異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね

第一巻「僕の生きる道」

序章



普段、糖質制限しているから、数か月に一度しか味わえない極上のスイーツ。

近所の洋菓子店で買える、Bigシュークリーム500円也。

例えば、有名洋菓子店のシュークリームも、確かに美味い。

しかし、100円で買えるスーパー、コンビニのシュークリームと、同一ライン上の値段が高い分だけ美味いシュークリームだ。

確かに美味いが、値段が高いのだから当然と思ってしまう美味さだ。

だが、ここのBigシュークリームは違う。

値段が高いだけで喰える代物では無い。

1ランク、いや2ランク上のライン上にいる、ここでしか喰えない美味さだ。

500円さえ出せばどこの洋菓子店でも喰えるシュークリームでは無く、ここでしか味わえない美味さがある。

有名店から取り寄せた500円以上するシュークリームよりも美味いこの極上スイーツを、俺は数か月に一度のご褒美として、今まさに頬張ろうとしたところだった。

きっと、そのBigシュークリームは、無残に床に転がった事だろう。

何しろ、俺はその時、異世界にいたのだ。

黒いローブ姿に囲まれて、魔法陣の中に立っている。

頬張ろうとした時、俺は椅子に腰掛けていたのに、今は魔法陣の中で立っている。

この歳まで、ファンタジー畑のオタクとして過ごして来た俺には判る。

ここは異世界だ。

そして、招喚で呼び出した俺にこう願うのだ。

勇者様、この世界をお救い下さい、と。

ふざけるな!心の底からそう思う。

せめて、喰い終わってから呼び出せ。

俺のBigシュークリームを返せ!

俺は心の中で固く誓った。

異世界なんて救ってやらねぇ。

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