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咲子を家を送ってから、夕焼け色に染まる空を見ながら、文は砂浜の上を歩いた。
文お兄ちゃん。絵は描かないの?
咲子の声が聞こえる。
どうして絵が描かなくなってしまったんだろう? と文は思う。
子供のころから絵を描くことが大好きだった。
指が止まったことはない。
目はつねに美しいものを探していた。
心はずっとわくわくしていた。
自分の描く絵が好きだった。
描けば描くほど技術も伸びるし、絵を見る人も上手だねって褒めてくれた。
嬉しかった。
楽しかった。
文は自然と絵描きを目指すようになり、小学生、中学生、高校生とずっと絵を描き続けた。
難しいと言われる難関の美大にも受かることができた。賞のようなものも、いくつか受賞した。
友達も、恋人も、出会うきっかけはすべて絵を中心としていた。
これから先、僕は死ぬそのすぐ直前までずっと絵を描き続けていくのだろうと思っていた。
そんな大好きな絵が描けなくなった。
ある日、突然。
描けなくなった。
原因はよくわからない。
それはある日、本当に突然やってきた。
その日から文は一人、広い世界をさまよう(なんの力もない)孤独な迷子になった。
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