The moon where Grim Reaper lives.

0-0 The Grim Reaper

「うっ……うぅ」


 その口は、不安げな声を漏らした。

 初めて身に降りかかった恐怖で思考や口が、うまく回らない。

 縛られた手は背中に回され。

 もがけばもがくほど、ガサガサとした荒い紐がキツく痛く手首に食い込む。

 太腿と足首を拘束する縄は、足の感覚を奪うほど強く結ばれ。

 暗い色の滑らかな素材の布が、目を覆い視界を遮った。

 少年の呼吸は驚くほど早く、荒く。

 押し込められ行き場を失った苦しげな声と同時に。

 しん--とした空間に、自身の息遣いだけが響いていた。


 冷たく、硬い接地面のせいか。

 それとも、体や感覚の自由を奪われたことによる恐怖のせいか。


 少年の四肢末端から、内臓に至るまで。震える体が、氷のように冷めきっていた。


(殺される、んだろうか--?)


 自分の身に起こったことが理解できぬまま、死のフラグを顕著に感じる。


(いやだ……死にたくない!!)


 少年は反射的に体を捩って、床を転がった。

 聴覚や触覚以外の感覚が閉じ込められている、今。

 少年ができる唯一の行動。闇雲に震える体を動かし、現状を打破しようと試みる。


「ッうぁ!!」


 その時、少年の腹部を鋭い痛みが襲った。

 何か堅いもので打たれた少年の華奢な体は、本能に大きな震えを起こし、小さく縮めこませる。

 荒い呼吸が、さらに酷くなり。

 得体の知れない恐怖が、少年の支配をさらに強くした。


(殺される--! 助けてッ! 誰か!!)


 恐怖と緊張が極限に達したのか。

 彼の荒い呼吸は、嗚咽を含むものに変化していく。

 何も見えない分、様々な痛みや恐怖が少年の頭の中で暴れ出す。

 体の強張りがより一層強くなった、その時--。


「ッ!?」


 布が裂ける音が耳をつんざくと同時に、体の中を貫くような強烈な痛みが走った。

 少年は痛みから逃れようと、必死に体を捩る。


「やだ……ッ! やめ……ろッ!!」


 何が起こっているのか?

 一体、どうなってしまうのか?


 脳天まで突き上げる痛み。

 皮膚を這う自分以外の肌の感覚。


 少年の体を内側からも、外側からも支配していく。

 己の耳にこだまする、自らの呻き声や息遣いが。

 次第に彼の意識を、奪い去っていく。

 靄がかかりはじめ、朦朧とする彼の思考。

 意識を手放す直前。少年は自分を襲い、支配する何者かの声を聞いた。


「マタ、会オウネ。--君」


 機械的な、冷徹な響きを宿す声。

 薄れゆく意識に、強烈に入り込んだ声。

 その声は、得体の知れない恐怖に耐える少年を、一気に絶望の淵へと突き落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る