第15話 おっさんは慰めない

「大丈夫、ですか?」


 俺が頭の痛みに呻いていると縛られたエリシアが言った。

 人質に心配されてしまった…。


「ああ大丈夫大丈夫。それよりすぐ解いてやるからな」


 俺はエリシアの元に行って縄を解いた。


「……」


 自由になったエリシア。

 しかしその顔は暗い。


「アラベルさん…ここはどこですか?」

「帝都のスラムだ」


 俺が答えるとエリシアは悲痛な面持ちで「そうですか…」と呟いた。


「これだけの騒ぎがあったのに野次馬の一人も来ませんでした。ここではこんなことがいつも起こっているのですね…」


 そう言うとエリシアは壁に空いた穴から外へ出た。

 そして、顔を辛そうに歪めた。

 そこにあったのは荒廃した街の姿だった。

 崩れかけた家屋に腐敗臭、そしてを食い漁るカラス。


「これがわたしのしてきたことなのですね…」


 エリシアは聡い子だ。

 これが帝国の犠牲になった者達の末路と気づいたのだろう。


「スラムのこと、知ってはいました。しかしこれはあまりに……」


 エリシアが今にも泣き出しそうな表情で言った。

 ここで「お前のせいじゃない」と慰めるのは簡単だ。

 事実、こうなったのは親父のせいでエリシアは悪くないのだから。

 だがエリシアはそれで納得するような子ではない。


「なあエリシア、帝国を変えたいか?」

「はい…ですが今さらわたしに何ができるというのでしょう?」


 帝国民は現在の悪法を敷いた女王を強く恨んでいる。

 ここから挽回だなんて夢物語もいいところだ。

 ーーだが


「エリシア、それは違う」


 俺はそんな夢物語を知っている。


「お前の中には民を、国を動かす言葉が、力があるはずだ」


 絶望の中から立ち上がって民を味方につけた姿をーー


「いいか、エリシア。これは慰めなんかじゃない。事実だ」


 そして民を率いて諸悪の根源を討ち、国を変えた女王がいることをーー


「お前なら…いや、お前にしかできないことだ」


 俺は知っている。


「アラベルさん…」


 エリシアは目を丸くしている。

 だが次の瞬間「ふふっ」と笑った。


「わたしにそんなことを言うのはアラベルさんだけですよ。でもーー」


 笑みを納めて真っすぐに俺を見つめるエリシア。


「覚悟はできました」


 うずくまって涙を零すか弱い少女はもういない。

 そこには瞳に強い光を宿す女王の姿があった。

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