第3章40話:オーガ

「そろそろ私も出たほうがいいでしょうか……」


アリスティがぽつりつぶやくと、ミレーゼは否定した。


「アリスティは、強敵が現れたときに出るべきだ。雑魚相手に体力を消耗して、疲弊してしまってはいけない。アリスティほど戦えるヤツは、そう多くないからな」


「そう、ですか……」


ミレーゼがそう言うなら、もう少し待機していよう。


と。


そのときだった。


「グオォオォオオオオオオッ!!」


と、魔物の咆哮がこだました。


視線を向けると、草原の真ん中を突っ切ってくる、巨大な化け物がいた。


オーガである。


3メートルも及ぶ巨躯と、巨大な木製のこんぼうを持っている。


かなり戦闘力が高いことが、ここからでもうかがえる。


オーガの圧倒的な存在感に、魔物と交戦する兵士たちが、腰砕けになっていた。


「グォォアアッ!!」


ふたたび怒号をあげたオーガが、兵士たちに突撃をかます。


オーガの突撃を食らった兵士たちが転び、吹っ飛ばされる。


そしてオーガは兵士の群れを突破。


城壁へ向かって疾走してきた。


さらにオーガの後ろから複数の魔物が、オーガについて走ってくる。


「まずい……!」


ミレーゼは深刻な声を上げた。


このままでは、オーガが城門へ辿り着く。


都市の中に入られてしまう……!


アリスティは、言った。


「私がいきます!」


アリスティは胸壁のうえに、足をかけて、サッとジャンプした。


城壁前の石橋の上に着地する。


オーガがすぐ近くまで迫っていた。


「グオオアア!!」


オーガが魔物を引き連れながら、アリスティに突進してくる。


そして、アリスティの目の前で、こんぼうを振りかぶった。


「フッ!!」


振りぬかれるこんぼうに。


アリスティは、拳をぶち当てた。


粉砕されたのは、アリスティの拳……


ではない。


こんぼうのほうであった。


常軌を逸した光景である。


極めて高い攻撃力を持つとされるオーガのこんぼう攻撃。


それを、避けるでもなく、防ぐでもなく、殴りつけることで粉砕する―――――


どんな威力の拳ならば、そんなことが可能なのか、誰にも理解できない光景であった。


「ハァッ!!」


続いてアリスティは跳躍。


オーガの胸に、下からすくいあげるようなアッパーカットを叩き込む。


「グアアアッ!!?」


超威力のパンチを食らったオーガは、宙を舞う。


「「「……!?」」」


城壁屋上から戦闘を見守っていた弓兵たちが、驚愕に息をのむ。


15メートル以上も打ち上げられたオーガ。


城壁よりも高い高度だ。


オーガはやがて重力にしたがって落下をはじめ……


地面に激突し、動かなくなった。


城壁屋上から歓声が沸き起こる。


「うおおおおおおおおおおお!!!」


「倒したぞ!?」


「なんだあの嬢ちゃん!?」


「オーガを宙に打ち上げた……!?」


「すげえ!!」


「人間のパンチ力か!?」


驚愕と歓喜が爆発する。


ミレーゼも、驚きにあんぐりを口を開けていた。


そして。


「ははは……これはたまげた。アリスティは本当にデタラメだな」


と、呆れたように微笑するのだった。



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