第17話 1989年11月29日 神戸
神戸の街を訪れるのは15年ぶりだった。
初めてここに来たのは大学二年の時、ゼミの友人と共に
僕が神戸を訪れたという事は・・・東京にいる五人の警察官。犯罪の片割れの候補たちがまだボロを出していないことの裏返しである。彼らには密かに公安チームが貼り付き、金沢にも同じように人が貼り付いている。盗聴もセットした。確かに山本チームは全部で11人、精鋭とは言え人数に限りがあり全てをカバーできているわけではない。だが、少しでも動きがあれば勘の良い警察官ならば気づくことがある。しかし、魚が全くいない池で釣りをしているかのように彼らには「あたり」の気配さえ無かった。
神戸に行ってみます、と言った時、鎌田さんは複雑な表情で頷いた。
「山形や奈良はどうする?」
「相手に会う理由が難しいですね。取りあえず神戸は休暇をとって、嘗ての上司を訪問するという形にします」
「そうだな。山形や奈良の調べ方は僕も考えておく。まあ、柴田さんが対象という事は万に一つもないだろうが、消せるものなら消して憂いをなくすのも・・・いや、これは先入観だな」
鎌田さんは呟いた。
「気持ちは僕も同じです。ですが柴田本部長に会うに当たっては先入観のないようにします。で、これを宜しくおねがいします」
用意した休暇届けを提出すると、
「この忙しいさなかに休暇というのも却って勝手が悪い。柴田さんは君がこの件に関わっているのかご存じないだろうから、先方には休暇と言って会いに行けばいいだろう」
と押し返してきた。その上で
「他の連中にも僕が命じた機密行動といって構わん。業務証明書は使うな。交通費と宿泊費はこっちに回せ。ただ、出張手当まではだせん」
と言った。ありがたく好意を受ける事にした僕は翌日の新幹線の切符を買うときに、「のぞみ、ありますか」と思わず口にしてしまった。駅員は怪訝な顔で、「だいじょうぶですよ。ひかりでよろしいですね」と答えた。僕の「のぞみ」は3年後に走ることになる列車の名前、そして駅員の「のぞみ」は「切符がとれることに対する『のぞみ」だった。
新神戸から県警本部までは3キロ程度、三宮経由でタクシーで10分もしないうちに到着した。前もって連絡を入れて置いたので、受付にいくとすぐに本部長室に通された。県警の建物は6年後におきる大震災を機に建替えられ、2年後に23階建ての高層ビルに生まれ変わるが、この時はまだ旧庁舎である。
本部長室に入ると、懐かしい顔がに僕を迎えてくれた。東京を出たときより日焼けしているのはこちらに来てから趣味のゴルフをよほど熱心にやっているのだろう。生来、
「局長、おひさしぶりです、あ、申し訳ありません、本部長」
「おう、久しぶりだな」
僕の呼び間違えなど気にしないかのように柴田本部長は答えた。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
「心にもないことを言うな。こっちに島流しに遭ってから、誰も見向きもせん。久しぶりに東京者に会えると楽しみにしていたよ」
そう言うと、柴田本部長はこっちこっち、とソファに手招きをした。僕がコートを手に座ると局長自らそのコートをハンガーに掛けてくれた。
「どうだ、東京は?」
ソファの反対側に座ると柴田本部長はにこやかな笑みを浮かべ、尋ねてきた。
「ええ、そこそこ忙しくしております」
「そうか。警察が忙しいというのはあんまり良くないが、活躍しているのは結構なことだ。こっちはこっちで忙しいが、東京と違ってどちらかというと粗暴なやつらが幅を利かせているからな。頭を使う仕事が少なくて困る」
神戸は山口組の本拠地で、当時は山一抗争が終結したばかりであった。神戸港の港湾事業が発祥の暴力団は当時、日本中の暴力組織の頂点にあり、その一挙手一投足が日本中の警察の
「大変なところですね」
「警察も場所によって、重点が少しずつ異なるが、ここと福岡は4課がもっとも忙しい。公安とか2課のような知能より体力勝負だな。俺の最も苦手な分野だ。どちらかというとインテリなんでね」
「そんなことはないでしょう」
厳つい顔と体つきを見ながら茶化すようにそう答えると、わざわざ立ち上がった本部長に思いっきり脇腹を叩かれた。
「何を言うか。ところで君が以前、やっていた研究が役に立っているらしいじゃないか、あの宗教団体の逮捕、君も関わっているのか?」
「・・・」
肝心なことを先に切り出されたので僕は柴田本部長の顔をまじまじと見たのだがそこに陰のようなものは見あたらかった。
「覚えていてくださいましたか」
「うーん、君の研究を読んだときはまあ、左翼とかに比べて宗教がそこまで激越になるのかと思ったがなぁ。歴史的に日本でも西洋でも戦争や国内の争いは宗教が大きな原因だという指摘はあたっているようにも思えたが・・・まさか、今になって宗教がそんな暴力的な性格を持つとは思っていなかったからなあ。その意味では君は
「ありがとうございます。とはいえ僕は直接関わってはおりません。警視庁が主導しています。一度照会があり、アドバイスはしましたが」
「そりゃあ警視庁が動くのが本筋だな。しかし、あのニュースを聞いたとき、真っ先に思い浮かべたのは西尾の顔だった。他に宗教団体に関心を持っている人間は警察庁にも警視庁にもいなかったからな」
こちらから持ち出さなくてもその話題を振ってきたことは、一つのアドバンテージである。犯罪に関わる人がそれに関する話題を自ら話し出すという事は滅多にない。だが、相手は骨の
「その件に関連してこちらに用事でもあるのか?」
柴田本部長は尋ねてきた。探るような目つきは怪しいと言えば怪しいが、東京で事案を報告にいったさいも、いつもこんな目つきだったことを思い出す。
「いえ、アドバイスしただけで直接関わっているわけではないので、こちらにきたのは本当に休暇です。昔から一度有馬温泉に来てみたかったので」
「ああ、あそこはいいぞ。ゆっくり骨休みをすればいい。まさか・・・いい人と一緒か?」
にやりと笑う。
「いえ、残念ながら一人です。今度来るときはそういう方と一緒に来れれば良いんですが」
僕の嘘が通じたのか、そうでないのかは分からなかったが、柴田さんは、そうだな、早く嫁さんを貰った方が良いぞ、と警察官にお決まりのフレーズを言ってから、
「しかしあの件はこちらにも全く無関係といえるか分からないからな。全国的に展開しているようだし、知っている範囲で良いから俺にもその大光輪という組織に関してレクチュアしてくれよ。休暇中で申し訳ないが」
と話を戻した。
「確かに全国的な広がりがあるようですね。僕も改めて知ったのですが幹部の中に大阪大学の大学院を卒業した人間と、京都大学に在籍している者がいました」
「そうか、だが本部は東京にあるのだろう?彼らはこちらでも活動していたのか?」
「本部は東京と静岡ですね。彼らもそこで住んでいたようです。ですが、支部は日本中にありますし、海外にもロシアなどに進出しているようです」
「そうか・・・。赤軍なども日本だけでなく海外へ進出したが宗教も同じだな」
柴田さんは眉を
「国内で
「ですね・・・」
僕は何気なくそう答えたのだが、考えてみればその時の柴田さんのコメントをもう少し深く考察してみるべきだったのかもしれない。
「警視庁は捜査を広げるのかね?彼らが関わった犯罪はそれ以外にもあるのだろうか?」
柴田さんの興味はこの件が自分の管轄であるこの兵庫県にも及んでくるか、ということのようだった。
「どうですかね。信者の家族から捜索願がでているケースがありますから、その幾つかが犯罪に該当する可能性はあります。その件は全国に
「確かに、だがそれはどの宗教団体にもある話だな」
「ええ」
「ところで、その殺人は主宰者の、ええと司馬という人間の指示によるものなのか?まだあの男は認めていないのだろう?」
「認めていませんが、おそらく間違えありません。」
そう言いつつ、僕は柴田さんの様子をじっと眺めていた。五人を逮捕した翌日、司馬は逮捕され勾留、明後日が延長された勾留期間の最終日だが、起訴されることは確実だ。弁護士の赤坂は不当逮捕だと騒いでいるが、橋田の供述がある以上、司馬の身柄釈放は絶対にない。
「だろうな。そんな犯罪を犯すに当たってトップが知らないわけがない」
そう答えた柴田さんの表情は確かに純粋な警察官のものだった。この人は、大光輪に関わっていない。その瞬間、僕は確信した。
「せっかくですので先輩のお顔を拝ませて頂いた序でに先輩のお知恵も少し拝借できないでしょうか?」
そう頼むと
「拝むような顔でもあるまい」
そうは言いつつも、柴田本部長は満更でもない表情をした。
「で、なんだ?俺が助けになるようなことでもあるのか」
「おっしゃっていた通り、これまで大光輪というのはあくまで通常の宗教団体として存在してきました。その意味では誰でも信者になる可能性があるということです」
柴田さんは
「それはそうだろうが・・・」
「ということは、警察官の中にも信者がいる可能性があるということになります」
「・・・?」
柴田さんは怪訝そうな表情から、一転して険しい表情に変わった。
「内部に浸透している、ということか?」
「いえ、そう決まったわけじゃありません。ただ、その可能性は否定できないでしょう。その場合、柴田さんならどうするのが良いと考えますか?」
警察組織への浸透・・・それは犯罪集団のみならず左翼を中心とした政治勢力などがもっとも関心のある権力への対抗手段である。中南米やアジア諸国のいくつかでは、犯罪集団が警察に浸透して、警察自体が犯罪を行っている国も少なくない。日本ではそんなことが起きていないと思っている人は多いが実際には、そうしたケースが起きている。表沙汰にならないだけだ。とりわけここ兵庫県や広島県などの中国地方や、九州などでは暴力団による警察への浸透は昔から活発である。それだけではない。柴田さんが局長であった時代には公安への左翼の浸透が実際に起こっていた。
「難しいな。浸透というのは通常、既に対立したものから行われることが多い。暴力団や左翼からの浸透は意図的に時間を掛けて行われる物だろう。だが、西尾が言っている事が事実なら、それは対立した組織が行うものではない。単に信者になっただけなのに、巻き込まれる形で浸透した形、ということになる」
「その通りです」
「だが・・・例えそうであってもその警察官には信者である事を隠す理由がないはずだ。そして一番良いのは上司に報告した上で信者を脱退することだろう」
「そうですね。しかし最初はそうでも、ある程度の時間を掛けて取り込まれていったとしたら・・・。その過程で隠す理由が出来ていったとすれば?」
僕の言葉に柴田さんは考え込んだ。
「そうだな・・・それはあり得る。暴力団に取り込まれる警察官がいつの間にか、なあなあの関係になり、利益を供与されていくのと同じだ。暴力団と違って、最初の内対立が明確でないだけに取り込まれる可能性は高いだろう。この管内でも暴力団に取り込まれた警察官は何人も居る。警察官も人間と言えば人間だから、な」
「そうですね。警察官というのは必ずしも恵まれた環境にいるとは言い難いですから」
「うむ・・・」
柴田さんは暫く沈思していたが、目を開くと
「西尾、お前本当に休暇でここに来たのか?」
と尋ねてきた。
「ええ、もちろんです。温泉へ」
平静を装って答えたが、一瞬息が止まる思いがした。
「ふん、そうか・・・」
柴田さんは距離を測るような目で僕を見たが、すぐに相好を崩した。
「すいません。変なことを相談してしまって」
言い訳のように言った僕に
「まあいい。気にするな。今後相談があるときにはなんか手土産でも持ってきて貰わないとな」
柴田本部長は冗談ぽく答えた。
「そうですね。申し訳ありません。今度来るときはきっと」
「久しぶりに会ったのだから、夕飯でも一緒にしたいところだが、今日は商工会議所との集まりに呼ばれている。すまんな」
「いえ、お気に掛けて頂いてありがとうございます」
「今度は週末に、ゴルフバックと一緒に来い。いいゴルフ場があるんだ。少しは上手くなったか?」
「いえ・・・」
以前、部門のコンペに参加したときに柴田さんの組で一緒に回ったときのことを覚えているようだった。あの時は散々なスコアで、コースを回りながら色々と教えを受けたものだった。
「じゃあ、もう一年、みっちりと練習してからやってこい。その時はアゴアシ付きで奢ってやるから」
「よろしくお願い致します」
僕は頭を下げた。
その夜、僕は小島という兵庫県警の警部と、泊まっているホテルで食事を共にした。小島は警備部一課に所属して、彼が警大の警部任用科にやってきた時、鎌田さんに引合わされて府中の飲み屋で一緒に食事をしたことがある。僕より五つ年上ではあるが、一見すると大して歳が変わらないように思えるほど若作り・・・というか童顔で、公安には滅多にいないタイプの人間だった。鎌田さんとどういう経緯で知り合ったのかは、どちらも口にしないので、僕は聞きもしなかったが、歳が上なのになぜか僕には敬意を表してくれる、不思議な男であった。
「おひさしぶりです」
そう挨拶した僕に
「いえ、お元気そうでなによりです」
小島は丁寧な口調で答えた。どちらが年上なのか判然としない会話に僕は違和感と苛立ちを覚えるのだが小島は一切頓着しない。ホテルのレストランからは神戸港の夜景が美しいのだが、冬のせいか景色は閑散としていた。
「こちらには、どのような御用事で?」
一応、温泉旅行で来ているんだけどね、と答えたが小島はにやりと笑っただけだった。
仕方なしに、誰にも言っては困ります、実は、といって僕は東京での事情の概要を話した。柴田さんに疑いを持っていることは内密にして、町屋など関西出身の信者が昔、どんな活動をしていたのかを調べにきたのと、万が一のために大光輪と関係を持つ警察官がいないか、を知りたいと率直に言った。
「そうした兆候が東京の方にあるのですか?」
「ないとはいえないんです。実は身柄を拘束したうちの一人が警察からの情報が組織に流れているという話をしていまして」
「組織側で誰が窓口なのかは分からないんですか?」
「今のところは・・・。身柄を押えた中にはいないのです。今主宰者である司馬に口を割らせようとしているのですが、のらりくらりと」
僕は嘘をついた。
「だから、公安がでているんですね。監察には?」
「特定したらもちろん監察にあげますが、今のところは。まだ疑いの段階でしかないので」
「そうですか」
小島が僕の言葉を信じているのかどうかは分からなかった。
「鎌田さんから小島さんと会ってくるといい、というアドバイスがありました」
「なるほど。実は自分、鎌田さんから昔、西尾さんが書いたというレポートを見せていただいたことがあります」
「それは・・・?」
「ええ、宗教団体に関するレポートですね。以来、宗教団体に関してもできる限り情報を収集しています」
「そうだったんですか」
鎌田さんがそんな事をしていたとは聞かされていなかった。それは彼の深謀遠慮で、碁の好きな鎌田さんが打った1つの布石だったのだろう。そんな想いを巡らせた僕に小島さんはちらりと視線を送ると、
「県警の中にもさまざまな宗教の信者がいます。或いは家族が信者という警察官も。大光輪にもいますね」
「県警に・・・信者は多いのですか?」
「いえ、それほどではありません。大光輪に限りますと、実際に信者と呼べる人間は本部にはいませんが、管轄の中には数人。家族が信者なのを含めると十人ほどいます。他の新興宗教と比較してそれほど多いわけではありません。むしろキリスト教系で海外の団体に属する人間の方が多いし、幹部クラスにも浸透している。大光輪はそんな事はなくて本部や幹部にはいないんです。逆に交番勤務とかだと、何かと地元の人間関係に巻き込まれがちでしてね」
「キリスト教系だと幹部クラスにもいるのですか?」
「そうですね。政治家でも関係をもっている人間がいますから、不自然とはいえませんが・・・。ですがこちらの方はかなり政治家に浸透しているので多少気にして動向を探っては居ます」
「幹部というと・・・どのクラスでしょうか」
「県警の中では課長クラスに二人。本部ですね」
「なるほど・・・。逆に言えば大光輪は幹部に浸透していない?」
「それが西尾さんのお知りになりたいことですか?幹部クラス・・・」
ふと、顔を向けた小島に悟られないように僕は手を上げて水のお代わりを注文した。
「いや・・・」
小島さんはふふ、と笑った。「そんなこと」が聞きたいのだと承知しているという表情だった。
「その心配はしなくても良いと思いますよ。ところで、ここのステーキは評判通り美味しいですね」
「そうですね」
僕は頷いた。
「西尾さんはいつまでこちらに?」
「明日朝には発ちます。東京に用事がありますので」
「もしかしたら、重大な発表があるのですか?」
小島は、あどけない、とでもいうような表情で僕をみた。
「特にそういうわけでもないが、詰めなければならない件がありましてね」
公安のスタッフには小島のように抜け目なく、勘の鋭い人間が多い。その点では、上級職を突破したような人間よりも遙かに上を行く。敵に回すと怖いのはむしろこうした小島のような男である。
「そうですか、何かお役に立てる事があったらいつでも言ってきてください。このステーキ代に見合う以上のことはいつでも致しますよ」
「それは・・・心強いです」
「今のところ、こちらでご心配なさることはないと思います。兵庫だけでなく、大阪や京都でも」
「そうですか」
ということは小島は京都や大阪にも網を持っているという事である。
「近畿の他の県ではどうですかね」
「例えば?」
「和歌山、奈良、滋賀といった」
「滋賀だけは・・・。まだ。でも他は問題ないと思います」
小島は微笑した。
「まあ、私を信じて頂ければ、ということですが」
「もちろんです」
僕は皿に残ったステーキの最後の一切れをフォークに刺すと口に運んだ。
「お望みでしたら、大光輪に関係している職員のリストをお送りしましょう」
「お願いできますか」
「ええ、もちろん」
小島は頷いた。
「まあ、こちらにはその程度の人間しかいないのですけど、少し気になることはあります」
「気になること?」
「その人間たちなんですがね、互いに無関係という事でもないようなのですよ」
「どういう事ですか?」
肉を無理矢理飲み込んだ僕の問いに小島は少し考え込んだ。
「実は、そのうちの数人が相互接触した形跡があるのです」
「互いに知り合いという事ですか?」
「いや・・・そういう訳でもない」
小島は少し歯切れが悪くなった。
「気になっているのですがね、実は解明し切れていないのです。まさかこんな大事になるとは思っていなかったので、プライオリティは高くなかったのですけど。それに東京であんな事件が起こった後、一時的に急に互いの行き来が激しくなったのですが、突然、全く動きがなくなったので。奇妙に思えるのです」
「ふむ」
「どうもね、どこかに彼らを纏めている人物がいるのではないかと疑いを持ち始めたばっかりなんですが、そこまで調べきれていません」
「つまり彼らは連絡を取り合っている、その中心に誰かがいるという事ですね」
「ええ」
小島は不満げに眉を顰めた。
「それはどうもここら辺ではない、別の地域にいるのではないかと思うんです」
「別の地域・・・」
「例えば東京とか、或いは福岡、名古屋や仙台かも知れない。警察は地域主義ですが、宗教はそんなことはありませんからね」
「なるほど」
僕は頷いた。
「つまり、連携を取っているということですね。だとすれば、彼らを締め上げればその先にいる人物を吐かせることはできる、ということでしょうか」
「それはどうですかね」
小島は首を捻った。
「彼らはその人物の正体を知らないかもしれません」
「そんなことが可能ですかね?」
僕は疑念を呈したが、小島は徐に頷いた
「大いに可能性があると僕は思います。そもそも、こちらで勧誘された人間はもともとその人間に結びついているわけではなく、個別に一本釣りされた人間たちですから。その後に警察幹部の中にやはり信者がいると知れされてネットワークが後からできた、と僕は踏んでいます。そのネットワークの核の部分が見えてきません」
「そうですか。では彼らはどのように連絡を取り合っているんでしょうか」
小島は僕を見た。
「彼ら同士は電話でネットワークを組んでいるようですが、その先がどういう形になっているかはまだつかめていないんです。これから早速調べてみますがね、ご期待に添えるようなスピードでできるかどうか・・・。恐らく階級で分断されているとは思いますが、関西にはその一番下の階級しかいないようです」
「分かりました。でも、無理はしないでください。こちらが気づいていないと思わせておきたいですから」
僕の言葉に小島は頷いた。
「もし何かがわかりましたら、連絡します」
「よろしくお願いします。連絡先は携帯で」
番号を記したメモを渡すと、小島は受け取ってその数字を暫く眺めた。それから徐に破り捨てると灰皿の中に置いて火を付けた。小さな紙片は体をよじるようにしてすぐに燃え尽き、小島はペンで燃え尽きた紙片を崩した。
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