第4章74話:島へ

さらに1日が経過する。


穏やかな雲が浮かぶ、晴天。


昼……ちょうど太陽が空のいただきに昇ろうとしていた刻限こくげん


帆柱ほばしらの上の、物見台ものみだいに立っていた女船員おんなせんいんが、叫んだ。


「あそこに島が見えるわよ!」


アリスティは、その声に、弾かれたように視線を向けた。


物見台の女船員が指さす先。


水平線の先に……たしかに、島がある。


ミユテ島かもしれない!


ちょうど近くに船長がいたので、アリスティが頼んだ。


「あの島に向かってください!!」


船長は微笑み、強くうなずいた。


「おう、任せとけ! ――――面舵おもかじッ!!」


船長が命令する。


船がゆるやかに旋回。


舳先へさきが、島の方角を向く。


ゆっくりと島に向かって進み始める。


アリスティは、船首せんしゅに近いところに立って、船べりから、前方を眺める。


島がだんだん近づいてくる。


ただ、ミユテ島かどうかはわからない。


島を遠景から眺めたことが、ほとんどないからだ。


だが。


少しずつ。


少しずつ。


近づくにつれ、島の姿が、くっきりとわかってくる。


砂浜があった。


建物がある……!!


その建物は小屋ごやのように見える。


人がいることは間違いない。


「あ……!!」


アリスティは思わず声をあげた。


島の砂浜から、煙が上がったのだ。


狼煙のろしのごとく。


きっと、たったいま、をおこしたのだろう。


それはまるで、この船の乗組員のりくみいんに、自分たちの存在をしらせんとしているかのような……狼煙のろし


「……」


近づく。


近づく。


近づいていく。


やがて、砂浜に、人影がいるのがわかった。


こちらに向かって、大きく両手を振っている。


ああ……


ユーナだ。


アリスティは、込み上げる想いに、胸を締め付けられる。


目元が熱くなった。


アリスティは、船首せんしゅの上に乗って、立ち上がった。


「ちょ、ちょっと!!?」


アリスティの行動に、船員が慌てる。


だがアリスティは、大きく手を振って叫ぶ。


「ユーナーーーッ!!!」


その声が届いたのかわからない。


でも。


アリスティ……!!


そう呼ぶ声が、返ってきたように思えた。


もう、あふれでる涙がおさえられなかった。


目からしずくが、はらはらと伝い、アリスティの頬を濡らしていく。


楽しかったこと。


笑ったこと。


苦しかったこと。


いろんな記憶が、脳裏のうりに浮かぶ。


そして。


船は、アリスティが生まれ育った絶海の孤島に、たどり着いた。

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