10 世紀のゴミ泥棒!


 


『マイーナからお届け物です。【ゴミについて】を受け取りました』


 マイーナちゃんからなんか送られてきた! 

 これは、本? タイトルは【ゴミについて】だから、このわけわからないゴミ箱の説明でも書いてあるかもしれない! 空いてるベンチにでも座ってカナを待ってる間読んでますか。


 ◆

 

【ゴミについて】

 掃除屋をする上での基礎知識の勉強です。今回は【ゴミ】についてやっていきましょう。

 まず何を持ってゴミと定義するか、です。私達のゴミの定義として、一つ、壊れてる。一つ、使い道がない。一つ使えなくなった、です。詳しく解説していきましょう。

 まず壊れている。これはその意味のままです。壊れているならそれはゴミです。容赦なくゴミ箱にぶち込みましょう。

 次に使い道がない。これは自然発生のゴミを表すことが多いです。ホコリなどは使い道がないためゴミです。その場合表記にゴミクッズなどと表示されます。覚えておいてください。

 最後に使えなくなった、です。これは本来の用途として使えなくなった場合です。これは初めの壊れている、に似ているかもしれませんが、例えば、食べ物。これは本来食べる用途としてありまあすが、腐っていた場合それはもう用途として果たしていませんのでゴミなのです。

 他にも例外はありますがそれはまた今後ですね。

 ゴミについてよく勉強してよくお掃除をしてください。それでは。


 ◆

 本の厚さはかなりあったのに、内容うっすい。1ページしかなかった。見せかけの厚さだったよ。

 ゴミというものについてよ〜く理解した。異次元のゴミ箱の新機能に合わせて読んでおいた方がいいから送られてきたのかな。けどゴミ箱の説明、なかったね。



「買い出し終わったよセツ」

「ねえ、突然だけどさ、この街にゴミがたくさんあるような場所、知らない?」


 新機能を存分に発揮するなら、ゴミがたくさんある場所へ行ってたくさんゴミ箱へと入れたほうがいい。


「この世界、あんまりゴミが出ないしね〜。そういう場所はないんだよね〜。地道に掃除してくしかないんじゃない?」


 この世界はゴミというゴミはあまり出ないそう。魔法システムによって消える場合がほどんどだ。消えないものがホコリとかになってゴミとなる。

 だからゴミ処理場などはない。あるとしても廃材とか、それこそホコリとか。でも気になるほど積もったりしないそう。


 じゃあ、どうやってゴミを効率よく集めようかな。

 う〜〜〜〜ん。…………………はっ! マイーナちゃんからゴミの定義としてあったじゃないか! 壊れてる!

 この世界にも耐久値は存在する。つまり持ち込まれる壊れた装備を店ごとに一軒一軒回って全部回収して行けばいいのでは? 気分は大怪盗!


「カナ、装備見に行かない?」

「資金がないから良いものは買えそうにないけど、これからの事考えるとないよりはマシかなぁ」


 私は不良品回収をする気だけどカナは買い物気分。うん、行けそう。誤魔化せそうだ。

 元々装備の調達目的だからね。

 

 強くなるためには手段なんて選ばない。私はもう奪われたくない。



 武具が立ち並ぶ街道に移動してきた。

 ここならゴミがあるはずだ。


 何々? まず、スキル発動。で、対象を選択してください?

 ええとこれが青になってれば発動できる、と。


「うーん。ちょっと心許なさすぎるかなぁ」

 

 カナと一緒に次々と回っていく中でそんなかなの呟きを聞きながらも私はしっかりとスキルを発動させようとしていた。

 この店、アウト。いい装備もない。


「買えないねえ」

 

 じゃあ次の店。反応なし。

 装備もあるにはあるけど高い。



『スキル【掃除術】《ゴミへの嗅覚》を習得』

『《ゴミへの嗅覚》が発動条件を満たしていません!』


 また習得してしまった。今度ははまだ発動できないみたい。

 

 《ゴミへの嗅覚》

 効果:掃除屋の嗅覚によりゴミの位置を把握する

 発動条件:アバター・掃除マスクを外す。


 思ったより簡単に発動できる、しかもベストタイミング!

 ゴミの位置を教えてください!

 

 ええと、アバターから掃除マスク。前はどんなにやっても変えることができなかったのがしっかりと外すことができるようになっていた。早速外してみるとどこからともなく異臭が漂ってくる。

 ピコン! と音が響いてくると、どこからか赤いふわふわとした煙のようなものが私の目に入り込んできた。そして煙は私の周りを取り囲むと、道のように、道標となるかのように、どこかを指し示している。

 

 感覚的にどこか一箇所にゴミがたくさんあるんだ、とわかった。不思議な感覚がこのスキルによってもたらされたものだとしたらこの煙に従って歩けばゴミがある場所につながっているのだろう。

 

 う〜ん。だけどなんでゴミが一箇所にあるの? どこか一つの店に修理の依頼が偏るなんてことは、オンラインゲームではあり得ないと、ゲーマーの私が告げている。

 

 ちょっと強引にカナに話を振ってでも情報が欲しい。

 

「この街で活動してる生産職の人たちってどのぐらいいる?」


 会話としては突然な転換。だけどカナは少し考え込んだ後、何かを楽しむかのように機嫌よく話してくれた。


「そうね、プレイヤー販売で割とどこに拠点を築いても同じだけの素材が入ってくるのもあるからね。店を構えるメリットの、初心者用装備で稼いでる人達や、NPCにも買ってもらえるという利点もあって、生産職の、1割はいると思うよ」


 思ったよりも饒舌に、私が欲している情報には一つもつながらない話をするカナ。

 欲しい情報を引き出せるように、それでいて不自然にならないように、怪しまれないように。全ては作戦の成功のゴミを回収するために。

 

「ここにいるプレイヤーやNPCに対して仕事量多くない? 製造、修理、強化。雑貨を作る人じゃなくて、装備を生産する人の負担が大きい気がするんだけど」

 

 なんとか会話の流れを断ち切らないように続けれたことにホッとしていると私。もちろんそれを表に出さないように表情ロックをしている。そんな私と違い、何かピンと来たように「……なるほどね」と言葉を残した。

 

 ちょっと、マズいかも。こういう時のカナは私に対して考え込んでいて、何か感じとらせてしまった。

 計画を中止にする? いや、ここで怪しまれると次のチャンスはやってこない。監視が厳しくなって自由な行動ができなくなる可能性が高い。突っ切るしかない!

 

「あ、修理は一般ピーポーには出来ないよ。だからそこまで負担はないね」


 神! この情報が欲しかった!


「修理ができない?」

 

 さっきからずっと楽しそうに答えを、私の望む通りに言ってくれる! さすカナ!


「完全に壊れた装備は修理屋でしか修理できないんだよ。生産職にはせいぜい耐久値の回復」


 修理屋、知らない存在だ。



「そこどこ? ちょっと見ておきたい」

「セツがそんなことに興味持つなんて珍しい。統括ギルドへの道中にあるし見ていくぐらいなら」


 よし! なんとか繋げられた。




 そしてカナについていくこと数分。


「ここ」

「おっきい店だね」

「中はほとんど工房と物置だよ。私達プレイヤーが入れるのは入り口だけ。このボックスに壊れた装備とそれを修理してもらうためのお金を入れる。そしたら少し日にちが経てば修理されるから受け取りに行くの」


 このお店は中にはいると不思議な箱と、カウンターしかない。外から見るとかなり大きい建物だけど他は修理するための装備置き場と、それを直すための職人NPCの居住区兼工房なんだそうだ。

 

 カナの説明を聞いていると、そもそも修理屋とは? という疑問が浮かんだ。

 私の知っている『修理』は作られた防具や鉱石系の装備なら鍛冶屋や防具屋、布系なら裁縫屋などに持ち込んで直してもらうもの。だけどこの世界ゲームでは修理屋に一括りに任されている。


 まあNPC なんて知ったこっちゃない。私の用事は壊れた装備だ!


 接続! 


『【壊れ装備の倉庫】と【異次元のゴミ箱】をリンクさせますか?』


 イエス!


『【壊れ装備の倉庫】と【異次元のゴミ箱】がリンク! 【壊れ装備の倉庫】からゴミが239、移送』

『大掃除! 経験値を61790獲得』

『レベルが16に上昇』

『以降、【異次元のゴミ箱】から【壊れ装備の倉庫】へと転移が可能』

『接続可能場所【0】』

『スキル【異次元のゴミ箱】の能力発動!』

『《ゴミの怨念!》 が複数発動しました。【異次元のゴミ箱】の性能が強化』

『【世紀のゴミ泥棒!】 を達成。今後ゴミを盗むと追加でゴミがついてきます』




『ワールドアナウンス:ハジマチにてゴミ泥棒が出現しました。今後逃走することが考えられます。見つけ次第連行してください。ゴミ泥棒の見た目の特徴などは全く分かりません。連行したものには懸賞金1000万シル。今後、全修理店での修理代金が無料になります。なお、連行しても証拠品がない場合は無効になります。証拠品に関しては資料を添付』


 

 



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