第3章43話:手紙

スタンピードがあってから10日後。


少しずつ人々は、日常を取り戻しつつあった。


アリスティは、冒険者ギルドをおとずれていた。


いつものように掲示板を眺める。


そのとき。


受付嬢が横から話しかけてきた。


この受付嬢は、たしかオリンという名前だったか。


「アリスティ様」


「なんでしょう?」


「実は、とあるお方から、お手紙をいただいております」


「手紙、ですか?」


「はい。奥の部屋へ来ていただけますか?」


「わかりました」


オリンの案内で、アリスティは掲示板をあとにする。


冒険者ギルド、カウンター横の奥の扉に入る。


この奥の扉はギルドのスタッフだけが入れる。


扉の先には通路が続いていた。


すぐ視界の右側に扉がある。


受付嬢の職員ルームに続く扉だろう。


その扉を無視し、オリンは通路をまっすぐ進んで、左の扉を開けた。


どうやらここは応接室のようだ。


ソファーと執務机がある。


応接室の中に入ると、オリンは、振り返って手紙を渡してきた。


「こちらのお手紙でございます」


アリスティは手紙を受け取る。


開けてみるが……


「読めませんね」


アリスティは、そろそろ大陸に渡って1年を迎えるほどなので、こちらでの暮らしに慣れてきていた。


言語も、そこそこ不自由なく操ることができている。


とはいえ、読み書きとなると別だ。


手紙の内容を読解できるほど、文字に通じたわけではない。


オリンが言った。


「もしよろしければ、代読だいどくをさせていただきます」


代わりに読んでくれるらしい。


そのために、奥の部屋に呼んだのだろう。


ありがたいサービスである。


「お願いします」


と、アリスティは告げて、手紙は渡した。


「かしこまりました。では」


受付嬢オリンは、手紙を読み上げてくれた。


手紙の内容は、要約すれば


『スタンピードの本隊を叩く作戦に参加してほしい』


……とのことだ。


しかも、アトラミルカを治める、領主さま直々のご指名である。


実は、先日発生したスタンピードには、首領ボスがいる。


スタンピードは撃退できたものの、首領ボスはいまだ討伐されていない。


ボスを放置しておけば、二度目のスタンピードを引き起こす可能性がある。


ゆえに討伐部隊を差し向けて、首領ボスを撃破しようということだった。


その討伐作戦のメンバーは、現在、領主さまが直々に集めている。


アリスティは、先日のスタンピードで活躍したことが、領主さまの耳に入っており……


今回、討伐メンバーの一人として、指名されることになったというわけである。


「領主さまからもご注目されるなんて、さすがアトラミルカの英雄ですね!」


と、オリンははしゃいだ。


「私は、英雄などではありませんよ」


と、アリスティは困ったように否定する。


たかがオーガを倒したぐらいで英雄扱いされてはたまらない。


オリンは言った。


「なお、報酬については、満足のいく額を用意する……と、書いてありますね」


ふむ……。


まあ、スタンピードの首領を倒す作戦だ。


安い報酬ではないだろう。


(目標金額が貯まるまで、もうすぐですが……)


あと一歩、ドカンと稼げる仕事を欲していたところだ。


この討伐作戦で活躍すれば、母を助けるための目標額に到達するかもしれない。


アリスティは言った。


「では、参加させていただきます」


「そうですか。頑張ってください!」


「えっと……お返事の代筆をお願いしてもよろしいですか?」


「かしこまりました!」


こうしてアリスティは、討伐作戦への参加を決意する。




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