3

 しっかり手を握り合い、私たちは歩き始めた。

 どちらもぐっしょり濡れて泥まみれで、震えるほど身体は冷えている。今も大粒の雨が全身を殴打していく。

 だけど、繋いだ手が熱かった。そこが何かの生き物の心臓であるかのように、熱を持っていた。

 負けない。私たちは、絶対に負けない。誰がどんないじわるをしても、心と身体をぼろぼろに傷つけても、私たちは決して諦めない。二人でいれば、全ての雨に立ち向かえる。

 ふっと、木立が途切れた。目の前には、懐中電灯の灯りが届かないほど広々とした丘があった。

 ここが目的地だと知ってから気が付く。

 雨が降っていない。

 手を繋いだまま空を見上げて、息を呑む。

 頭上には、満天の星空が広がっていた。

「晴れた……」

 雲一つない夜空を見上げて、旭が呟く。さっきまでの土砂降りが嘘のように止んで、数えきれない星々が私たちを包んでいた。

「言ったでしょ」

「ああ」

 びしょ濡れの顔を見合わせて、私たちは笑い合った。眩しいほどに空は明るく、スイッチを切った懐中電灯を鞄にしまう。

 並んで見上げる星の一つが、滑るように流れた。

「流れ星!」

 私が指さす向こうで、流星が一つ消えていった。見ている間に、一つ、また一つと星が流れる。夢にまで見た光景に、胸の奥が熱くなる。

 ここまで、本当に長かった。

 初めて言葉を交わした時、まさか彼がこんなに大事な人になるとは微塵も思わなかった。流星の話を聞かせた時、本当に一緒に島を訪れる未来を迎えるとは想像もしなかった。

 相手が旭だったから、ここまでこられた。旭だから、隣にいたいと私は願い、約束をした。そして今ここで、手を繋いで立っている。寄り添い合って、一緒に空を見上げている。

 幸せに、涙が零れる。

「泣いとんか?」

 彼の言葉に、涙はそのままに頷いた。彼の温かな指先が、私の涙を優しく拭う。

「梓に会えてよかった」

 私ももう一度大きく頷く。胸が詰まって上手に声が出ない。下手な言葉を口にしなくても、彼には十分想いが通じる。それでも辛うじて、「私も」と告げた。

「梓がおってくれたから、俺はここまで来ることができた」

 私の大好きな笑顔。私の大好きな、大切な人。

「ありがとう」

 その頬を流星のように、雫が一粒だけ流れていった。

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