第一話 雪の中から女の子が現れました
目が覚め窓の外を見ると雪が降っている。
俺が転生してきたこのプレザント王国にも冬があるんだな……。
そう思いながら布団に包まる俺スカイ・イルサンダーこと関口空。
「うぅ、寒い……。寒すぎて布団から出れない」
少し部屋が暖かくなるまでこうしていよう。
そう思ったのも束の間、俺の側近であるオオカミ人間のルーヴが強くドアを叩きながら起こしにきた。
「スカイ様!何してるんですか!起きてください!外が真っ白です!!」
うるさいな……雪ではしゃぐのなんて子供が犬くらいだろ。
そうか、ルーヴのやつ一応オオカミ人間だから犬のようなもの、だからテンションが高いのか……。
とりあえず俺は寝たフリをした。
「まだ、寝てらっしゃるのですか?」
少し寂しそうな声のルーヴは諦めたのか部屋の外が静まり返った。
よっしゃ、これでもう少しゆっくりできる。
俺は目を閉じて安心した。
突然、バゴーン!と勢いよくドアが開いた。
「え?」
思わぬ出来事と破壊されたドアを見て俺は唖然とした。
見事にボロボロになったドアの先に目線をやると腕を組み物凄くご機嫌斜めのグレスが立っていた。
「やっぱり、寝てるフリですか……起きてあの白くて冷たいやつがお城の道を塞いでいるので今からどうにかするので手伝ってください」
アテンプト村から俺について来ているグレス。
16歳で歳下のくせになぜか俺にめちゃくちゃ当たりが強い。まぁ、きつね顔っていうのもあってそこが可愛いところなんだけど……。
「ほら!起きてください!」
グレスは無理やり俺から布団を剥ごうとした。
「嫌!」
絶対にここから離れたくない!そう思いながら必死に布団を掴み抵抗をした。
「全く……本当にどうしようもない人ですね」
軽蔑的な眼差しで俺を見ているが関係ない!こんなに寒かったら出たくないのが普通だ。
呆れているグレスと俺を見て微笑むルーヴ、対照的な二人と裏腹にもう一人、俺を起こしに来た奴が現れた。
「スカイ様!起きてください!外が!外が真っ白です!」
勢いよく俺にダイブしてくる女、それは根暗のソフィアだった。
「痛たぁぁぁぁ!」男にしか味わえない痛さにより俺は悲鳴をあげてしまった。
ソフィアがダイブして来たことによりソフィアの膝が俺の大切な物にダイレクトアタックしたのだ!
あまりの痛さに
「ソフィア!お前よくも俺の大切な玉を!」
「今だ!」
好機を見逃さなかったグレスは華麗に布団を掴み俺から剥いだ。
悶え苦しむ俺とそんな俺にお構いなしに跨り肩を揺らすソフィア。
そして、俺から布団を無理やり剥ぐグレス。
「分かったよ!起きる!起きるから!」
俺の完敗だ。仕方がない、雪かきを手伝うとするか……。
三つの視線を感じながらベットを降りて着替える。
「ちゃんと行くから先に行ってくれ!」
物凄い疑うよな目を向けられたが三人とも空返事で外へ向かった。
「俺だってやる時はやる男だぞ」
ズボンを履き終えた俺はシャツを手に取りながら文句を言った。
着替え終えた俺はふと思った。
「あと、五分だけ布団に居させて……」
布団へと戻り目を閉じた。
五分だけ、そう五分経ったら本気出すから……。
段々と布団の温もりに気持ちよくなり意識が薄れていく。あぁ眠れそうだ。
するとグレスが俺の服の襟を掴んだ。
「やはりこうなりましたか、ほら行きますよ」
相変わらず華奢な体なのに力が強い。
男の俺を簡単に引きずっている。
「すみません」
俺は謝りながらグレスにされるがまま外へと連れ出された。
外に出ると肌に突き刺さるような寒さに襲われた。
「寒!」
思わず体を摩ってしまう。
目の前には自分の腰くらいの高さに積もった雪が城を覆い尽くしていた。
「まって、こんなに積もるの?真冬の東北地方じゃん」
初めて見た大雪に思わずひびってしまった。
「確かにここまでこの白いのが降るのは今までなかったですね……」
ルーヴは不思議そうな顔をしながら雪をみた。
「ちょっと待って、みんな雪って呼ばないの?」
俺はさっきから三人とも白いやつとしか言っていないことに気がついた。
「ゆきですか?」
ソフィアが俺に聞き返して来た。
「そう、雪って言うんだ。みんなそう呼ばないのか?」
「プレザント王国ではゆきというものはなかなか落ちてこないので名前なんて知らなかったです」
つまり雪が珍しいのか……。
それならば積もりすぎていないか?
グレスは俺に少し大きめのスコップを押し付けてきた。
「ほら、体を動かせば温まりますよ」
「やればいいんでしょ……」
俺は気分が上がらないがここは素直に言うことを聞かなければ恐ろしいことが待っているそうに決まっていると思いスコップを嫌々受け取った。
「それでは張り切ってゆきをどかしていきましょう!」
満面の笑みで元気よくそして天高く拳をあげるルーヴ。
「……」
誰一人としてそのテンションについていく者はいなかった。
面倒臭い、だけどやらないと終わらないし……。
スコップを雪に刺して端にどかそうとするけど結構力がいる。
俺も転生前はこんなに雪が降る地域じゃなかったから雪かきなんて初めてだし。
しばらく続けていると足と腰、そして腕に疲労が溜まってきた。
「ぜぇ、ぜぇ、疲れた。俺考えるの専門だからこういう体力仕事苦手なんだよ」
とりあえず休むために俺は腰を下ろした。
「だめだ、数十分しかやってないのに体が痛い」
肌は冷たいのに体が温まっているせいで上着がいらなくなってきた。
そんな俺と対照的に楽しく雪かきをするルーヴとソフィア、そして合間に手を息で温めているグレス。
「それにしてもよく頑張るな……」
自分が情けなけなくなってきた。
「俺もやるか……」
重い腰を上げ再びスコップを手に取り雪かきを再開した。
そうして昼前になると雪で隠れていた城の道が顔を出した。
「お、終わった……疲れた、もう動けない」
俺は息を切らしながら地面に大の字で倒れた。
地面が冷たいのなんて関係なくなっていた。
そんな俺を見て呆れ顔のグレスが手を息で温めながら近寄って来た。
「お疲れ様です。それにしても本当に体力がないんですね」
彼女は俺をバカにしているけど指先は真っ赤になり恐らく
ハァ、ハァと手を温めるグレスの白い息が空気へ溶けていく。
痩せ我慢をしているが寒そうにしているのがすぐに分かった。
「ちょっとこっちこいよ」
俺はグレスの手を自分の手で包んで温めた。
自分でも驚いた。グレスが手を悴んでいて可哀想だと思い温めてあげたいという気持ちだけで自然と手を握ってしまった。
我に返りよく考えた。
やばい、めちゃくちゃ恥ずかしい、これ絶対に嫌がられるよな……セクハラじゃん。
「何してるんですか?」
グレスは嫌がっていたのか少し小さい声を出しながら俺と目線が合わないように下を向いた。
「す、すまん。つい……」
俺はすぐに手を解こうとした。
「仕方のない人ですね、こうすればお互い手が温まるのでもう少しこうしていても良いですよ」
珍しい、あの俺にめちゃくちゃ当たりが強いグレスが目を合わせてくれないけど怒っていないなんて。
何だろう、心臓の鼓動が強くなってくる。
きっとグレスとこうやって手を重ねているのが恥ずかしいのだろう。
俺は彼女が顔を赤くしているのに全く気づかった。
そして彼女も俺が顔を赤くしているに気づくことはなかった。
「……」
なぜか静まり返る俺とグレス。
そこへソフィアの悲鳴が響いた。
「きゃー!ゆきの中から小さい子供が!」
俺とグレスは手を振り解きソフィアの元へ急いで駆け寄る。
ソフィアは腰を抜かし雪かきによって蓄積された雪に指を差した。
差された方向へ振り向く俺とグレス、そして後から来たルーヴ。
そこには白い肌の小さな女の子が震えていた。
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