第3章38話:魔物の襲来2

そのとき。


「許可する!」


と、声が響き渡った。


その場にいた全員が視線を送る。


――――ギルド長のフーバーである。


この冒険者ギルドを治めるトップ。


彼もまた、ザノハに負けず劣らず、熊のような男であった。


フーバーは、受付嬢に命令する。


「これからスタンピードを起こしている魔物たちの討伐依頼を出す。一匹あたりの魔物討伐の報酬を、相場の1.5倍にしろ」


「は、はい!」


受付嬢がただちに書類作成の準備に取り掛かった。


フーバーは、それを横目に、冒険者たちへ向かって号令をかける。


「いいか! 冒険者ども! 此度こたびのスタンピードは【自由都市アトラミルカ】の一大事である!」


思わず姿勢を正したくなるような、厳粛な声であった。


「都市の兵士、騎士、そして、お前たち冒険者……アトラミルカの全戦力ぜんせんりょくをもって、このスタンピードを壊滅させなければならない!」


フーバーが熱弁をふるう。


「いま言ったように、報酬は十分な額を用意する。活躍した者には、昇級の際にも優遇させてもらう。ゆえに我らが自由都市のために――――戦ってくれ!」


冒険者たちが、顔を見合わせた。


全員が拳を掲げる。


「「「おおおおおおおおおおお!!」」」


「よっしゃああ! 稼ぎ時だああ!!」


「1.5倍だとよ!」


「しょうがないわね。都市のために働いてやりますか」


「オレが英雄になるんだあああああ!」


「多額の報酬がもらえるなら、なんでもいい」


「魔物どもが! ぶっ殺してやるぜ!!」


冒険者たちが盛り上がる。


アリスティも戦意を高めた。


フーバーは言った。


「では、冒険者諸君、出陣せよ!」


「「「おう!」」」


と、それぞれに返事をして。


全員が、冒険者ギルドをあとにする。






冒険者のほとんどは、ギルドを出るなり、真っ先に南門へ向かった。


彼らは門を出て、スタンピードが来ているとおぼしき方角へ移動していく。


一方、アリスティは、まずは状況確認をしたいと思った。


だから南門の前で足を止め、城壁へと昇ることにする。


城壁の屋上は、関係者以外は立ち入り禁止ではあるが……


城壁を守る兵士たちに、冒険者カードを見せれば、昇ることができた。


城壁の屋上は通路になっており、左右にはギザギザの塀がある。


いわゆる胸壁きょうへきと呼ばれるものだ。


隙間から矢を撃つことができる。


実際、城壁屋上には弓兵たちが多数控えていた。


スタンピードを撃退するための弓撃きゅうげきの準備をおこなっているようだ。


アリスティは、胸壁の隙間から、外を眺める。


手前から順に、草原、森、山……と続いている。


すでに森から魔物の軍勢がぽつぽつと姿を見せ始めている。


その魔物たちに向かって、突撃していくのは、冒険者たちだ。


どこから借りてきたのか、馬に乗った冒険者もいる。


その騎兵たちが、一番乗りで魔物たちに突っ込んでいく。

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