第21話 大改造!
マリーとの戦闘後、俺はマリナたちと合流した。どうでもいいが、マリーとマリナって名前が似てるな。
すでに補助システムは元の通りに直っている。戦闘による被害はドローンが破壊されたことだけだ。
「ツルギ師匠、お疲れ様です。そっちはどうですか」
「ん、まあドローンが壊れるアクシデントはあったが、それ以外は問題なしだな」
「いや、師匠。ドローンが壊れるって大問題じゃないですか!?」
デイジーも何度も頷いている。問題かもしれないが、今ならドローンの購入くらいなら簡単にできるからな。それほど痛いダメージでもない。
「配信が途中で切れてしまったのは気になってたがな。そっちは普通に配信終われたのか?」
「こっちは大丈夫です。でも師匠。リスナーさんたちに無事の報告はちゃんとしておいた方がいいですよ。心配している人たちも多いでしょうから」
「そうだな。いつも使ってるSNSで報告しとくか」
マリナに言われた通りにSNSでの報告をおこなう。VRDの補助システムならネットにも接続できるから便利だ。
とりあえず、マリーのことは伏せておこう。企業とのもめ事なんてやりたくない。面倒だからな。それに、俺がブレインズ社と法的に戦って勝てるとも思えない。マリーがしたことくらい、簡単にもみ消す能力はあるだろう。
「ま、こっちはちょっとしたトラブルでドローンが壊れただけさ。カラスマさんに新しいドローンを頼んどこう」
「……何か気になりますガ、ツルギがそう言うなら帰りマショウカ」
デイジーは何か気にしている様子だ。でも別に相談する気にはなれないな。彼女たちに要らない心配をかけたくはない。
「じゃ、帰ろう」
「そうデスネ」
「了解です」
第二層の森から基地へ帰還し、俺はマリナたちと分かれてカラスマ工房へ向かった。
工房に入ると、今日も内部には物が多い。そして今日もカラスマさんは工房の奥に居るようだ。
「カラスマさん。居ますかー!」
まあ気配で居ることは分かっているのだが、一応呼びかけてみる。そうすると、すぐに奥からカラスマさんがやってきた。彼女は俺を見て嬉しそうに笑った。
「やあ、ツルギ君。人形の改造なら、もうちょっとだけ待ってほしいんだけど」
「いえ、ドローンが壊れてしまいまして、大穴に落としちゃたんです」
「あらら、それは大変ね。マシントラブル?」
「そんなところです」
「……ふぅん」
彼女の目が意味ありげに細くなった。今の会話だけで本当は何があったかは分からないだろうが、彼女は俺の発言を怪しんでるな。
「この前、チェックした時は問題なかったんだけどね。新しい物を買うなら安くしとくわ」
「良いんですか?」
「Aランク昇進のお祝いってことで、どう?」
「助かります」
俺の返事に対して彼女は頷く。その顔からはすでに意味ありげな表情は消えていた。
彼女に頼んで新しいドローンを出してもらった。工房にあったもので、かなり安くしてもらえたが、どうせお祝いならただにしてくれても良かったのではないかと思ったりする。が、それを口にはしない。カラスマさんからの好意であることは間違いないのだ。
「……それで、人形の改造の話なんだけど」
「もうちょっと待ってほしいんですよね」
「ツルギ君の人形を置いててもらえれば、必要な物が届き次第、改造を始めようかと思うんだけど、どうかしら?」
「なるほど」
どうしようか。今日はもう予定は無いし、ここに人形を置いてログアウトしてもいいな。そう思えるのはカラスマさんを信用しているからだが……どうするか。
少し悩んでから、ここに人形を置いてくことに決めた。
「了解です。カラスマさん、俺の人形をよろしくお願いします」
「任された!」
「じゃあ、こっちのことをマリナに伝えておきます。それが終わったらログアウトしますね。人形の改造が終わるまで、どの程度かかりますか?」
「明日の夜にはだいたい終わってると思うけど、細かいチェックとかする時間もほしいわ。明後日の朝には完璧に仕事を仕上げておくわよ」
ふむ。明後日となると月曜日だな。学校が終わったらチェックしておくか。
メッセージでマリナにこちらの事情を伝えた。彼女からデイジーにも自称の説明をしてくれるはずだ。安心して、その日は人形の接続を切った。
日曜日は道場でデイジーと剣の稽古をして過ごし、月曜日には教室でナオトにめっちゃハグされた。ナオトには俺の無事はちゃんとスマホで伝えたんだが、彼からすると、直接会って無事を確認するまで心配だったとのこと。おかげで同世代の男子にめっちゃ抱き着かれて気持ちが悪かった。まあ、心配してくれての行動だから良しとしよう。
そして学校で過ごした後、帰宅した俺はすぐに琵琶湖のVRDへ遠隔接続した。
真っ暗な視界。
『遠隔接続完了。カメラオン。通常モードで起動します』
瞼の開くような感覚……今、人形は……工房の奥にある手術台のようなスペースに寝かされている。伸びをするカラスマさんの姿が映った。人形の体でも伸びをしたくなったりするものなのだろうか。
カラスマさんの方へ首を向けると、彼女はこちらの動きに気付いた。
「お、やっと来たわね」
「機体の改造、終わってますか?」
「終わってるわよ。鏡出そうか?」
「お願いします」
台の上で上半身を起こしながら、彼女の動きを目で追う。彼女は部屋のカーテンに手をかけ、こちらを向いた。
「台から降りて、立ってみて」
「了解」
言われた通りに動く。彼女はそれを確認してから、カーテンをひいた。
カーテンが開き、鏡が現れた。そこに移っていたのは――赤色をベースに着色された猛々しい人形。武者鎧と二足歩行ロボットを融合したようなそれは、俺からの注文通りの外見をしていた。
おお! かっこいい!
「これが――俺の新しいVRD!」
「ベースは前と同じVRDだけどね。大改造の結果、ほぼ別物みたいな見た目になったわね」
「いや、かなり良いですよこれ。オーダー通りです!」
首を動かしたり、腕を動かしたり、その場で回ってみたりして俺の人形を隅々まで確認した。いいねいいね。見れば見るほど気分が高揚する。
「ツルギ君」
カラスマさんに声をかけられ、彼女の方を向いた。彼女は、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「実はね。ツルギ君に黙っていたことがあるのよ」
「なんですか?」
「それはね……ある機能をこのVRDに組み込んだの。他じゃ公開されてない。このVRDだけの超技術よ!」
超技術……いったい彼女は何をこの人形に組み込んだというんだ?
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