3
中間試験が終わって、待ちに待った日曜日。午後七時にわかば公園で落ち合う。駅から電車に乗って、一時間。その間に一度乗り換えた。
嫌な予感はしていた、空は曇っていて月も見えない天気だった。
予感は、残念ながら的中した。
電車の窓をぽつぽつと雨が叩き始めて、目的の駅に立った時には、降水確率二十パーセントだったはずの空から、大粒の雨が降り注いでいた。
「嘘やろ」駅の出口で空を見上げ、旭が嘆息する。
「ほんとに雨降っちゃったね」
「止ませることが出来ればなあ」彼はがっくりと肩を落とす。「ここまで来て降り出すんか……」
「でも、公園に行ってから降り出すよりは、きっとマシだよ」そう言って私は旭を励ました。
夜が明けるまでに雨は止むかもしれない。けれど、終電で帰らなければならない私たちに、あまり時間はなかった。仮に、もうじき雨が止んだとしても、すぐに雲が晴れて星が見えるとは思えない。今日は諦めるしかないようだ。
だけどとんぼ返りするのももったいないので、エキナカの喫茶店に向かう。
カウンター席に座って、温かい紅茶を飲みつつ窓の外を眺める。予報外れの雨に、鞄を頭上に掲げる会社員が駅の方へ走っている。タクシー乗り場には、たちまち長い行列ができた。
「なんか、悪いな。雨ばっかや」
「気にしないでよ。世界一の雨男なんでしょ」
それでも、旭は深く長いため息をつく。私も天体観測は期待していたけど、彼は私が思うよりずっと楽しみにしていたみたい。
頬杖をついて、背の高い窓から暗い空を見上げる。隣で旭がストローでアイスティーを混ぜる。氷とグラスの触れ合うカラカラという音が聞こえる。
「また来たらいいじゃん」
「また雨が降るで」
「そんな悲観しないでよ」
ネガティブな彼に、私は笑いかける。こっちが励ます側にまわるのは、なかなか珍しいなと思う。
「それじゃあ、今度は流れ星観に行こうよ。流星群」
「そんなん見れるんか」
「覚えてる? ふたご座流星群。琴野島で見えるの」
「ああ」初めて言葉を交わしてまだ日が浅い頃、私が聞かせた話を彼も覚えていた。「穴場やって言うとったとこか」
「そう」
「いつ見えるん?」
「十二月。もう少し先だけど」
ストローを咥えて少し考えてから、「……それもええかもな」彼は頷いた。
一人なら二の足を踏んでしまうけど、旭がいるなら心強い。ずっと見たかった流れ星を、この目で見ることができる。そう思うとドキドキする。
「私がお金出すなら、行ってくれるんでしょ」
「あほやなあ、あんなん冗談に決まっとるやん。そんな情けない真似せえへんよ。自分の分ぐらい何とかする」笑って、彼も頷いた。「行くか」
嬉しくて、自然と笑顔が零れた。早速スマホを取り出して、旭と一緒に琴野島について調べる。一日二回だけフェリーが出ることとか、流星群が一番よく見える場所や時間帯とか。
雨が窓ガラスを叩く音を聞きながら、私は期待に胸を膨らませた。旭も同じ顔をしているから嬉しくて、やっぱり雨は悪くないと思った。
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