第15話勇者なんて扇動者と大して変わらないわよ
無理矢理にオタカルに諸々の準備をさせ、家人まで徴発し涼花は聖都ロムの各地で演説を繰り返して回った。
「諸君!我々は多くの英雄を失った!これは敗北を意味するのか?――否!始まりなのだっ!!」
周囲に『聖戦軍には君が必要だ!』というフレーズと共に、勇者らしい格好で幾許か美化された涼花が観る者を指差す様に描かれた看板が並ぶ。
そして、その中心でチンドン屋の如くに飾り付けられたド派手な演説台の上、身振り手振りを多様に交えたオーバーで過激な演説をぶちまける涼花がいた。
「──人は平等ではない。聖教徒と異教徒、正義を行う者とそうでない者、聖戦に望む者とそうでない者、人は平等ではないっ!──」
非常にオーバーだが、わかりやすく記憶に残りやすい動作と、どこかで聞いた事のあるのような、しかし、物事を単純化し同じ事を何度も繰り返すようなわかりやすく心に響く演説。
涼花はそれを何の躊躇もなく、自分が正しいと自信たっぷりに胸を張って言い切る言動。
何より生まれ持った才としか言い切れない、その抑揚と声のトーンは絶妙で涼花を微塵も信用していないオタカルすら熱に当てられそうになったほどだ。
「──諸君、アタシは聖戦が好きだ。諸君、アタシは聖戦が好きだ。諸君、アタシは聖戦が大好きだ──」
そして、大多数の聴衆は涼花に対し『見目麗しい伝説の勇者』以上の前情報を持っていなかった結果、このアジ演説は大きな熱狂を生んだ。
途中何処から連れて来たのか、何処かの神楽隊の演奏が演出に加わるとその熱量は一気に跳ね上がった。
涼花の演説に合わせ旗がはためき、彼女の動作に合わせ演奏が拍車をかける。
暗くなれば終わるかと思われた演説は、かがり火が焚かれより幻想的な雰囲気を作り出し、その中で鏡を使った簡易的な集光器により涼花の姿ははっきりと、より神々しく演出された。
「──現在20時45分、これより反撃を開始するっ!!」
涼花が手の平を下に、腕と指を完全に伸ばした古代ロム帝国式の敬礼をすると、誰が指導したでもなく聴衆は熱狂のままにそれに習った。
現代の地球であれば研究し尽くされた演出効果であったが、娯楽の少ないこの世界の人間にとってこの刺激的かつ幻想的、まるで奇跡を体感するような未知のアジ演説は、名状し難き熱狂へ狩り立てるに十分過ぎた。
「ジークハイル!ジークハイルハイリガークリーク!ジークハイルヴィクトーリア!!」
「「「ジークハイル!ジークハイルハイリガークリーク!!ジークハイルリョウカ!!!」」」
涼花の声に聴衆は熱狂し、彼女の全てが神聖である様に彼女の意図通りに模倣し更に熱狂の炎を巻き上げる。
そんな熱狂の中、僅かに数名額に冷や汗を浮かべ、その光景に嫌な予感をよぎらせている物がいた。
「これじゃあ、勇者じゃなくて
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