砂漠の少年

@my_name_is_Hatt

砂漠の少年

 飛び出た残骸に肩を押し当て、力を込める。「おい」びくともしない。「リカルド。やめろ」握り直し、頬まで押しつける。「やめろ!!」びくっとして手を止めた。


「大声を出させるな。辛い。今から言う事をよく聞け。

まず最初に、俺はもう助からない。足の感覚が無い。手遅れだ。

次に、皆ほとんど無事だ。俺のように逃げ遅れた者は俺の他に二人だけだ。

お前のウチの隣のばあさんとその孫だ。

最後に、お前はこれから町へ行くんだ。少し前に資材を売ったのを覚えているだろう。そこで一年待つんだ。お前のヨットじゃ仲間達に追いつけない」


 族長がの声が少しずつ小さくなっていく。どうしようも出来なくて、怖くて、泣きながらウンウンと頷く。


「仲間達はきっと一年後にはあの町へ蟲を売りに来る。それまでそこで暮らすんだ。それで、っふぅ。それで移動する時は夜にするんだ。昼に寝て、ふっっ、夜に起きろ。どうせしばらくしたら盗賊どもが来て、っふぅ、金目の物をもっていくだろう。きっと町で売るだろう。

絶対にそいつらに手を出すんじゃないぞ。ひゅっっ。食える物は蟲どもが食ってったから無いが、大事な物は持っていけ。よし。今すぐ出発だ。行け」


 頭がクラクラして、意識が掴めないけれど、族長の言った事はきっと正しい。そこにずっと居てはいけない気がして、走った。しゃっくりを抑えながら、ふらふらの足で、走った。

 家のテントがあった場所は、真上からぺしゃんこに潰された布の塊だけになっていた。もともと壁だったり天井だったりした布を必死に捲って、ようやく自分のブーメランを見つけた。他にも大事な物は沢山あったはずなのに、見つからなかった。きっと父さんと母さんが持って行ったのだろう。

 ブーメランを見つけたころには空はすっかり暗くなっていて、もう何も探せなかった。

 ぼんやりしてきちんと働かない頭のまま、沈んだ太陽を追いかけるように、西へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る