12 逃げる


  

 リンク! したら、めちゃくちゃなんか来たあああーーー!!!

 ワールドアナウンスとか卑怯でしょうが! 恥を知りなさい! それのせいで、ここに人が殺到する前に、逃げるんだよ〜!


「え、何このアナウンス。ハジマチの修理屋ってここ……だよね? セ〜ツ〜?」


 なんだその顔は。カナが「ヤッベ」みたいな顔で こっちを睨んできてる。そんな顔で睨まれても不満なのか。怒っているのか、それともマズいとでも思ってたりするのか。わからん。



「そんなことはどうでもいいから、この犯人捕まえに行こう!」

「いや、よくない、よくない!」


 ここは、私が捕まえにいくのだ! と見せかけて現場から逃亡するべし。


「ワタシハナンモヤッテナイヨ。」

「かたことで言われてもねえ。とりあえず、ダッシュダッシュ」


 よっし、追求を振り切った。このまま忘れてくれ。

 さあ逃亡生活の始まりだ!


 ◆



「で、セ ツ ?」

「私じゃない可能性もあるじゃん?」 

 

 カナが私についてよ〜くわかってるように、私もカナについては深く知っている。その私が考察をすると、今私をゴミ泥棒の犯人として尋問しているのだ。

 けど、私もできれば隠しておきたい。まあ隠し切れたことはないけど。


「いーや、セツだね。あのタイミングで修理屋にいたのは私とセツだけ。そして都合よく修理屋を見に行きたいと言った、セツの言動。これら全てを合わせると、セツの計画的ゴミ窃盗になる」


 毎度ながら正解ですね。私に関しての探偵になれるんじゃなかろうか、カナは。


「まあ、合ってるけど」

「うん、それで? どうやって盗んだの?」

 

 盗んだとは人聞きが悪い。私いはゴミ拾い?……とにかく、ゴミを貰って有効活用しているだけなのだ。私以上にあのゴミを使うことができる人はいない。多分。

 この考えをそのまま伝えちゃうとカナが怒っちゃうからね、言わないほうがいい。


「このゴミ箱」


 そもそもゴミ箱が悪いのだ。あんな新機能を付けるとか盗、ゲフンゲフン。ゴミをありがたく譲ってもらえとゲームが勧めているはずだ。

 

「少し前に見た時より、かなり凶悪になってるんだけど。どうしたらこの短時間でこんなアホ強化できるの?」


  【異次元のゴミ箱】 ユニーク・特殊・10】

 ・必要スキル【掃除術】

 ・スキル【異次元のゴミ箱】

     ┣ 【もう腐りたくない】腐攻撃1%カット

     ┣【金属のように硬く】VIT+32 

     ┣【自然のように心強く】MND+26 

     ┣【ホコリのように軽く】4分間AGI+5 クールタイム2分

     ┗【ゴミの怨念】VIT+10、MAG +20、打耐性+5%、水属性魔術+5%、 

 ・成長して、どんどん強くなる

 ・破壊不可

 【機嫌】超いい! HP+30、MP+30

 重量1.1kg



 あ、アホですね? バカですね? 

 なんでこうなるんですか? 異次元すぎる。こりゃ確かに異次元ですね。


 性能が!

 

 長ったらしく書いてあるけど、要は強いんです。こりゃ強いんです。このゴミ箱を装備するだけで得られる恩恵がありすぎるんですけど。

 VIT+32とかふざけてるよ。 私、ステータス構成的には、速度で、攻撃をかわすスタイルなはずなんだけどさ、これ装備してるだけで、だいぶ硬くなる。タンク職の比べればまだまだだろうけど、紙防御だったのが普通ぐらいまで補たはず。

 


「剣士がセツと同じ16レベルでVITなんにも振ってないと仮定して、だよ?VIT16、HP1280だからね。で、どっちが硬いかっ手言ったら、そりゃ剣士だからね。そしてその防御力を消し飛ばせるような火力が持てるように成長するんんだからね。そしてその剣士を一撃で持ってく範囲攻撃する怪物もいるからね。」


 今のHPが160!8倍!

 脆すぎ! 

 で怪物とは戦いたくないな。私は特性上範囲攻撃が苦手。なのにそれ食らったら私が8人分死ぬ。マジエグい。無理無理。

 そしてしれっと私の思考を読んで勘違いを正してくれるカナ。うん、平常運転だな。

  


 


 更に打耐性、水属性魔術補正と。うん、やばい!

 

 あ、そういえば、レベルも上がってて16。そしてホウキの攻撃力が26。多分レベル分の攻撃力補正されてる。打、突それぞれ成長して威力+16%。

 成長系装備、恐ろしい。


 どうしてもゴミ箱と比較してしまうけど十分強い。最初はゴミ箱はそこまで強くなさそうだったけど、今回のゴミのぬす、ゲフンゲフン。ゴミ掃除によって1番やばいのはゴミ箱ってのが確定してしまった。


 

 

 

「これ、わたしが寄生する形になりそうなんだけど」

「そうかもね。もうウダウダ言ってないで、ギルド戻って装備整えてきたら?」

「そうしたほうがいいかも……。うん、ちょっと取りに行ってくる」

 

 そう言うと、カナが何かウインドウを操作して、そしたらなんか空間が割れてどっかテレポートしていった。

 試しに触れてみたけどバチーンって弾かれたんですけど。これが、魔法! ではないですね。システム的な何かですね。




 さ〜て、カナがいない間に少し、石拾いでもしときますかね。

 石、大事。蹴ったり投げれば敵の気を引いたり行動阻害ができる。せっかく投擲スキルもあることだし、そこらへんの石をバンバン拾って投げよう。


「ただいま」

 

 石を拾ってるとカナが戻ってきた。


「ギルマスにセツのこと、伝えといたから。歓迎だってさ。めちゃくちゃ不安そうだったけど」


 う〜ん、ギルマスって誰? ゲームでの知り合いなんだろうけど。いろんなゲームに手出してるからなあ。ジャンルを一通り制覇してるし。その中で付き合いがある人は昔も含めたら色々いたりするからね。

 で? 不安そう? なんでよ。この私が加わるのが不安? う〜む、解せぬ。


 



「港町、スクーティスまではちょっとめんどくさい。出てくるモンスターがレベルが高いから、頑張らないとね」


 カナは行く前よりも豪華な服になって戻ってきてる。黒がメインなんだけど所々豪華な金の刺繍が入ってたりする。それをメインの服にして、他のもそれを目立たせるようなコーデだ。


 さて行こうと思って色々あって、全然行けてなかったけど、今度こそ! レッツゴー!






「いた。ゴブリン」

「最初だし、1人でやらせて」

「了解。危なくなったら援護するからね」

 

 目視で捉える。私の半分も行かない身長、ひょろひょろな体格、そこら辺で拾ったようなほっそい木の枝、薄緑の荒れた肌。どこからどうみてもゴブリンです。

 

 まずは接近!


 この地を蹴り、風を切る感覚が私は好きだ。爽快感がある。現実ではこれほど空気が透き通っていなくあまり好きになれない。だがここでは違う。

 

 距離はまだある。ゴブリンは動き出さない。

 私が見えてるはずなのに。


 もう5メートルを切ろうかというところまで近づいた時ようやくゴブリンが行動を始める。

 

 痩せ細ったゴブリンの腕よりも細い枝を振り上げて、迎え撃つ構え。

 

 遅い!

 

 敵を視認した時にはもう行動に移らないと。初手の行動の速さで負けてしまう。甘いと言わざるを得ない。


 まずは突き。枝ではホウキの間合いには勝てない。


 胸を突く。

 

 その後はそのまま横にずらし、横腹を殴打。


 攻撃されたことに苛立ったのか上に振り上げた枝を持ち直す。

 

 持ちながら枝を叩きつけれるように強引な入り、からの振り下ろし攻撃。


 遅い。圧倒的に遅い。

 この時間の流れが遅くなったような感覚。

 相手の動きを完全に読み切り捌く。それが出来るだけの眼と身体が私には培われてる。


 だからこそ避けることは簡単。


 横にずれながらまた叩く。


『撃破。110経験値』


 うん、つまんね。


 ちょっとこずいただけでやられよった。


「ナイス。相変わらず惚れ惚れするような避け方。最近VR離れしてたんじゃなかったの?」

「してたよ? 一人暮らしに慣れるために」

 

 高校はカナに合わせたく、家から遠いとこを選んだ。

 親の反対を押し切り無理やり選んだ。

 母さん曰く、「ほとんどゲームしかしてないのに一人暮らしとか無理に決まってるでしょう」との事です。

 父さん曰く、「まだ高校生なのに、離れるとか嫌だ」という事です。親バカですね。

 

 なんとか説得した。家事を学び、父さんにはできるだけ甘え、もちろん勉強もした。そうして受験をした

 父さんはついてこようとしてたけど、仕事をしないといけないから泣く泣く断念してた。うん、そうしてくれ。

 ついてこなくて良かったです。

 

 そうして今は一人暮らしをしているわけだ。

 高校入学の新生活と一人暮らしの慣れのために、ここ1ヶ月ほどVRゲームはしていない。

 かなり久々なプレイなので、動きが衰えてる可能性すらある。


 全盛期の勘を取り戻さないと。今できる動きは受けが精一杯かなぁ。無理して他の動き方するとやられそうだ。

 

 

「本当にしてなかったかどうか、怪しいもんよ。さすが体育評価5」

「ええ、リアルのは関係ないよ」


 よくリアルでの、運動神経がVR世界に反映される(逆も)とかある。それを否定するつもりはない。だけど私の場合ただ単に、反復練習のお陰でしかない。

 私のVRゲームを始めた理由は、カナが持ってるVR機器に憧れたから。カナからも誘われていたので、私も欲しいと父さんに頼み込みんだ。

 母さんを2人がかりで説得して、なんとか買ってもらった思い出がある。


 

 あれが確か6〜7歳ぐらい。今年で16になる。

 だからもう10年近く遊んでいるんだよね。それだけ遊び込んで上手くならない方がおかしい。

 そしてリアルでの私の身体能力はそんなにない。基本ゲームしかしてないからね。せいぜい中の上程度しかないのに、なぜか評価が高いんだよ。

 VRゲームの影響だ、と言われてもそれは関係はないとしか。

 


「リアルの成績は偶然だって何度も言ってるのに」

 

 私が拗ねたように言うと、カナは気にしてないような平然とした顔で答える。


「3年間ずっと5が偶然だって言ってもね」


 痛いとこを突くね。なんだかんだ言ったが、私は体育が嫌いではない。むしろ運動は好きな方。

 楽しんでやってるからなんかもね。



「よし! 次はカナの魔法見せてね」

 

 話題の転換を図ろう。これ以上言い合うとね。


「了解」


 言葉は少なくていい。私の幼馴染なら私の考えなど分かりきっているから。

 私が触れられたくないということも、分かっているだろうから。

 話題を変えたいということも、察してくれるだろうから。


「燃える槍よ、穿て!」

『カナタが火槍を発動!』


 カナの詠唱と共に魔法陣が展開されていく。少し光を放ちながら、穿てという言葉と共にまっすぐと、火の槍が飛んでいく。……デカくね?


 槍って言ったらさ、こう直径10センチぐらいだと思うんだ。だけどさ、これ私が横向きになったら簡単に隠れるぐらいの太さと、それに釣り合ってない長さがあるんだけど。


「や、槍?」

「この杖の効果。【巨大化】で範囲攻撃以外の魔法の規模を大きくする。槍ならまんまこの感じ」


 詳しく聞いてみルトかなり強い装備整えてきた感じだ。大きくなっても威力は変わらない。いや杖の効果で威力増強にすらなるらしい。おお怖い。


 さあジャンジャン狩っていこう!

 

 ◆



「掃除ちゃん!」

 

 うん? 気のせいかな? 何かが聞こえるような。


「「掃除ちゃんだあぁー」」

 

 いや、気のせいじゃない!


 なんかきてる! 後ろを振り向く。


「やつだぁ!」

 

 なんかきてるーー!

 見たところ5人。奇声を発しながら近づいてくるのは気持ち悪いとしか言いようがない。


 遠くにいたのが徐々に徐々に、こちらに向かってくる。私達に用事かな?


「ゴミを盗んだのは貴様だな!」

 

 な、な、なああぁーー?  そういえばクエストが発令されてたんだった。なんでバレた! 


 証拠は何にも残ってないだろうにぃい。

 なんでバレたーーー。だがここで認めるわけにも行かない。今後、快適に遊ぶためには捕まるわけにはいかない!


「何言ってるんですか? 違います」

「現場の状況から考えて君が一番怪しいとの結論になった!捕えろ!」


 話を聞けっての!

 けどそっちから攻撃してくるなら、正当防衛が成り立つ!

 絶対に捕まってやらん!

 

 殺ってやんよ。


  

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