第23話 巨虫の群れ
「ツルギ君。君がこの最終防衛ラインを通りたいのなら、僕が許可しよう」
そう言ったリンドウに一人が反論する。
「リンドウ隊長。一般人を通すわけにはいきません」
「彼はAランク上位の探索者だ。手を借りられるならぜひ借りたい。今は非常事態なのだから臨機応変に対応しなければいけないよ」
「し、しかし」
「責任は僕がとる」
どうやら、彼は俺を通してくれるようだ。あまり揉めることなく先に進めるのは助かる。
彼は俺に近づいてきた。
「では、一緒に行こうか」
「ここに居なくて良いのか?」
俺が尋ねるとリンドウは後ろを向いた。そして部下たちに向かって言う。
「ここは副隊長に任せる。僕は前線に向かう」
「隊長。そんなことをして、よろしいのですか!?」
「臨機応変と言っただろう。僕にはその権限が認められている。それに僕がついていかなければ、ツルギ君はこの先の防衛ラインで止められるだろう。貴重な最高戦力をいちいち足止めさせてはいられないよ」
「そこまで言われるのでしたら……分かりました」
リンドウのおかげで道を塞いでいた人形たちが退いてくれた。なら、先を急ごう。
「リンドウ。ここに君が居てくれて助かった」
「恩を感じてくれるなら、今度は僕たちを助けてくれ。詳しい話は進みながらする」
俺たちは最終防衛ラインの先に進む。並走しながら、リンドウは俺に状況を説明してくれた。
「大型モンスターによって下層ゲートを破壊され、中型モンスターの群れが第二基地へと侵入してきている。現在、防衛ラインを三つ作り、この先で第一防衛ラインの部隊が先頭の最中だ」
走りながら第二防衛ラインが見えてきた。リンドウが叫ぶ。
「最終防衛ラインのリンドウだ! 状況が変わった! Aランク探索者と共に最前線へ向かっている! 道を開けてくれ!」
「り、了解!」
こちらの人形たちも先程と同じように道を開けてくれた。俺とリンドウは開けられた道を走る。
「正直、君が来てくれて助かった。管理局からは後方で防衛線を守るように言われていたからね。何か前線へ向かえる口実が欲しかったところなんだ」
「理由が無いと前線へ行けないのか?」
「行けないことはないけど、後が面倒になる」
そんな会話をしているうちに最前線へ到着した。銃剣を持った騎士甲冑たちが、巨大な甲虫の群れと戦闘している。甲虫は一体が並の人間よりでかい。二メートルはあるんじゃないだろうか。中型というには大きすぎる気もするが、バジリスクやロックドラゴンなどを大型のモンスターというなら、その分類も分からないではない。
甲虫と人形が戦闘する奥ではゲートに大穴が開いていた。あれは、甲虫たちが作った穴なのか? 穴からは次々に新たな甲虫が侵入してきている。その先の様子はよく見えないが、多くの気配を感じる。
騎士甲冑たちの中で、特に大柄な一人が一瞬こちらを見た。その人形は巨大甲虫よりも大きく、手には巨大なチェーンソーを持っていた。
「リンドウ! ここに何をしに来た!?」
低く渋い声が届いた。その声がチェーンソーを持つ人形から聞こえてきたことはすぐに分かった。その人形に向かってリンドウが叫ぶ。
「モクギリ君! 助っ人を連れて来た! Aランクのツルギ君さ!」
「君と呼ぶな! 俺は三十代だぞ!」
リンドウはその場で立ち止まって、走り続ける俺に言う。
「僕はここから援護する! 気を付けて!」
「任せろ!」
彼への返事をしながら前へ。
すぐにモクギリという人形の近くまで行き、俺も手近な甲虫を相手に戦闘を開始する。
ズバババッ!
次々に甲虫を切断していく。このモンスターたちは見た目ほど固くはなく、また動きも遅い。一体一体は大したことないモンスターだ。それだけに、こいつらがゲートに穴を開けたとは考えにくいな。
甲虫を斬って前進する俺にモクギリが追いついてきた。彼はチェーンソーで甲虫を切り裂きながら叫んだ。チェーンソーの駆動音にも負けないくらいの大きな声だ。
「あんた知ってるぞ! 最近話題のルーキーだろ!」
「ああ!」
「あんたの配信は初回から観てる! お手並み拝見と行こうか! ルーキー!」
彼は俺の配信を観ているのか。なら、いつも通りに俺の技を見せてやろう。
神滅流舞の型――斬斬舞。
ズババババッ!
舞を踊るようにして甲虫を斬って進む。俺が前進し、モクギリがついてくる。そうすると前線が押し進められていく。
「すげえぜ! あんたが来て一気に形成が傾いた! このまま群れを押し返せるぞ!」
モクギリが叫び、轟音が鳴る。俺の近くにいた甲虫に大きな風穴が空いていた。
「リンドウも頑張ってるな! 俺も負けてられねえぜ!」
どうやら今の轟音はリンドウによるものらしい。そういえば前に会った時に彼は狙撃がどうとか言ってたな。後方から俺たちを援護してくれているのだろう。
次々に甲虫たちが黒い灰に変わっていく。このまま押し進む!
「俺はこのまま穴の向こうまで行ってみる!」
「は!? 基地に侵入してきた甲虫を撃退できればそれで良いんだぞ!?」
「ゲートに風穴を開けたのはこの甲虫たちの仕業ではないだろう。ならば、犯人はきっとゲートの向こう側に居る!」
「なるほどな! なら、ここは先輩に任せろ! ルーキー!」
モクギリは話が早くて助かる。話が早いのはリンドウもだが、とにかく戦闘中に余計な話をしなくていいのは好都合だ。
新しくなった俺の人形も思うように動いてくれている。調子が良く、以前までより無茶な動きをしても平気なように思えた。おそらく、本来の俺の実力以上のものを、この人形は引き出している。カラスマさんからの話によれば最新型と同等の性能になっているそうだからな。この動きにも納得だ。
「ギアを上げていくぞ!」
さらに速度を上げていく。敵を見る前に刀を振り、敵を見た時には斬っていた。気配を感じると同時に反射で動く。その動きに甲虫たちは反応すらできない。向こうからすれば気付いた時には斬られているのだ。
「す、すげえ! まるで竜巻だ! 動きが追えねえ!」
後方からモクギリの驚愕する声が聞こえた。今の俺に彼では追いつけないだろう。
あっと言う間に周囲の甲虫は全滅し、俺はゲートの穴に向かって跳躍した。
このままの勢いで穴を通り抜ける! 邪魔な甲虫は全て斬る!
ズバババババッ!
そして――俺は風穴の外へ出た。その先には、さらに無数の甲虫たちが森の木々を覆いつくさんばかりに這いまわっていた。
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