第10話 カラスマ工房二号店

 ゴーレムの出現エリアを抜け、俺たちは巨大な壁の前に居た。巨大な壁には、これまた巨大な扉があった。


「ツルギ師匠。ここが琵琶湖第二基地の入り口です」


 マリナがここのことを第二基地と言った。で、あれば地上にある建築群は第一基地と言ったところか。そんなことを考えていると壁の方から声が聞こえてきた。


『こちら琵琶湖第二基地入場ゲートです。三体のVRDを確認しました。ゲートを開きます』


 四メートルほどの大きさの扉が左右に開いた。なかなかの迫力だな。


 さて、今日の配信はここまでにしておこう。俺はドローンに向かって言う。


「また後日に配信する。ではな」


:あっさりしてるなあw

:ではな

:師匠! また!

:次の配信も楽しみにしてます!

:ヨツバさんを直してあげてね


 俺がヨツバを直すわけではないんだがな。配信を終了し、ドローンを背負う。そうしてヨツバに声をかけた。


「もうすぐ修理できるぞ」

「よかったよ……どうも接続の調子が悪くなってきてるみたいだ」


 下半身以外もどこかやられていたのだろうか。修理できる場所へ急いだほうが良さそうだ。こっちで待っているデイジーには悪いが、彼女との合流は後回しだな。


「マリナ。この基地でヨツバを修理できる場所は分かるか?」

「任せてください! この基地に来たことはありますから、ばっちりの場所に案内しますよ!」

「よし、案内してくれ」

「了解!」


 マリナを先頭に俺たちは第二基地を進んでいく。地上の基地と内部の様子はあまり変わらないように思える。ただ、こっちの基地は上ではなく下へ伸びているらしい。通路に置かれた基地内の地図によると二階建てのようだ。


 十分ほど移動し、マリナが脚を止めた。そこに飾られたネオン看板を見ると『カラスマ工房二号店』と書かれていた。な!? カラスマさんこっちにも工房を出してたのか。ということは前に俺とマリナで行ったのは一号店ということになるのだろう。


「ツルギ師匠、入りますよ。早くヨツバを見せないと」


 看板を眺めているとマリナに急かされてしまった。心なしかヨツバはぐったりしてきているように思えた。俺は頷き、工房に入っていくマリナに続く。


 工房の内部は


「こんにちはー。お客さんだよー」


 マリナの声に反応するように、工房の奥から人形が現れた。その人形を見て俺は驚く。茶髪に赤いメッシュを入れた美人。カラスマさんの姿がそこにあったからだ。


「か、カラスマさん!?」


 その人形を操作しているのは別の人物かもしれない。そう思ったのだが。


「ツルギ君久しぶり。元気そうだね。カラスマ姉さんだよ! 脚の調子はどう?」


 彼女は間違いなく俺の知っているカラスマさんのようだった。


「……どうも。脚の調子はすこぶる良いです」


 驚いている俺の前にヨツバを抱えたマリナがずいっと出てきた。


「カラスマ姉さん。患者だよ」

「あら、その子。派手に体を壊したわねえ。修理代は結構高くなると思うけど大丈夫?」


 その点は問題ない。俺はマリナの後ろからカラスマさんへ言う。


「お金ならあります」

「ツルギ君が払ってくれるならそれでも構わないわ。支払いはお金でもクリスタルでも良いからね」


 彼女の言葉に頷いて了承する。さて、とりあえずこれでヨツバを目的の場所まで送り届けることができたな。


「修理にはしばらくかかるけど、どうする? ここで待ってる?」


 カラスマさんに訊かれて俺は「待たせている人が居るので」と応える。デイジーをいつまでも待たせているわけにはいかない。目的を果たしたのなら彼女の元へ急ごう。彼女に合流する場所のデータは貰っている。


 その時、ヨツバが俺へ顔を向けた。


「ツルギ。良ければ連絡先を教えて欲しい……僕は……君にお礼をしたい。そうしないとボクの気が済まない」

「分かった。そういうことなら連絡先を交換しよう。だが、今は人形を修理することを考えてくれ」

「……うん、そうだね」


 連絡先の交換の後、マリナの手からヨツバの上半身がカラスマさんに渡された。


「修理代は後で請求するから、指定の口座に振り込んでね。直接ここまで払いに来てくれても良いわよ」

「分かりました。それでは」

「ええ、行ってらっしゃい」


 俺たちは工房を後にした。そしてまた移動を開始する。


「補助システム。デイジーから指定されたポイントをマップに表示してほしい。六十六番ガレージだ」

『了解しました。六十六番ガレージへのナビゲートを開始します』


 俺の言葉に反応するように、視界には第二基地のマップとナビゲートが出現した。これで迷うことなく目的地へ行くことができるだろう。と思っていると。


「えぇ!? デイジーって! 女の子の名前ですよ! 師匠が合うって言ってた友達は、もしかして女の子なんですか!?」


 俺の横を歩きながら、オーバーなくらいに驚くマリナに、俺は呆れながら応える。


「そうだが? 女の子だって言ってなかったか?」

「言ってませんでしたよ。私という美少女弟子がありながら、他の女のことも仲良くするなんて、私が嫉妬の心に目覚めるかもしれませんよ!?」

「いや、君は嫉妬とかそういうキャラじゃないだろ」

「それはそう。私の本心を見破るとは、やはり只者ではありませんね」


 勝手に驚いて勝手に勧進してる。まあ、そんな彼女と一緒に居るのは楽しい。


「で、デイジーちゃんって美少女なんですよね。彼女のこと顔が整ってるって言ってましたもんね。西洋人の美少女! はぁーそれはそれで良し!」

「何が良しだよ。まあ、彼女とは仲良くなれると思うぞ」


 そんな話をしながら歩くこと十五分ほど。俺たちは目的の六十六番ガレージに到着していた。この辺のガレージは一つ一つが大きい。俺が地上に持ってる八番ロビーのガレージとは比べ物にならないくらいに大きい。ブルジョワな邸宅みたいな感じがする。


 そして、目的のガレージで俺を待っていたのは、美少女……というよりはニチアサ番組に出てくるヒーローみたいな見た目の人形だった。ヒーローみたいだがボディラインは出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいる。セクシーだ。


「ワーオ! ツルギ! よく来たネー!」


 黄色の女ヒーローは俺に会うなり、いきなりハグをしてきた。彼女の大きな胸の感触がしっかりと伝わってきた。ハグをしながら彼女は俺に言う。


「ツルギ、ガレージの中に案内するネー。簡易的なドージョーもあるデスヨ」


 ドージョー! それは気になるな。

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