7 反省する気はない


 

「で、セツ? 言い訳を聞こうか」

 

 いやー、なんの言い訳なんだろうか。いや、少し目立ちすぎたって自覚はあるには、あるよ? けど、言い訳という言い訳はないですかねえ。


「その顔、何やらかしたか、自覚ないんでしょ?」

 

 まあ、そうなのかも? 今は幼馴染の仲田海華こと、プレイヤーネーム・カナタに街の安宿の中で尋問をされている。銀髪碧眼ショートボブとかなり現実の姿からいじっている。


「カナ〜、私、なんかやった?」

「ほーら、やっぱりわかってなかった。まず、かなり悪目立ち、したんじゃないの?」


 はい、そうなんですかね? まあ、あんなに多くの人がいたらかなり目立ったってのはわかるんだが、悪目立ちとは?


「その格好で、変なことをしていると悪目立ちするに決まってる。具体的にいうと、ホウキで街中をどんどん掃いていく。持っているスプレーと雑巾で雑巾掛けをする。話しかけてきたプレイヤーを一方的にボコす。PKを退治する。どう? 」


 まっことにい、申し訳ございませんでしたあー。完全にしていることが当たっている。どこからか情報掴んできたらしい。


「掲示板に逐一情報が載せられてるよ。というか、何でそうなったわけよ?」

 ああ、最初にスクショの掲載許可しにきた人がなんか言ってたっけ。もう晒されとるとか何とか。そこからあの大人数に繋がったのかな? あんまり気にしてなかった私が悪いかも。

 

 何でそうなった、と言われてもねえ。自分でもよう分からんうちにいつの間にか掃除屋してたし。

 けど、大体は覚えてるからそこをは何となくカナに伝えておく。


「はあ、あの待ち時間で職業が変化する、か。面白いね」


 だよねえ。つまりゲームが始まる前からもうゲームは始まっているのだ! うん、何言ってんだ。

 何となくその言葉でも正しい気がしてくる。まだあの時間ではゲームが始まってはいなかったはずだね。でもいつの間にかあそこでの行動によってゲームが始まった。

 うんやっぱりあの言葉でいい気がしてくる。


「まあ何となく経緯はわかった。まあこの際お説教は置いといて、ステータスと装備見せてよ。どうやったら初心者が2人も倒せるのやら」


 そうねえ。お説教を置いといてくれるのはありがたい限りですとも。

 ステータスと装備か。はい。どぞ。

 

 【名前】セツナ(女) 

 【レベル】9

 【職業】掃除屋

 【カルマ値】7 


 【HP】90/90

 【MP】900/900


 【STR】 51

 【VIT】 5

 【MAG】41

 【MND】5

 【AGI】 41

 【TEC】 15

 

 スキル

 【掃除術】

 ・クリーン【MP10】

 【体術】

 ・ストライク

 ・インパクト

 ・スライド

 ・ジャストガード

 ・キック

 ・投擲

 

 

 【装備】

 【お掃除スプレー!】

 【掃除用ホウキ】

 

 上半身【清掃着】

 下半身【清掃着】

 特殊枠10/10【異次元のゴミ箱】

  

 

 

 【お掃除スプレー!】 ユニーク

 ・必要スキル【掃除術】 

 ・スキル【お掃除スプレー】使用可能

 ・成長して、どんどん強くなる

 ・ダメージはMAGを参照する

 ・破壊不可

 重量0.25kg

 

 【掃除用ホウキ】 ユニーク

 ・必要スキル【掃除術】

 ・攻撃力19

 ・成長して、どんどん強くなる

 ・ゴミがくっつきやすい

 ・ダメージはSTRを参照する

 ・レベル分、打属性攻撃力増加(+9%)

 ・レベル分、突属性攻撃力増加(+9%)

 ・破壊不可

 重量0.5kg


 【異次元のゴミ箱】 ユニーク【特殊・10】

 ・必要スキル【掃除術】

 ・スキル【異次元のゴミ箱】

     ┣ 【もう腐りたくない】腐攻撃1%カット

     ┗【ホコリのように軽く】2分間AGI+2 クールタイム5分

 ・成長して、どんどん強くなる

 ・破壊不可

 重量1.1kg


 【作業着】 ユニーク【上半身・下半身】

 ・必要スキル【掃除術】

 ・汚れない

 ・レベル分、全攻撃防御力上昇(+9%)

 ・成長して、どんどん強くなる

 ・破壊不可

 ・掃除セットスキン強制着用

 重量0.6kg



 ふっ。どうだ、この成長してかなりつよつよになった装備は! それに対して私のなんと弱いことよ。装備が本体だってぐらいよ。

 ……体術系統、統一感がなくなっとる。規則性持たせてあげて!? 明らかに浮いてるから! ネーミングまで共通性無くさんくてよかったんやで、クソゲーよ。

 そして明らかに安直でやっすいネーミングのやつと、ちょっと凝ってるやつの格差が、えぐい。考えるのめんどくさくなったな、絶対。



「うわ、何これ。初期装備としては壊れ性能してるんだけど」

「初期装備としては、ってことはやっぱりこれ以上の装備もあるってことだよね? カナ〜」

「まあ、そう。けどこれからまだ成長するってことを考えたらちょっとやばいかも」


「けど完全に見た目がアレね」

「そう、見た目がアレなんだよ」

「この作業着の効果でこうなるってことよね、けどこの作業着も単純に強いし。見た目はアレだけど性能が強すぎて笑えないわ」


「……うん? これ何かおかしい。なんで、900じゃない? これだど1レベル毎に110。しかも成長率も、だいぶ狂ってない? セツ、職業説明みして。掃除屋って表示されてるとこをタップすれば出てくるから」


 ええと、ポチ。


 職業【掃除屋クリーナー

 レベル成長:HP10

       MP100

       STR2

       MAG2

       AGI2

       ステータスポイント5


 職業成長倍率:HP2倍

        MP20倍

        STR2倍

        VIT0.2倍

        MAG2倍

        MND0.2倍

        AGI2倍 

        TEC2倍


「うわぁ。ピーキーにも程がある。ハズレすぎない? 意図だけはわかりやすいけど、確実にネタにするという意気込みを感じるんだけど」 


 ハズレ? ネタ? 確かに見た目はネタだけどさ。


「ああ、どこから説明しよう。……まず、レベル成長はレベルが上がるごとに育つパラメーターの値。普通の人はHP、MP合計で100なんだけど、セツのは110。ステータスも普通は4だけど情けか何かで6上がるようになってるし。で、ゲームのHP、MPは職業毎に決まってる。近接系の職業ほどHPが高く、MPが低い。遠距離職ほどMPが高くなる。普通は、ね。セツの攻撃手段はホウキの殴り、叩き。スプレーでの攻撃とどちらも近距離攻撃なのにゴミほどHP低い。一瞬でお陀仏。察するに【掃除屋】という職業の運営のコンセプトが、回避が全て防御は無しでいい! その代わり成長度はマシマシにしよう。っていうのが見え見えすぎるよ、コレは。装備が強いのもデメリットが強すぎるからでしょう」


 カナの口から漏れ出る言葉は、全てを理解できなくても言葉の節々から負のオーラがとてつもなく感じさせられる。

 

 カナがここまで荒ぶっている理由は明らか、掃除屋が尖りすぎているからだろう。

 近接職なのに、HPがゴミカスレベルしかない。貧弱すぎるHPや VIT、MNDをステータスポイントで補おうにも成長倍率が邪魔をしてくる。成長倍率というのはステータスポイント1にどれだけ倍率がかかるかを示している。この表示通りに受け取るなら、私は1レベル上がるごとにVIT、MNDどちらもたった1しかあげれない。まあ防御に振る気はさらさらないけど

 デメリットとして、重すぎると言って過言ではない。

 このデメリットに対する処置で、装備は強いし他の人に比べて少しだけポイントが多くもらえたりするんだろうというのがカナの説明だ。

  




「でも諦めるつもりはないよ。当たらなきゃHPが高かろうと低かろうと変わりなし。高ければ有利いいとは思うけど」

「ま、そうだろうね。セツの性格こと理解してるわかってる。結局は回避型に落ち着くんだよ、セツは」 

 

 確かにスタンダードになった原因はやはり、私とバチバチに回避型の相性がいいから。


「そういうカナもやっぱり魔法使い」

 

 カナも昔っから遠くからチクチク魔法を撃っていく戦闘方法だ。そっちの方が性に合うんだそう。

 

「やれば近接職もできないことはないんだけど、どうしても苦手なんだよね。まあこの話はこれでいいとして。セツはこれからどうすんの? うちのギルド、入る?」

「入れるなら入りたいけど、入れるの?」

 

 カナはかなりやり込んでて最前線を突っ走る強力なギルドだったはずだ。そこに新米の私が入れるのかどうかが心配な限り。


「まあそこは問題ないかな〜。ギルマスはセツもよく知ってる人だし」

 

 知ってる人と? 私の交友関係はそこまで広くない。いやカナ以外だとリアルで友達と呼べる人は全然いないぐらいよ。その私がよく知ってる人、となるとゲーム関係。それも私がやり込んでるゲームで関係があるぐらいの人ってことになる。

 

 そうすると結構絞られてくるが、ゲームの中でなら意外と多かったりするので完全には分からない。


「まあとりあえずギルドまで向かおう。話はそれからだね」


 そうだね。入れるかどうか分からないからとりあえず向かってみないと。


「さて、今後の話は終わったことだし、お説教、するよ?」

 

 エ、キイテナイ……。もう説教はしなかったのでは? 

 ソンナノナイヨ。


「まずセツは何でこうも最初から人の目を引くようなことするかな? 分かってる、セツがこういうゲームだと強くなるために突っ走ることは十分みてきた。けど今回は度がすぎるよ? 掃除したら経験値が貰えるから街中で掃除を始めようなんて普通は思わないから。もうセツは民衆にターゲットにされたも同然だからね? 初っ端からPKをしてるのは見られてるから、そのホウキとスプレーの攻撃性能も掲示板に上がってる。だからレア武器か何かだと思ってセツ自身が狙われるんだよ? 開幕ぐらいは平和に過ごしたくないの? 」


 うん、ごめんね。まあ私は別にキルされそうになってもやり返せばいいかな〜って思ってるから平和じゃなくても全然いい。

 あれこれ言われてるけど私は言動を改めたりはしない! あれで良かったのだ、精神である。


「あれこれ言ったけどやっぱり反省しないよね、セツだもんね」

 

 さすが私の幼馴染! 私の考えをしっかりと理解してらっしゃる!


「あ、言い忘れてた。私これからサブ垢作ってセツとパーティー組むから」

 

 え? 


「そんな勿体無いことしなくていいよ〜。カナは普通にプレイしてなよ。そっちの方が強くなれるじゃん」

「そうなんだけど、今の私のレベルじゃあ雑魚倒しても経験値全然獲得できないから、最初から作り直した方がお得」

「いやそうじゃなくて、カナはカナで普通に強いモンスター攻略してなよってこと」

「それじゃあセツはどうやってうちのギルドまで来る気? それ以前にわたしがセツとパーティー組みたいの。そのために事前情報収集してたぐらいの気持ちでやってたから」


 カナはどうしても私とパーティーが組みたいようです。


「パーティーは組みたいけど私のレベルじゃすぐ倒しちゃうから。セツは寄生とか嫌いでしょ?」


 まあ寄生するよりかは自分で上げたい派ではあるね。


「だからサブ垢作って始めからプレイするの。理解した?」

「サブ垢作ったらサブの方に愛着っわいちゃうんじゃない?」

「いい。もうメイン垢には戻らない気だし」


 もう覚悟は決まってるってことか。カナはこのゲームが始まった初期からプレイしている。相当強くなっているはずなのに、それすらももういいらしい。


「そこまで私に合わせなくたってすぐ追いつくのに」

「今の私のレベルを舐めない方がいい」


 教えてくれそうにないけど、相当レベル高そうな感じ。一応強ギルド所属なんだし。


「それじゃ、サブ垢作ってくるね」


 ばーい。



 ◆


「戻ってきたよ〜」


 あ、カナ戻ってきた。


「見た目は同じ何だ?」

「そ、なんだかんだ言ってあの見た目が気に入ってるからね。まあ変えたくなったら課金して変えれるからだいじょぶ」


「じゃあ行ってみよ! ギルドへ!」

「OKい!」


 ここから冒険が始まるんだ!

 



 ◆


 あ、いいこと思いついちゃった。


「セ〜ツ? 何してんの?」


 移動時間が勿体無いからね! 


「掃除」

 

 そう、そうじです! 詳しくいうと、掃き掃除!

 いやー私、考えたんです。移動しながら掃除してれば効率がいいのでは? と。


「さっき説教したばっかりでしょ! 何でそう目立つことするのって言ってるよね?」


 私の幼馴染だから理解してたよね? そんなこと言われても私は反省はしない! そう、しない!

 さあレッツゴミ掃除!




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