第27話 お披露目配信

 土曜日になった。今日は第二層で配信を行う。数日の間、この第二層への一般人の侵入や撮影は制限されていたが、現在ではそれも解除された。


 今日の目的は三つある。それらを果たすため、俺は第二層の入り口で配信を開始した。


「どうも、ツルギだ。今日も神滅流配信道場を始めていくぞ」

「師匠、また配信タイトルが変わってますよ」

「む、そうか」


 横からマリナのツッコミを受けながら、配信がちゃんと始まっているかを確認する。お、早速来場者が増えている。コメントも流れているな。


:こんにちは師匠。お元気そうで何よりです

:師匠!?

:誰なんだあんた!?

:師匠の人形はもっと安ものっぽい感じだったぞ

:すげえ。最新型のパーツばっかりだ


 多くのコメントからは戸惑いを感じる。この姿になってから配信をするのは初めてなのだから、説明が必要だろう。


「ああ、ある程度の資金が溜まったからな、人形を改造した。大改造だ。操ってる人間は変わらないから安心してほしい」


:ほえー

:かっこいいです師匠!

:鎧武者とロボットが融合したみたいだ

:いいね!

:かっけー


 コメントを見るに、新しい人形はおおむね好評のようだ。


「今日の目的はこの人形のお披露目だけではない。俺たちの新しい仲間を紹介しようと思うんだ」

「そういうことデース」

「師匠、彼女たちに出てきてもらいますか?」


 配信画面にマリナとデイジーが入って来る。彼女たちの登場にコメントが沸いた。だが、今日の主役はこの二人ではない。早速新たな仲間たちを紹介するとしよう。


「では、画面に映ってもらおう。俺たちの新たな仲間、ヨツバと、リリだ」


 撮影ドローンが動き、配信画面にヨツバとリリが映った。片や緊張して固くなっているが、片やいつものようにゆるふわな雰囲気を放っている。


:ヨツバさんだー!

:もう完全に直ってるね

:ヨツバさんの加入嬉しい

:緑の髪が綺麗

:うおおおおお! ヨツバさん可愛いよおおおおおおお!


 と、ヨツバへの反応がある一方で。


:うお……でっか

:でっか

:おっぱい! おっぱい!

:メイドさんだ!

:おっぱいメイドさんだ!


 と、リリへの反応も見られる。皆おっぱいに反応しすぎではないだろうか。


「ど、どうも。ヨツバです。今日からツルギたちと一緒に行動するよ」

「どうもぉ。リリでぇす。デイジー様のメイドを勤めつつ、ヨツバちゃんの銃の師匠でもあります。よろしくおねがいしまぁす」


 そんな二人の自己紹介があり、それから少しの間、雑談タイムを作った。主な話題は新たにパーティーに加わった二人の女の子に振られ、俺の新しくなった人形に対する質問は……無いことは無いというくらいだった。ううむ、やはり女の子は強い。


 話題をかっさらわれてしまったようにも感じてしまうが、彼女たちやリスナーが楽しいのならそれも良しだ。配信活動をやっていると、彼女たちやリスナーたちが楽しいと感じてくれることを俺も楽しいと感じられる。それは、配信をやっていて良かったと思えた点の一つだ。


「今日は五人で適度にローテーションしながら戦っていく。ダンジョンの第三基地へ行くのが目的だ」


 この話は事前にパーティーの皆にも相談している。第三基地は第二層と第三層をつなぐ中継地点だ。この深い森を抜けた先に目的の基地がある。そこを目指すのはカラスマさんに依頼された、とある依頼を果たすためではあるのだが、そのことを今ここで話す必要はないだろう。そのことについて知っているのは俺やカラスマさんと、パーティーメンバーたちだけだ。


:今日も師匠の活躍を楽しみにしています

:第二層のモンスターたちも切り倒して行こうぜ!

:ヨツバさんとリリさんは銃器を使うっていうんで参考にさせてもらう

:しかし赤、青、黄、緑、ピンクで戦隊みたいなカラーしてるな

:ダンジョン戦隊!


「それじゃあ、行くとするか」

「ええ、行きましょう! 師匠!」

「「「おおー!」」」


 俺の言葉にマリナが応え、残る三人が拳を上げた。出発だ。


:出発進行!

:おおー!

:行くぞー!

:おー!

:がんばえー


 コメントが賑わう中、俺たちはダンジョンを進んでいく。


 第二層の森に出現するモンスターは、猿のようなものか、そうでなければ虫のような姿をしたものが多い。動きの速いものか、装甲をまとったもの、という印象だ。だが、それらのモンスターは追える速さだし、倒せる硬さだ。何を言いたいかといえば、ここら辺に出現する敵は大した強さではない。


 そんな強さの敵が出て来る場所だから、俺や仲間たちができることを紹介するには丁度良い。俺やマリナの剣の技、リリやヨツバの銃の技、披露するたびにコメントが賑わっていたが、何よりリスナーたちを驚かせていたのはデイジーのトリッキーな戦い方だ。


 デイジーは主に刀を利用して、近接よりの戦い方をするが、使えるものはなんでも使うというファイトスタイルだ。ある時に爆弾を使ったかと思えば、ある時には煙球を使っている。そしてある時には投げナイフを使い、またある時にはワイヤーを使っていた。


「行くデスヨー!」


 今もデイジーが三メートル級のムカデのようなモンスターを相手にワイヤーを使用した特殊な機動で翻弄していた。木から木へと飛び移りながらの立体的な機動にムカデは反応しきれていない。そして反応できないムカデの体にデイジーはいくつもの爆弾を張り付けていく。


「チューチュータコカイナー! 爆弾いくつ引っ付いたデスカネー!?」


 楽しそうに笑いながらデイジーはムカデ型モンスターに設置した爆弾を起爆した。長い体のあちこちから爆炎が上がり、モンスターの体がバラバラに破壊された。鮮やかな手並みだ。


:すげー

:ニンジャだよこんなの

:ブリテンニンジャはトリッキー

:あれ設置型爆弾ってやつ? 吸着させて爆破させるんだよね?

:師匠が今日は凄い技使ってないのもあって、デイジーちゃんが今日一目立ってる


「ツルギー。どうデシタカ。私の戦いブリハ」

「ああ、見てて楽しかった」

「ムー。ツルギはあまり驚いていまセンネー」


 俺の反応にデイジーは満足していないようだった。まあ、彼女の動きは俺の目では捕捉できていたからな。トリッキーで見ていて楽しいが、驚かされる、ということはない。


 そんな俺とは対照的にヨツバはぐるぐると目を回していた。


「ボクにはデイジーが何をしてるか全くわからなかったよ」

「ふふふ、甘いですねヨツバ。私にはデイジーの動きが目で追えていましたよ」


 そして、なぜか得意気に胸を張っているマリナ。しかし、そうか。今の動きを目で追えていたか。彼女の目もだいぶ育ってきている。デイジーと一緒に、そろそろ次のステップへ進んで良い頃だろう。

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