第10話 走馬灯④

 警察署から3人が無事に帰還した事は大きな収穫となっていた。


 大量の実弾銃に加えて、少しではあるがレーザー銃も入手することができた。

 レーザー銃は弾薬を必要としない反面、エネルギーのチャージを必要とするため使い所は限られてくるが、女性でも使いやすく威力も大きいためだ。


 銃だけでなく、エマが【ナビレ】を一撃で仕留めた話も留守番メンバーを驚愕させた。

 この先も【ナビレ】のように銃が効きにくい敵性生物との戦闘も想定されるからだ。


 エマの実力を測るため急遽チャールズとの模擬戦を行ったのだが、結果はエマの圧勝であった。

 チャールズの攻撃はエマを掠ることさえなく、全て空を切るだけとなった。

 ゴム弾を装填した銃をチャールズに持たせてみたが、やはりエマの動きが早すぎて1発も当てることができなかった。


 軍の特殊部隊にいたチャールズが全く相手にならないほどの強さを、普通の女性だと思われていたエマが持っていたことは嬉しい誤算であった。

 その分、チャールズの落ち込み方といったら……見ていられないほどだった。

 そりゃあそうだよね……。


 ――


 武器を入手したことで、新たな拠点での生活をスタートさせることができた。


 資源の調達や研究資料の充実を考慮し、俺達は宇宙科学研究所に引っ越しを行った。

 生活に必要な機材は3Dプリンタで作成が可能なのだが、そのためには資源と設計図データの両方が必要となる。

 この研究所はどちらも豊富なので生活に困らないし、その気になれば宇宙船の建造すら可能かもしれない。

 また、研究施設だけにライフラインも独自のものが用意されており、当面の生活に困らないことも判明している。


 新生活に合わせて担当にも少し動きがあった。

 と言っても、エマがチャールズと共に防衛担当になったことと、俺が雑務担当となったくらいだが。

 雑務担当?と思ったのだが、食料確保や資材運搬など人手の足りていない仕事は多いため、毎日忙しく働いている。


 問題はベラだ……。彼女に何を担当してもらうべきなのか……非常に難しかったようだ。

 彼女はまだ12歳でやれることが非常に少ないためだ。

 真面目な性格なので、自分が貢献できないことに後ろめたさを感じていたようだが、ダニエルがうまくフォローしてくれた。


「ベラ、君にお願いしたい仕事があるんだ」


「私でもできる仕事なら……喜んで!」


「ありがとう。実は君にお願いしたいことは学習なんだ。これから毎日勉強をして、私達を助けられるような知識を沢山身につけてほしい」


「勉強ですか?私はすぐにでも働きたいと思っていたんですが……」


「気持ちはとても嬉しいよ。でもね、焦ってはいけないな。これは君を仲間だと思っているから……これからずっと一緒に生活することを考えて、ベストだと考えたからなんだ。言い換えれば、私達は君の可能性に投資をするということだな」


「具体的には何を勉強すればいいの?」


「ここは研究所だからね、科学を中心に勉強してほしい。もし設計図を発明できれば、3Dプリンタで様々なものを作ることができるんだよ」


「そうなんだ……少しやる気が出てきたかも。勉強方法はどうすればいいの?」


「学習用の人工知能が教えてくれるみたいだよ。それでも分からないところはアダム、ジョージ、フレデリックが分担して教えるから安心してほしい」


「分かりました。早くみなさんの役に立てるよう、頑張ります」


「ありがとう、とても助かるよ」


 ダニエルは笑顔でベラにお礼を言った後、仕事に戻っていった。

 その様子を見ていたエマがベラに声を掛けた。


「ある意味一番大変な仕事かもしれないけど、頑張ろうね。私は勉強が苦手だからあまり教えられないけど、色々フォローするからさ」


「ありがとう。ここのみんなはとても優しくて……本当に感謝しています」


「あ、ここだけの話だけどさ……ダニエルにはベラと同じ歳の娘さんがいたんだって……勉強が好きな子だったらしいからさ、この国がこんなことになってしまって娘さんに勉強させてあげられなくなったことが残念だと思っていたみたい……」


「そうだったんですね……あんな優しいお父さんなら娘さんは幸せだったでしょうね」


「私はあんな悪人顔のお父さんは嫌だな……。それでね……ベラが暇なときに本を読んでいるのを見て、勉強が好きなら存分に学ばせてあげたいって思ったみたい。案外いい所あるよね、悪人顔なのに!」


「あはは、悪人顔言い過ぎ~」


「でもさ、人間は第一印象ってすごく大事なんだよ。そのうち化粧とかファッションとか色々教えてあげるね。私、本業はモデルだったんだ」


「道理で……すごく綺麗な人だと思ってたから、納得できました。私も大人になったら……エマみたく綺麗になれるかな?」


「なれるわよ。お姉さんが責任をもって美人にいたします!」


「やった~。大人になるのが楽しみです」


「その前に……しっかり勉強しないとね。目指せ!知的美人!」


 その日から、ベラの表情はどんどん明るくなっていった。

 目標があるということは、人生を有意義なものにするのだろう。

 俺はベラを見て、そう思っていた。


 あの事実を知るまでは……。

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