第39話四方山話『ゲリラと少女』

 返り血、臓物の汚れを気にもとめず、聖戦兵に混じり戦死した敵兵の装備を剥ぐ涼花を見てオタカルは冷や汗を流した。

「歴戦の傭兵並みというか、流石に人の死に無頓着すぎませんか?」

 その問いに涼花はさわやかに汗をはらいながら答えた。

「そんなものとうの昔に慣れたわよ」

 オタカルは涼花達が上流階級の出身かとも一時思ったが、この様子から彼女達の世界はこちらとは比べ物にならないほど過酷な世界なのではないかと勘ぐった。

 そうであれば彼女達の適応能力、凄まじさにも納得がいく。

「センパイは昔ゲリラをやっていたことがあるんですよ」

 回収した武器を抱えてやってきたカワサキが二人の側にやってきた。

「ゲリラとは?」

「えーと、元はスペイン語でしたっけ?小さな戦争って意味だそうです」

 カワサキの下手な答えに混乱したオタカルに涼花が助け舟を出した。

「昔父に付いて世界を回った時に飛行機、空を飛ぶ巨大な馬車みたいな物よ。それが墜落して現地の反政府勢力に拾われたのよ」

 オタカルは顔を歪めた。

 その時涼花が幾つだったのか、拾った相手がどんな連中だったのかは知らないが、碌な目には合わなかったはずだ。

「その反政府勢力、ゲリラはまあまあ紳士的だったけど、氏素性もわからないガキをただで食わすほど甘くは無くてね。少年少女兵として戦ったわ」

 涼花は死体から装備を剥ぐ手を止め顔を顰めた。

「振向いた瞬間隣の子供の頭が吹き飛んだ事があったわ。脳漿が弾けアタシの顔を濡らしたの。痛い痛いと言いながら死んでいくのを何度も見たわ。死ぬ瞬間皆糞を垂れるのよ?あの時は生き残る為に何でもしたわ」

 その横顔にオタカル初めて憐憫の感情を抱いた。

「その……なんと言っていいか」

 オタカルはかける言葉が見つからなかった。

「まぁすぐに戦友の借りは何倍にもして返してやったけどね!」

「へ?」

 ニカっと獰猛な笑顔を浮かべた涼花にオタカルは間の抜けた声を上げた。

「当然の事よ。復讐すら果たせない奴は人として扱われないわ」

「まぁ、確かにそういう風習のある土地もありますが……」

 それは普通男性に適応される価値観であり、幼い少女が実行することではない。

「少年少女兵を率いて数倍の被害を与えた頃に迎えに来た父に回収されたけどアレは惜しかったわ。あと少しで殲滅できたのに……」

「(この勇者は生まれついての狂戦士だ……)」

 オタカルは涼花には逆らわまいと心に誓った。


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