第13話 おっさんはいつも少し遅い
Side エリシア
鈍痛と共に目が覚める。
埃っぽい空気が鼻についた。
薄暗い室内に窓はなく外の様子は全くわからない。
それが不安を煽った。
「起きたか」
声の方に目を向けるとフードを被った3人の人影があった。
自身を見ると椅子に縛り付けられていた。
この後自分がどうなるのかを想像して血の気が引く。
「安心しろ。大人しくしていれば何もしない」
真ん中に立つ男がそう言った。
「何の、ためにわたしを連れてきたのですか…?」
震える声で問う。
「我らは『革命の牙』。その問いに答える義理はない」
そう言うと彼らは一斉にフードを取った。
そこには3人の男の姿があった。
その頭にはそれぞれ右から犬、虎、兎の耳がついている。
全員獣人…革命の牙……ーー
「…あ」
そうだ、思い出した。
『革命の牙』
帝国の獣人や一般市民への不当な扱いに抵抗するために設立された反政府組織だ。
「あまり時間がない。そろそろ始めよう」
そう言って虎の獣人がわたしに手を伸ばす。
「ひっ…!」
思わず身体が強張る。
その手がわたしに触れようとした瞬間ーー唐突に壁が爆ぜた。
「な、なんだ!?」
獣人たちが慌てふためく。
わたしは差し込む光に目を細めながらそちらを見る。
「よう、テロリスト共。うちの姫さん迎えに来たぜ」
そこには不敵に佇むアラベルさんの姿があった。
◇
Side アラベル
俺はぶち破った壁から室内の様子を確認した。
椅子に縛り付けられたエリシア。
そして兎、犬、虎の獣人。
「ん?」
俺は虎の獣人に見覚えがあった。
しかし、それはこの世界の話ではない。
前世でプレイしたゲームの話だ。
こいつは確か反政府組織『革命の牙』の幹部だったはずだ。
しかし何故こいつがここにいる?
本来なら革命の牙のリーダーと共にアルスに出会うためシュライアへ向かっているはず…。
それが何故?
だがそれ以上思考を進めることはできなかった。
「フッ!!」
犬の獣人が鋭い突きを繰り出してきたからだ。
俺はそれを躱しつつ転移魔法を使った。
「なっ!?」
犬獣人が突然下にぽっかりと開いた穴に落ちていく。
相手の立つ地面を丸ごと転移させた。
立つ地を失った犬獣人は重力に従って落ちたというわけだ。
「『プロテクション』」
俺が唱えると穴の入口に結界が現れた。
「ーーっ!? くそっ!!」
犬獣人が結界を殴りつけるが壊れる気配はない。
まずは一人。
「ロウ!?」
俺はそう叫んだ兎獣人に瞬時に肉薄した。
「ーーぐふっ!?」
そして動揺している隙をついて顎に掌底を叩き込み意識を刈り取った。
「もらった!!」
虎獣人が後ろから襲い掛かって来る。
俺は虎獣人の腕を掴み取りそのまま背負い投げをーーしようとして唐突に足元の感覚が消え浮遊感に襲われた。
そして地面に吸い込まれるように落ちた先には真っ暗な空間が広がっていた。
何も見えない。
「ここは我の領域、大人しくして下がってくれればこれ以上危害は加えない」
虎獣人の声が響く。
「ここで引き下がったらカッコ悪いだろ? おっさんは若者の前ではカッコつけたい生き物なんだ」
「そうか。ならば仕方ない」
相手の空気が変わる。
戦闘態勢ってところか。
俺はため息を吐いて影も見えない相手に意識を巡らせた。
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