることを・・・でも「起こしてね」

って言っておかないとそれは期待できないよな。


俺はいつものように勝手に起きて朝食も自分で用意して寝てる葉見をマンションに

残したまま会社に出勤した。

連れが一人増えても、俺自身の生活感は変わらなかった。


仕事中、葉見のことが気になったけど、それもしかたない、スマホの使い方も

教えてないから連絡も取れない。

かと言って会社を早退するわけにもいかないし・・・。


一週間くらいなら有給も取れるけど、それも限界がある。

俺のいない間、葉見は何をして過ごしてるんだろう?

テレビの見方は教えてきたけど、それでも気になるよな。


で仕事が終わってその帰りにスーパーに寄って買い物してマンションに帰る。


「ただいま・・・葉見・・・ただいま?」


「お帰り圭ちゃん、おつかれ様」


迎えに出てきた葉見を見て俺は少しホッとした。

俺を出迎えた彼女は俺に抱きついてクチビルにチュってした。


うん、めっちゃ癒される・・・こういうの俺はずっと憧れてたんだ。

男ゴコロを分かってるラブドール。

まあ、そりゃそうだよな・・・葉見は俺のこと好きなんだから・・・。

こういう生活悪くない。


「早くあがってあがって・・・ゆっくりして」


このぶんだと日にちを置かずして俺も葉見を好きになるなって確信した。


で、問題はここからなんだ・・・葉見は俺にハグとチューをしたあと

いきなり服を脱ごうとしたんだ。


「え?・・・おいおい・・なにやってんの?」


「私、料理もできないし家事もろくにこなせないし、できることって言ったら

これしかないから・・・」


「いや、今ゆっくりしてって言ったじゃん」

「待て待て・・・俺さ、今仕事から帰ってきたばかりだぞ?」

「なのに、いきなりってのはちょっと強引だろ?」


「だいいちそんな気分にならないし仕事で疲れてるし、だいいち腹だって

減ってるし、それにゆっくり風呂にも入りたいし・・・」

「そういう一連の生活習慣をクリアしてからするもんだろ?そういうことって」


「圭ちゃん、なにするか分かってる?」


「分かってるよ・・・その・・・エッチだろ?」


「私はいつでも準備できてますよ」


「あ〜そうですか・・・俺はぜんぜん準備できてませんけど」


「君はさ、いいよ・・・昼間ゴロゴロしてヒマ持て余してるからさ」

「俺は仕事して精神的にも肉体的にも疲れてるの」


「え〜抱いてくれないんですか?」

「エッチしたくて私を買ったんじゃないんですか?」


「あのさ・・・君、葉見?だよね?」


「もちろん葉見です・・・基本的には葉見です、オール葉見です」

「私の魂も精神もこの体に宿ってしまってからもうそのものです」


「だから、今の私にできることは・・・」


「ハイハイ、分かった」

「君の気持ちはありがたいし嬉しいんだけどさ、さすがに俺でも今はその気

にはならんわ・・・悪いけど」


「そうですか?・・・じゃ〜したくなったら言ってくださいね」


そう言って葉見は脱ぎかけた服を元に戻した。


「あのさ、もし君がただのラブドールだったらイヴの夜にエッチしてたかもな」

「ラブドールの中に葉見がいるって思ったから俺は躊躇ちゅうちょしちゃ

ったんだ」


「なんでですか・・・なんでやめちゃうんですか?」

「やっちゃえばよかったんですよ、無理やりにでも・・・」


「なんてこと言うの、君は・・・」

「葉見って生きてる時からそんな大胆な子だったの?」


「好きな人とエッチするのになに躊躇ためらうことあるんですか?」

「大事ですよ・・・そういうコミュニケーション」


「まあ、それは分かるけど・・・」

「ちょっとさ、君へのイメージ変わっちゃうな・・・もう少しナイーブな子かと

思ってたよ」


「それは圭ちゃんの勝手な思い込みです」

「私けっこう積極的なんですよ」

「だって圭ちゃんに可愛がってもらわないと私が気持ちを告白した意味ないじゃ

ないですか?」

「それに、いつかはするんでしょ?エッチ」


「んまあ・・・いつかはね・・・けどもうちょっと君に慣れるまで時間くれる?」

「俺がその気になったら言うから・・・」


「退屈・・・ヒマ・・・憂鬱・・・心が寂しがってる・・・震えるような切なく

なるような激しい愛が欲しい」


「な、なんだよ・・・怖いよ、いちいち大袈裟なんだよ」


そんなに暇ならバイトかパートにでも行けばって言いたいけど無理だし。

こんなことなら普通のラブドールでいてくれたほうがよかったかも・・・。


つづく。

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