憧れの先輩から借りた本で、オナニー寝落ちもちもちしたら半裸の女の子になってるんですけどッ!!!

にくまも

第1話ヤッちゃった、寝ちゃった

 子供の頃、ラノベがあまり好きではなかった。

 漫画やアニメで十分だし、わざわざ字を読むなんて時間の無駄とさえ思っていた。

 でも、ある時ふと目についた本の帯……〇〇先生大絶賛! それがなんだが性行為後の感想みたいだなって思ってから世界は180度変わった。

 カクヨムの作品タイトル上部のレビュー、ハーメルンの評価、書店やコンビニに置いてある本。

 媒体がなんであれ、誰かに読まれて感想がついた物語を読む。

 ——それは想像力さえあれば寝取りのような濃艶で、エッチな行為なのだ。




 

 夕日が窓から差し込み、誰も座っていない長テーブルから反射する図書室。

 カウンターに座り、ページを捲った風で送られる独特なインクの混じった香りを楽しむ。

 何気ない日常、ただ青春が浪費されていく時間。

 だけど、それは俺にとって無意味なんかじゃなくて特別感さえあった。


「今日は人、来ないね」


 その理由は他でもない、隣に座っている憧れの先輩『白湯月 翠』のおかげ。

 吸い込まれるほど綺麗で艶やかな腰まで伸びた黒髪に、青空を思わせる透き通った瞳。

 大きすぎず小さすぎない美を感じる胸に、細く引き締まった腰回り。

 恋愛倍率は121で百人に聞いたら百人が美人、学校中の男たちが会うため、図書室へ来て貸し出し率が上がるほど。

 そんな先輩が髪を耳にかきあげ、本から目を離して微笑んでくる。

 

「そ、そうですね、こんな静かなのは珍しくて怖いぐらいです」

「ね」


 小さな相槌を言うと先輩は再び本に視線を移し、静かな時間が図書室を包み込む。

 それ以上は何も言わなかった。

 これ以上は望まない、望めるはずもない。

 なにせ俺は中学の時……一度先輩に告白して振られている。


『ごめんなさい、今はお友達が良いなって』


 だから、普通に会話してもらえるだけありがたいんだ。

 一人暮らしのアパートに戻っても、押しつぶされそうなほどな孤独を感じて寂しいから。


「冴木くんって本好きだったの?」

「本ってより、この帯が好きなんですよね」

「帯?」


 読んでた本を閉じ、カバーの外側に細長くかかっている帯を先輩に見せる。

 

『〇〇先生絶賛ってなんか性行為後の感想掲げてるみたいでエッチじゃないですか、そしてそんな他人が味わったものを自分も味わう背徳感……これがたまらないんですよ』


 とか、言ったらキモがられるんだろうなぁ。


「同じ作品でも違う人が読んだら違う感想がつく、それが面白いって言うんですかね?」

「それ分かるかも、人によって全然違う視点から感想が出ちゃってビックリする事もあるし」


 それっぽく本当の意見をオブラートに包み、目を泳がせながら答える。

 すると思いの外、キラキラと目を輝かしながら先輩は前屈みで話しかけてきた。

 ま……まて、綺麗な鎖骨から流れるように視線が胸元のワイシャツと白い肌の隙間に移り、わずかな膨らみの間にあるピンク色に黒いリボン。


「せ、先輩——」

「んー?」


 ぱちぱちと純粋無垢な瞳で見つめてくる先輩に熱が込み上げて高鳴る胸。

 もう一度告白したい、そう思う気持ちが沸々と煮えたぎる。けれど……振られた後がどれほど辛く、締め付けられるのか分かっているからこそ無理やり飲み込む。


「先輩はどんな本を読んでいるんですか?」 

「え、えっとね、これね。武道武尊ってラノベ作家の本、知ってる?」


 話を逸らさなきゃ、目線で胸元を見ていたのがバレちまう。

 咄嗟に先輩の読んでいた本を指差し、体勢が元通りになって胸元が見えなくなる。

 少し残念……だけどいいんだ、いいんだこれで、ブラジャーが少し見えただけでも充分過ぎるほど興奮……ちが、幸運なんだから。


「あー、擬音語が見えることに悩まされてきた主人公がいじめとかを解決するミステリー物でしたっけ? 結構話題ですよね」


 あぁ……ニコッと笑いながら両手でラノベを見せつけてくる先輩可愛いな。

 あんまり本の話を他の男たちとしているところ見たことないし、嬉しくなってるのかな。

 でもなぁ、あんまり人気って言われる作品はヤリ捨てにされているみたいで可哀想すぎて読めないんだよな。

 帯に棚放たな先生、太鼓判! 250万部突破とか書いてあるけど、どんだけ汚されてるんだよ……可哀想すぎる。


「そうなの? 今読んでるけど、あんまり面白くないんだよね」


 背伸びしながら頭を傾げる先輩は、ふいに俺を見つめたまま動きを止める。

 っえ、思考がそのまま口にしてたりしてないよな? そんなのはラノベ主人公のお決まりだけつまらない現実味のない世界だけの話だろ。


「ど、どうしたんですか」

「良かったらこれを貸すから、後日感想聞かせてくれない?」

「えっ、良いんですか?」

「良いよ、良いよ、じゃそろそろ17時だし図書室閉めよっか」


 スルスルっと目の前に本が差し出され、有無も聞かずに先輩は立ち上がって帰ろうとする。

 これはつまり……後で感想交換イベントまでするってこと? なんてこった先輩が読んだ本を回して感想とか、エッチすぎる。


「じゃ、次の放課後までの約束ね?」

 

 差し込む夕日照らされ、少し赤みがかったような頬で純粋無垢な笑顔ではにかむ先輩。

 相対的に自分の心の汚さを突き付けられているようで、申し訳なくも……目に焼き付いて仕方なかった。





「はぁっ……はぁっ、俺、やばい奴だな」


 枕元に丸まったティッシュを転がし。

 ベッドの上で寝っ転がり、荒くなった息のまま暑い顔を手で隠して自己嫌悪に陥る。


「エッチだな、とか口で言ってたけど、本で出すのなんて初めてだよ。もう立派な変質者や変態になっちまった」


 先輩の本っていう要素が合わさるだけで、ここまで興奮が違ってくるものなのか。


「しょうがないじゃん、静かなのは…………もう嫌なんだよ」


 孤児院に捨てられた時のことがフラッシュバックしそうになった俺は、紛らわせるために賢者タイムを使って改めて先輩の本を……先輩の本を。


「あれぇ……? 表紙って、こんな白かったっけ」


 薄暗い中でよく見えなかったのでゆっくりと起き上がり、リモコンで電気をつける。

 蛍光灯が切れかけているから、チカチカと心を煽るように中々つかない。

 そして光がついた時、部屋の中が、本の全てが白日の元に晒された。

 

 主人公の顔はおろか、ヒロインと帯にさえ所々に白い粘液がかかっていて、徐々に下へと落ちてきていた。

 

「えっとぉ、違うよね?」


 元々、こんな感じの表紙だったような気がしなくもない。というか、絶対そうだった気がする。

 現実逃避ではない、そう言い聞かせるように小指で擦り、親指で挟むとねっとりと指に張り付く。


「————ヤバいッ」


 賢者タイムで広がっていた血管、ふわふわだった頭。

 それが一気に引き締まり、心臓がフルスロットルで血が駆け巡って回転するのが分かる。

 急いでキッチンまで走り、水道の水が飛び散ろうと構わず全開に出し。

 破れようが知らないとばかりにキッチンペーパー乱暴に引き抜き、べちゃべちゃに濡らす。

 そしてすかさず、自分の部屋へ急いで戻ろうとした。


「っあ」


 けれどその時、水で揺れた床に足を滑らし……俺は頭から床に叩きつけられた。


「ま、て……カピカピは、カピカピは……不味ぃ」


 朦朧としてくる意識、それでも恥と根性だけで這いつくばれるってんだから人間は凄い。


「ッ……うくっ」


 今だ、今こそ頑張る時……これを逃せば、間違いなく俺は変質者の目で見られちまう。

 右手で身体を引きずり、左手で身体を押し上げる、その繰り返しをしながら先輩の本まで指がかかる。


「後は、あとぁ……ふく…………だ、け——」




 


『ピピー、ピピー』


 いつも平日に設定していたスマホのタイマーが鳴り、俺は左右に手をまさぐる。

 ムニムニと手が沈む柔らかい感触に少し硬い突起物。なんだこれ? 人肌に暖かい、これじゃない。


「むっ……ンッ」

 

 腕を動かして触ると今度は冷たく、ツルツルとしたプラスチックのような触感が伝わってくる。これでもない。


「っち、そうだ。ポケットに入れたまま寝ちまったんだっけ」


 後頭部の痛みにだんだんと意識が覚醒し、ポケットで鳴り続けるスマホを取り出す。

 5月2日金曜日。7時ちょうど、朝ごはん食べて学校行かないとな。


「俺、なんで床に寝てるんだっけ……?」


 ボケーとベージュの無機質な絨毯を見つめる。

 確か図書室で本を借りて、帰ってきて……そんで、そんで、昂っちゃって、出ちゃって、かかっちゃて————本っ!! どこやッ!

 もちもち精液つけたまま寝落ちもちもちしちまったッ!!


「本本本本本本本本本本本本本本本本本本、本っ!!!!!」


 思い出した。俺は本に精液をかけたまま寝ちまったんだ!

 今ごろカピカ……ピになって…………?

 ムニっ、と左手に柔らかくて暖かい感触が伝わる。


「ん……なんだこれ」

 

 住んでいる寮にはペットなんて飼ってない、抱き枕にしては暖かい。

 一体なんだ、そう思って振り返った俺は、


「————ッ」


 まるで絵画から出てきたような美しいボディーラインな肌白い美少女が銀髪を優雅に広げ。

 細長い紙一枚だけを掛け、ほぼ半裸で寝ていた。


「ぁ、ん…………………すぅ」


 その胸に手を押し付けている現状が理解できず、俺は絶句した。

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