フレアローズの花

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)

第1章

第1章1話:孤島

アリスティは、島で生まれた。


その島は、絶海の孤島であった。


周りには海しかない。


近くに島らしき影はない。


海の真ん中にぽかんと存在する、小さな島であった。





その島は、人類社会が築かれた島ではなかった。


街や村などは、一つも無い。


先住民もいない。


ただ、かつて島に流れ着いた者たち――――


アリスティの父と、


母と、


母の親友であるお姉さん


……だけがいた。


アリスティを含めて4人暮らしであった。


しかし、アリスティが生まれた直後、父が死んだ。


ゆえに、3人暮らしとなった。






島は【ミユテとう】と呼ばれていた。


母であるミリア

親友のお姉さんであるユーナ

父であるテュード


それぞれの名前の、頭文字である「ミ」「ユ」「テ」を、島の名前としたらしい。


もっとも、父テュードが死んでしまったということは、「テ」が失われたということだが……


ミユテ島は、ミユテ島だ。


母は、そう言った。







アリスティは、現在、9歳であった。


黒髪のボブカットと、赤い瞳。


服は、無地の庶民服。


この衣服は、母が【錬金魔法れんきんまほう】でこしらえたものだ。


せめて服ぐらいは、ちゃんとしたものを着たい……ということで。


島の外で使われている一般的な庶民服を、母が錬成したのである。


もし錬金魔法がなければ、腰みのなどを巻いて生活しなければいけなかったという。





母は、36歳。


アリスティと同じ黒髪。ただしロングヘア。


瞳も、同じ赤色だ。


やはり無地の庶民服を着ている。





ユーナは、34歳。


青い髪のポニーテール。


目は、黄色の瞳。


種族はエルフで、耳が長い。


服は無地の庶民服。






アリスティは、母とユーナに、愛されて育った。


すくすくと育っていた。


そんなある日。


海を眺める砂浜に立てた、掘っ立て小屋のような、ボロい家。


ここがアリスティたちが生活をともにする住居である。


屋内は、床の半分が床板。


もう半分は床板を敷いておらず、砂地だ。


アリスティは、その家の中で、母に命じられた。


「アリスティ。そろそろ、戦う訓練を始めなさい」


戦う訓練。


魔物と戦うための訓練である。


島には魔物がいる。


魔物たちは、命をおびやかす危険な存在だ。


だが、同時に、貴重な食料でもある。


魔物肉は、島においては大事な食材。


しかも魔物は、倒しても倒しても、永久的にリポップする。


うっかり狩りすぎて絶滅してしまうことがない。


だから魔物を狩ることができれば、少なくとも、肉については不足することがないのだ。


「はい、お母さん。でも……何をすればいいですか?」


アリスティは、いつも礼儀正しく敬語である。


これは母であるミリアを見習って、身についたものだ。


母もまた、いつも敬語であった。


「ユーナに教わりなさい。彼女のほうが、戦闘の心得が達者ですから」


母もユーナも、マルチな能力を持っている。


二人とも戦えるし、錬金魔法でクラフトもできる。


しかし得意分野として、母は錬金魔法、ユーナは戦闘技術に長けていた。


「わかりました」


アリスティは了解した。



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