第5話:魔導具の測定結果

【名 称】  緑玉刀りょくぎょくとうゾモロドネガル

【ギフト】  快迅疾かいじんしつ烈颶風れつぐふう

【能力値】  敏捷性、器用さ、風属性魔力、魔力操作、魔力耐性


人間の測定結果よりもシンプルな表示だった。

画面上半分に情報が記載してあり、下半分には3Dモデリングされた曲刀のグラフィックがかなり緻密に表示されてある。

情報としても最低限だが……これが魂魄結紮こんぱくけっさつ前に分かるのは有難い。

「名称は緑玉刀ゾモロドネガルか。表示してある絵と実物が同じに見えるから、まず間違いは無さそうだね。古い文献に、伝説的な騎士が愛用していた物だと記されてあった記憶があるよ。この緑玉刀と魂魄結紮をしたら、ここに表示してあるギフトや能力値が得られるって事か……」

この衝撃の事実を理解してるのはエルフ文字が読める魔女様とドッズだけだと思う。

ザーフィラとギルはおれたちの様子を窺っているみたいだった。

「魂魄結紮した瞬間にこれらのギフトや能力が得られるとしたら、凄いですね。少し怖くもありますが……」

先程も少し話にあったが、この力を制御しきれずに魔力暴走を引き起こしてしまう可能性があるのかもな、と思っていた。

「いや、これも仮定になるけれど、恐らくは魂魄結紮した瞬間に得られるのでは無く、装備者と魔導具の結びつきが強くなればなるほどその能力をより引き出せる様になれるのだと思う。これに関しては師匠やカロン導師から魔導具とはそう言う物だと教わった事があるんだよ」

実際に魔導具と魂魄結紮してるであろう人たちの実感だろうから、ここは信用の足る情報として受け止めておくべきだろう。


「では、もう一つお聞かせ願います。現在に至るまで魔女様は魔導具と魂魄結紮した事が無いと言う認識で宜しいですか?」

それを聞き魔女様は石板上からおれへと視線を向けた。

「ああ、私はまだ魂魄結紮した事が無い。さっき話したけど、目当ての魔導具があってね……長い間ソレを探し求めていたんだよ。何せこの長い人生で一度しか契りを結べ無いらしいからさ、これぞと決めた物と結びつきたかったワケさ」

「既に目星がついてると仰っていたと思いますが?」

「とあるササラの商人が所有していてね。実際現物も確認している。そいつが……まあいけ好かないヤツなんだけど、色々と頼みを聞いてくれたらその魔導具を譲ると言うから、今は言う事を聞いてやってるんだ」

そのササラの商人とやらが、魔女様の凶行ともとれる一連の行動に関与してる可能性が高いと感じた。

気分的にはこのまま問い詰めておきたかったが、ドッズやギルとザーフィラも同席しているので見送る事にした。

今は魔導具や天啓の石板に関連する事だけに会話を絞るべきだ。


「――では、魔導具の情報が得られる様になったので、宝物庫にあった他の物も測定しておくべきだと思いますが、どうされますか?」

今の所は国家の要職に就いてる感じでは無く、魔女様の秘書を務めている様な……そう言う気分でいた方が良いのかも知れない。

「一応、測定だけはしておくかな。リョウスケは文字は書けるのかい?」

「まだ試して無いですけど、自分の国の文字しか書け無いと思います」

「じゃあ後でドッズを連れて宝物庫に入ってくれるかい?測定結果を記録に残して、魔導具は宝物庫で保管する。誰か魂魄結紮に相応しい人物が現れたら都度宝物庫に魔導具を取りに来る様にしたい。面倒臭いけどね、魂魄結紮して無い魔導具を持ち歩く方が管理が大変なのは目に見えるだろ?」

これに関しては全くの同意だった。

一見はちゃめちゃな人だけれど、締めるべきところはきっちりと締めてくれるので仕える側からすれば助かる。

「はい、宝物庫で保管し改めて魔女様が封印するのが一番安全だと思います」

「よし、じゃあ後はギルとドッズの能力も測定しておこうか。戦力となり得る者の能力値は知っておきたいからね」

そう言い魔女様は石板をドッズとギルの方へと差出した。

彼らは一瞬顔を見合わせていたが、先に手を伸ばしたのはドッズだった。

石板に手を重ねるとすぐに青白い光が溢れ出す。

ドッズのギフトは【森林の祝福】と表示されてあった。

大森林で猟師を生業とする彼らしいギフト名だ。

心身評価の方は――。


筋 力      74

耐久力      65

知 能      83

精神力      85

敏捷性      73

器用さ      88

魅 力      72

生命力      68

知覚力      93

意志力      80

心身評価    781


能力の合計値が781もあるので、ザーフィラと比べ劣るとは言え優秀な人物である事は間違い無い。

器用さや知覚力が高いのは猟師ならではと言った所だろうか。

引き続き魔力評価を見てみる――。


光属性魔力    83

闇属性魔力    80

火属性魔力    34

水属性魔力   155

土属性魔力   521

風属性魔力    93

時間属性魔力   20

空間属性魔力   20

魔力操作     99

魔力耐性     94

魔力評価   1199


これを見る限りやはりドッズは魔法使いに分類するべきだと感じた。

魔力評価に関しては宮廷魔法使いのサイラスよりも数値が高い。

ドッズの測定結果を見て魔女様は「ドッズが若い頃は……確かギフトは【森林の恩恵】だった記憶があるけど、今は【森林の祝福】になってるね。いつ頃変化したか分かるかい?」と問い掛けた。

「それが……ギフトの変化には俺も今気が付いたので、いつ変化したか分かりませんなあ。最後に測定したのは二十五年以上前になります。その時は【森林の恩恵】だったので、変化したのは集落に戻って来て猟師を生業にしてからになるのでしょうなあ」

ドッズは魔女様に対し依然恐縮してる様子だった。

住んでる環境や従事してる仕事の経験など外的な要因も、ギフトの在り方に影響を与えると考えるべきなのか。

「すみません、ドッズのギフトに関してですけど……【森林の恩恵】から【森林の祝福】への変化は格上げになったという事ですか?」

こう言った事は会話に上がる度に明確にしておいた方が良いと思っていた。

特に魔女様とは出来るだけ同じ認識を共有しなければならない。


「一般的には、【恩恵】よりも【祝福】の方が格上とされている。【祝福】の上が【寵愛】になるんだけどさ。森林やら大地やら海洋やら……その冠が示す地帯にいる間は能力上昇が生じるんだよ。ドッズの場合は【森林の祝福】だから森の奥へ入れば入る程能力上昇が大きいはず」

地域特性バフが付与されるという事か。

そうなるとドッズは天職に就いていると言って過言無い。

「要するに集落内の測定結果よりも、大森林の奥で測定した方が能力値が高く表示されるという事ですね?」

「たしかそう言った検証は白夜とドッズがやってるだろ?昔聞いた記憶がある。【森林の恩恵】の時でもかなり能力上昇があったらしいから、【森林の祝福】の場合は能力上昇値も大きくなるだろうさ。それを考慮すると、ドッズはこの地域に置いておくのが一番だね。心身も魔力も申し分無いけど大森林から離れた所に連れ回すのは道理から外れるからさ」

雰囲気的にドッズは命を賭して魔女様の役に立ちたそうだけれど……この件に関しては魔女様の仰られる通りだったので、特に反論も抗議も無く話は進んだ。

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