大好きな女の子が僕の心を読んで性癖にぶっ刺さることしてくる場合どうすればいい?
わわわわっふる
心が読める女の子の過去
あー、可愛いな…
好き。
そんなことを考えて目の前の美少女を舐め回すように眺めていると、彼女の耳がほんのり赤くなっているように感じた。
唐突だが僕の通う学校には絶対零度の姫なんて厨二病レベル100みたいな二つ名がある美少女が居る。彼女は毎日というレベルで告白されている。だがそれを粉砕していく冷たい対応と、普段の無表情な様子。それらからつけられた二つ名らしい。
まあ、その、好きなんだ。彼女が。
ほんとにめちゃくちゃ好きなんだ!!!
普段無表情で感情なんてありませーんみたいな対応してるのに、可愛いものみると一瞬頬が緩むんだよ!直ぐに無表情に戻っちゃうけどさ!!
歴史の授業がやってるらしいけど、僕の耳には全く届いてなかった。ごめんね、おじいちゃん先生。
あー好き好き好きほんとに好き!!恋人になれなくてもいいから友達になりたい!!いや嘘!恋人になってめちゃくちゃイチャイチャしたい!!無表情な彼女をいきなり抱きしめて赤面させて、それをイジって更に顔が赤くさせちゃったりなんかして、うおおおおおおおおおお!!!
…落ち着け、落ち着け僕。
いくら席替えで憧れの大好きな人が目の前の席になったとしても、いくら彼女が僕の性癖ドストライクだったとしても、平静を忘れては行けない。
ふぅ、ふぅ…落ち着け落ち着け落ち着け煩悩退散煩悩退散煩悩退散
心なしか耳を赤らめている目の前の彼女は、そっとこっちを振り向いてきた。え?なに?いきなりどうしたの?というかいちいち可愛いね。好きだよ。
「…後で校舎裏、きて」
?!?!?!
「え、あ」
僕は何も返すことが出来なかった。言いたいことだけ言った彼女は、返事も待たず直ぐに前を向いてしまった。
大好きな人に話しかけられちゃった!!え!どうしよ!好き!
校舎裏にこいって言われた??どういうこと?!え?これ、告白ぢゃん!!え?!両思いぢゃん?!
あー好き好き好き好き好き
この日の午前中は全く集中できなかった。
/////
私が無表情で絶対零度の姫なんて名前を付けられることになった経緯を話そうと思う。
いつからだろうか、人の悪意に敏感になったのは。
私は昔から人の感情に敏感だった。
初めはそう、幼稚園年長くらいの時。私には二人の幼馴染がいた。一緒にお絵描きをしたり、一緒にお菓子を作ったり。ずっと一緒にいるので、よく『 3人は兄妹みたいだね〜』なんて言われたりした。
いつもの様に3人で遊んでいると、その内の1人が何かを思い出したのか、ポケットをゴソゴソと漁り、辺りをキョロキョロと見回す。しばらくして、泣きそうな顔になって叫んだ。『ぼくのはんかちがない!』よく通る彼女のソプラノボイスは、私たちのクラス全体に響き渡った。
人の感情に敏感だった私は、怪しい反応をしている女の子を直感で見つけることが出来た。
皆が『 だいじょうぶ?』 『 なくしたの?』
なんて騒ぎだす中、私はその女の子に向かって一直線に歩みを進めた。
「あんたがはんかち取ったんでしょ!」
私はその女の子を糾弾するように叫んだ。
クラスの皆が、ザワザワとしながら私たちを見る。
「は?いきなりなに?とってないわよ!」
もちろんその女の子も反論した。
「とったでしょ!」
「とってないっていってる!!」
証拠は私の直感だけで、今思えば短絡的な行動だったとわかる。だけどその時の私には、彼女が犯人だということに絶対の自信を持っていた。
終わりのない押し問答を繰り返してると唐突に、言葉が重なって聞こえるようになった。
「わたしじゃないっていってるでしょ!!(なんでわたしってわかるの!!)」
口の動きとは全く別の言葉が脳に流れ込んでくる感覚。その時はあまり気にしていなかった。
「どこにかくしたのよ!」
「だからどこにもかくしてない!!(ろっかーのなか!!)」
その後、ハンカチは彼女のロッカーの中から見つかった。どうやら私と仲の良かった男の子のことが好きで、意地悪をしてしまったらしい。この事件がきっかけで、私は人の心が読めるんだと分かり、クラスで英雄のよう崇められるようになった。
だが小学校に上がり、皆が成長していくと私は避けられるようになって言った。
『あの子に近づくと心覗かれるらしい』
そんな噂が流れるようになったのだ。実際本当のことだった。人は誰しも、他人に言えないないような秘密が1つか2つはある。そんな秘密に無断で押し入ってくるのだ。避けられて当然だった。
(こっち来んなよ覗き女)
(死ねよブス!)
(気持ち悪い)
幼稚園の時とは180度違う扱いに、私の心は急転直下、絶望とも言える状態に陥った。聞きたくもないのに流れてくる誰かの心の声。それに苛まれる日常。私への悪口が酷く耳に残るようになった。
ただでさえ追い詰められてる中で、大好きだった幼馴染の1人が引越しすることになった。
『わすれない!!絶対わすれないからね!!』
今思うと当然のことだったのかもしれないが、様々な状況が重なってわたしは心を病んだ。カウンセリングなんかも受けたが、大人は心が読めるなんて信じてくれない。結局、予定調和の様に私は不登校になった。
そんな状況下で、私が唯一縋れるのは残ったもう1人の幼馴染だけだった。ただその幼馴染は歪んでしまっていた。いつもヤンチャで、もう1人の幼馴染がそれを宥めて。それがいつもの流れだったが、それが失われたことで彼はどんどん冗長していったのだと思う。
『キミは私の事を見捨てないでくれる…?』
『ああ、当たり前だろ(お前は顔が良いからな)』
私は彼の心の声に聞こえないフリをして、ひたすら彼に依存した。私がこんなだから彼が歪んでしまったのかもしれない。
『犬の真似しろ』
『這いつくばって俺の椅子になれ』
『お前を拒絶しないのは俺だけだ』
そんな環境に置かれていたのだ。心はとっくに壊れていて、それがだんだん日常生活に現れるようになった。そうしてようやく事態の重大さに気づいたのか、両親は私を連れて遠くへ引っ越した。
どこかおかしいと気づきながらも、私にとっては大切な幼馴染だった。しかし幼馴染という心の拠り所を2回も失った私は、僅かにあった希望すら潰えた感覚に陥った。
引っ越した先でも結局、学校に行けなかった。
だがそんな中で光明が見えた。感情の起伏が無くなると、心の声が聞こえないことに気づいたのだ。
それについて私は研究を重ねた。初めて心を読んだ時のことを思い出すと、怒りの感情に支配され、スイッチが切り替わるような感覚になっていた。それと逆のことをすればいい…そう結論に至った。
中学を卒業する年齢になった頃、私は完全に心の声を断絶することに成功した。感情を殺すという代償を伴って。
ただ数年間親としか話さなかったからか、コミュニケーションが信じられないほどに苦手になっていた。でもそんなの些細なことで。
高校生になったら誰も私を知らないような遠い場所に行って、それで、やり直すんだって、
希望の光が再び私に宿った。
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