リコレクション/リメイク

幻中ゆうき

夢乃風華編

開幕

 何も考えずに壁に沿ってひたすら走る。

 走り始めた時は振り返り、様子を確認していた。口元に笑みを浮かべ、空中をこちらを向きながら後ろへ平行移動するローブをまとった人物がいた。

 ローブを纏った人物が暗闇へ消えてから、振り返ることはない。そのような余裕はなかった。

 横にある壁には崩れゆく街が映し出されているが、ゆっくり眺めてはいられない。

 一つ足を踏み出すたびに地面にはヒビが入り、一瞬後には崩れ落ちていく。背後には暗闇が待ち構えている。

 来た時には一本だった道が二つに分かれており、来た時にはなかった道から光が差し込んでいる。光に導かれるように飛び込む。

 白い光が目の前を覆い、地面が崩れ去る轟音ごうおんは消え、静寂に包まれる。

 神々しく輝く橋に立っていた。辺りはきりに包まれ、欄干らんかんに沿って進んでいく。

 やがて、きりの中から巨大な壁が現れた。否、壁ではなく巨大な扉だった。

 近づくと扉は自動で開いていく。まばゆい光が差し込み、思わずまばたきをする。

 その一瞬で景色が変化していた。

 見渡す限り真っ白な空間。入ってきた扉はなく、どこまで続いているのかわからない。

 足を踏み出してみるが、進んでいるという感覚がない。同じところで足踏みをしているように思えてくる。

「……か、ふうか。起きないと遅刻するよ」

 母の声とは異なる甘くてあやしい声がどこからか聞こえてくる。

「どこにいるの」とこうとするが、違和感を感じて呑み込む。場所などは関係ない。それよりも、もっと大事なことがあったはずだ。

「ーーまだ夏休みじゃないよ」

 私の声が白い空間に響き渡った。

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